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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode259-2 お互いが見ていること、知っていること


 たっくんは唖然としている。

 それはそうなるだろう。だからこそクリーンなことしか出てこなかった徳大寺に対して、私はあり得ないと言ったのだ。


「彼女も私と同じ生徒会に所属しています。同学年の生徒会メンバーは皆、彼女の事情を知っています。その許嫁の彼女は諦めずに前を向いて努力しています。今では私達の他にも、笑顔で話せられる姿が多く見られるようになってきたんです。そして中等部からいなくなる私に、こう言ってくれました。この一年間は思いっきり楽しむと。事情を知る内の仲良しの二人がいなくなっても、彼女が皆とちゃんと高等部で頑張っていけるという姿を見て、いなくなる私達に安心してほしいから、と。――ですから」


 自然と声が低くなる。

 そんな前を向いて、必死に希望を掴み取ろうとしている桃ちゃんの妨げになるものは――――決して許さない。


「元凶であるかたは、男子校でどうお過ごしになられているのかと気になりました。私としては碌でもない方だという印象しかありませんでしたので、拓也くんや太刀川くんと衝突したりしていないかと心配していたんです。ああ、あと彼女が仰るには、その男子校を彼の方が受験されたのも、彼女には当てつけと映っているようです。有明が国内でも有数の女子校である香桜とも肩を並べられる、男子校だからだと」


 ……それなのに、太刀川くんや拓也くんを差し置いて生徒会長をしている?

 太刀川くんと仲良し? たっくんのことを助けている?


 ――好印象?



 ハッと鼻で笑いたくなる。


 桃ちゃんの絶望は本物だった。ただの行き違いだったら、ああまでの人間不信にはならないだろう。

 いくら仲良しで大好きなたっくんから伝えられたことだとしても、そう簡単に抱いた印象は覆らない。


「すみません、拓也くん。貴方から見た徳大寺 正継が良い人間だと評しても、私は信じられないんです。貴方が彼と二年と半年を共に過ごしていたように、私も彼の許嫁と二年と半年、共に過ごしてきましたから」


 言い終えた後、麦茶を一口飲む。汗をかいたそれは既に温く、身体に篭った熱を冷ましてはくれなかった。


「……僕は徳大寺くんのこと、すごい人だって思ってるんだ。勉強でも生徒会の仕事でも要領が良いし、清泉でも人気者だった新くんとも今は肩を並べられるくらい、同級生から尊敬されていて。お父さんがあの徳大寺外務副大臣で、やっぱりすごい人の息子さんだなって。だから僕は、ちょっといま、聞いたことが信じられない。……ごめん」

「…………」


 ――――仕方がないことだ


 自分の目で見た確かだと思っていたことがそのままクルリと真反対にひっくり返される衝撃は、計り知れない。

 だって人は自分が正しいと思い込む。目で見なければ分からない。だからこそ、自分がその目で見たことしか理解できないのだ。それが真実となるのだ。


 ――何て矛盾だろうか。



 静まり返った部屋に緋凰の声が落ちる。


「俺からすりゃあどっちもどっちだな。互いに互いの片方しか見てねぇんだから、これ以上は何を言っても平行線にしかならねぇ。ソイツと会う機会がなけりゃどう話をしようがされようが、印象なんて変わることはねぇだろ」

「……会う機会なら、あるかもしれません」


 顔が上がり、視線が向けられるのを感じ取る。


「修学旅行ですが、香桜は十月に行われます。有明はいつですか?」

「こっちも十月、だけど」

「先輩方から聞いたお話ですと、毎年どこかの学校と行き先がかち合うらしく、その中でもよく一緒になるのが有明学園だそうです」

「!」


 ハッとするたっくん。

 会いたい人に会えるかもしれないという期待。会いたくない人に会うかもしれないという絶望。

 そのどちらかを取るならば、私は。


「私は、重ならなければ良いと思っています」

「え……」


 どうしてと視線が訴えてくる。

 私は微笑んで自分の気持ちを伝えた。


「怯えて泣いている子が傍にいるのに、私だけ楽しく笑うことなんてできませんから」


 たっくんの眉間がギュッと寄る。彼だって解っているのだ、どれだけ私が彼に会いたいと思っているのかを。

 それを口にする私が必死に隠している、もう一つの本音を。


「……有明の修学旅行先は、北海道だよ」

「そうですか。ならこちらは沖縄になるよう、夏期休暇が終わりましたらキリストさまにお祈りを捧げましょう」



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