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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode257-3 再会シミュレーションと再会


「悪くねぇな」


 サングラスを装備している私は対策万全と思っていたら、そんな感想が緋凰からポツッと漏れたのでパッと顔を輝かせた。


「そうでしょう、そうでしょう! たっくんのお母さまがお作りになるお料理は、全て愛情たっぷりなご飯なんです! どんなに高級な食材やら複雑な調理法やらを駆使したとしても、愛情と言う名のスパイスが振りかけられた、温かみのあるご飯に勝るご飯などないのです!」


 百合宮家のお食事もお手伝いさんの愛情たっぷり。小学校の給食もおばちゃんの愛情たっぷり。香桜の生活寮のメニューもおばちゃんの愛情たっぷり。

 瑠璃ちゃん家のご飯は大体瑠璃ちゃんが監修しているから、瑠璃ちゃんの愛情がたっぷりと言っても過言ではなかろう。


「あ、でもそうですね。お料理を作っていらっしゃる側もそうですが、誰とお食事しているかによっても味って変わるんじゃないでしょうか? ほら、よく言うじゃないですか。本来は美味しい筈のメニューだったのに、緊張して味がよく分からなかったとかって。いつもと同じものを食べている筈なのに、好きな人と食べるといつもよりも美味しく感じるとか。そういうのもあると思いますよ…………ハッ!」


 意気揚々と喋っている途中で、ハタと気付く。


 ……たっくん家のご飯が褒められた嬉しさに、またお相手じゃなくて私の思考で物事を考えてしまった!

 だって緋凰の『悪くない』は『美味しい』ってことだもん! ヤバいこれじゃ全然シミュレーションになっていない!!


「すみません……。私が前に出ました……」

「……アイツは食事中にこんな喋りださねぇし、終わってからで良いのに途中で一々評価挟んでくるから、普通にお前と食ってる気になる」

「すみません……」

「けど、」


 否定の出だしが聞こえて顔を上げれば、何故か緋凰は口許を薄っすらと緩ませていた。


「何となくさっきの当たっている気ィすっから、もうお前のままで発言しろ。元々お前も学院の女子連中と違ってるっつー理由で人選した訳だしな。同じ人間じゃねぇんだからどうあったってアイツの思考になりきれる訳がねぇし、手探りなのはずっと変わんねぇ。それに実際アイツと二人でってなると、()()はなんねぇだろうし。――――別に悪くねぇ」

「緋凰さま……」

「宇宙人はそのまま宇宙人してろ」

「最後でとても台無しになりました。はいマイナスキュンポイント」


 余計な一言に溜息を飲み込むようにオムライスを頬張り、緋凰は緋凰でマイナス評価を封じキュンと共に言われた筈なのに、不機嫌になるどころか気にしていない様子で食事を再開している。


 取り敢えず私は私のままで良いらしいので、そうさせてもらおう。正直私もお相手に成りきってというには、力量不足が否めなかったので。


「じゃあシミュレーションという点では失敗ですかね。お食事後はどうします? 帰ります? あ、お友達のお母様にご挨拶したいので、少し待っててもらえます?」

「途端にだな。もうちょっとぐらい気ィ遣えや」

「私のままでどうやって貴方に気を遣えと」


 少し前までクソミソ言い合う仲だったんだぞ。

 冬に婚約蹴られたのを聞いた時以上に、素で私がお前を気遣う場面は中々訪れまい。


 お互いに食事を終えてお冷を口に運びながら、何気なく窓の向こうにある外の景色を眺める。

 落ち着いたクラシックミュージックを聞きながら、一息吐ける店内から遠く見える街並みもまた良いお味。あの中に私がかつて通っていた清泉小学校もあるんだよなぁ……。


 そのまま風景を眺めていると、近くの歩道では犬をリードで繋いで散歩中のおじさんがいて、私よりも年上だろう男子が二人仲良さそうにお喋りしながら通り過ぎていく。

 あそこは買い物帰りだろうか、お母さんと小さな女の子が手を繋いでいる姿も微笑ましい。


 そしてお兄ちゃんなのかな? 母娘のその少し後ろにはマッシュルームヘアの眼鏡を掛けた可愛らしい男の子が、小さなエコバッグを手に()げて歩い…………


「たアっ!!?」

「っ!? 何だ!?」


 私の発した衝撃の悲鳴に肩を跳ね上げさせた緋凰も驚いて声を上げるが、それどころじゃない私は脇目も降らずに席を立ちお店から出て、本能の赴くがままに目標人物(ターゲット)へと猛然と突進して行った。


「拓也くん拓也くん拓也くん拓也くん拓也くーーーーん!!!」


 六年間ずっと一緒にいて二個一だった私の呼び掛けに気付かない訳もなく、けれど向こうはギョッとした様子で立ち止まった。


 二年と半年振りの感動の再会だと言うのに、どうしてたっくんは手を前に突き出しているの!?


「待って待って! ちょっと止まって! こんな道のおうらっわあああぁぁぁーー――……」








 ――――店内から感動の場面を一部始終目撃していた緋凰はその後、たっくんを引きずって戻った私のことをしばらくの間、


「知りません。俺には猪が憑依した宇宙人の知り合いなんていません」


 と言って、連れ扱いしてはくれなかった。



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