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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode259-3 お互いが見ていること、知っていること


 何か言いたそうに、けれど口を噤んだたっくんを視界に映してから立ち上がる。


 たっくんの近況も判り癒しパワーも補充でき、裏エースくんや徳大寺のことも知れた。もうここに留まる理由がなくなってしまった。

 緋凰へと振り向く。


「帰りましょう、緋凰さま。拓也くん、今日お会いできて良かったです。中々(まま)なりませんが、それでも久し振りにこうやってお話しできて、嬉しかったです」

「僕も」


 思いの外、強い声だった。


「僕も会えて良かった。元気な姿も見れたし、……あの頃から全然変わってないんだなって、安心した。花蓮ちゃん。紅霧学院の受験、頑張って。応援してる」

「……はい! ありがとうございます。それでは、また」

「うん、またね!」


 お別れの挨拶をし合ったが、たっくんは最後ちゃんと外まで付いてきてお見送りしてくれた。

 緋凰と共に車へ乗り込み、窓から姿が見えなくなるまで手を振り続けて――――私は発狂した。


「もおおおおぉぉぉっ! 何っで私と拓也くんが気まずくならないといけないんですか!? おかしいです! こんな世の中間違ってます!!」

「確認しなきゃ良かったじゃねぇか」

「せずにいられる訳がないじゃないですか! だって本当に心配だったんです! 香桜のお友達のように、私の可愛い拓也くんが虐げられていたらどうしようって!」

「お前のじゃねーだろ宇宙人」


 ぐああ……!と頭を抱えて唸り声を上げる私を横目に、「拓也の前じゃ言えなかったが、」と前置きして何かを話し出そうとする緋凰。しかし私はその発言の一部を聞き咎めてムッとする。


「どうして貴方、拓也くんのことを名前で呼び捨てにしているんですか。柚子島くんから始めなさい」

「名字より名前の方を先に知ったら、普通に名前呼びになんだろ。つーか本人が何も言ってこなかったじゃねぇか。お前にどうのこうの言われる筋合いはねぇな」

「キイィッ」

「話戻すぞ。どっちのことも知らねぇ話を聞いただけの俺からしたら、やっぱ何だかんだで付き合いの長ぇお前の方に傾くんだわ。で、その上で感じたことを話す。女の方は男子校に行った男のこと、自分への当てつけって思ったんだろ?」


 確認するように問われ、頷く。


「はい。そう言っていました」

「上流階級っつーのは表面上の付き合いばっかで、本音での付き合いなんかあんまねぇと思っている。足の引っ張り合いだってザラだ。だから俺らのような他と違う頭一つ抜けた家格の人間は、下にいる奴らの人間性を正確に見抜かなきゃなんねぇんだよ。解るだろ」

「……はい」


 過去に見抜けなかったことで私ばかりか、未来で他の人を巻き込んで、とんでもないことが起きてしまった。緋凰の言うことは私の胸に深く突き刺さった。


「だから計算高い奴なんかは相手に悟られないように、自分を上手く隠すことにも長けてるモンだ。俺らが人を見る目を養うよう、教育を施される程にな」

「……え? それ、は」

「もう少し突っ込んで事情聞くぞ。女は逃げただけで何もしなかったのか?」

「いえ。ちゃんと相手の方にもどうしてと理由を聞こうとしたそうです。ですが相手は彼女への当たりが強くなっただけで、彼女が両親に許嫁を解消したいと訴えても、相手側から白紙に戻す気はないと、突っぱねられてしまったと聞いています」

「なら男側はやっぱ気に食わねぇんだろ」

「気に食わない?」


 訝しむ私に軽く頷く緋凰。


「小学校で堂々とそういう振る舞いをしていたのは、女が自分に逆らわないように……言い方は悪ぃが、躾けてたんじゃねぇか? それが自分の手の届かない女子校に逃げて行った。相手から関係の解消も求められた。今までのやり方じゃ上手くいかねぇことが証明された。だからやり方を変えたっつーのが妥当だな」

「どういうことですか……?」

「……囲い込みってことなら、俺だって似たようなモンだ。本音なんてどこにもねぇ、利害だけを提示した婚約。例えそれが仮初のものだとしても当事者以外からしたら、その婚約しているという事実は()()に映る。周囲の野郎に向けて、アイツは俺の者だと示すことができる。男が考えてんのは、恐らくその逆だ」


 逆? 逆って……。いま緋凰が言ったのは当事者側の視点だ。その逆と言えば――。


 緋凰が考えている徳大寺の行動の意味に辿り着き、カッと頭に血が上りかける。

 ふざけている。本当にそんな考えでそのように有明で振舞っているのだとしたら、桃ちゃんは……っ。



「彼女のしたことを。それを逆手に取って、自分から逃がさないための鎖にするつもりですか……!!」



 ――緋凰の沈黙が、私の出した答えに対する返答だった。



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