Episode257-2 再会シミュレーションと再会
メニューが決まったら机上の呼び出しボタンを押すということで、折本さんは一旦その場から離れる。
それから私と緋凰はそれぞれでメニュー表を見――ようとしたが、私がそれを取る前に緋凰がこちらに開いて提示してくれたので、一つのメニュー表を二人で見る形になった。
……ふと、前に裏エースくんがパンフレットを一枚しか取ってこなかったことを思い出す。
「何がお勧めだって?」
「……えっと、『日替わりオムライス』です。あの、緋凰さま。今のこの見せてくれる行動は良いと思いますが、ご自身はご自身でメニュー表をご覧になられた方がよろしいですよ」
「マイナスだったか」
「いえどっちかと言うとプラスキュンですが、あのこれ……その、デートの時にする行動です……」
「デッ……!?」
そうと意識していなかったことがデートの時のやつだと言われてしまいピキッと固まる緋凰と、以前自分がされたことを思い出して居たたまれなくなる私。
そうだ。私、あの時はデートじゃないと思っていたけど、多分もうその時には裏エースくん側は自覚してたんだろうから、彼側は普通にデートしてると思っていたんじゃないだろうか。
だから距離も近かったし、手もあんなに繋いで…………うわあああぁぁっ!!
「こ、この場合、俺は一人で見ればいいのか!?」
「そ、そうして下さい!」
サングラスをしていてもお互い何かカッカしているのが分かる。それを向けている対象は違えども。
お相手の方の思考で見る筈なのに当然のように私の思考になってしまっているので、落ち着こうと広げられたメニュー表を手に取り凝視する。
私も緋凰がイメージしやすいように、今まで聴取したお相手の方のイメージに沿って注文しなければいけない。
取り敢えず紅茶は注文するとして、お昼ご飯に関してはオムライスにしたいところだったけど、お紅茶と確実に合うだろう『カリカリベーコン&エッグベネディクトパンケーキ』に決めた。
「メニューは決まったか」と尋ねてきた緋凰に伝えると、彼はもう一度自分のメニュー表を見てから呼び出しボタンを押した。一度お冷を運んできた折本さんが再びやって来ると、緋凰は私の注文を先に伝えてから。
「『日替わりオムライス』と『コーヒー』、アイスで」
「畏まりました。オーダーは以上でよろしいですか?」
「はい」
緋凰 陽翔がオムライス。いや、何を食べるかは人それぞれだけども。
淡々と緋凰が注文を終えた後、折本さんが離れてから思い切って聞いてみる。
「オムライスでよろしかったのですか?」
「勧めてきたのはお前だろうが。もし相手も知っている店だったら、勧められたモン頼む方が印象は良いだろうし。それに、そこまで気ィ遣わなくていい」
「え?」
「本当はオムライス食いたかったんだろ。店員には誰がっての言ってねぇから、来たら食事メニューだけ換えてやる」
……だからそれ、デートの時の気の遣い方だって。
そう思いはしたが、素直に格好いいとも思ってしまった。ううむ、これはどっちだろう? 意識したやつ? してないやつ?
「取り敢えずプラスキュンなのは違いありません。ありがとうございます」
「頼むからキュンは封じろ。聞いてるこっちが恥ずいわ」
緋凰のためを思って口にしているのに、恥ずかしいとか酷くない?
そうして暫くして運ばれてきた注文メニューは見た目からしてもう美味しそうで、緋凰が言ってオムライスが私の前に、緋凰の前には私が注文したメニューが置かれた。
本日の『日替わりオムライス』はライスをドレープ状に包んだトロトロ卵の上にホワイトソース、頂点にスプーンで掬った大きさの粒々明太子に刻み海苔が乗っている、明太子クリームオムライスだった。
ちょこんと乗っているカイワレが彩りのアクセントだね!
私が本来注文した『カリカリベーコン&エッグベネディクトパンケーキ』も二センチくらいの厚みのあるパンケーキの上に、カリカリに焼かれたベーコンとプルプル卵、更に上からトロリとした黄色のソースが本当にメニュー表の写真通りで、こちらも美味しそう。
プレートにはちょっとしたサラダも付いていて、軽食として申し分ない量だ。
「いただきます」
「いただきます」
お行儀よく食事の挨拶をしてから、スプーンで掬って一口。
あっ、バターライス! 和風の味付けだと思っていたのに、和洋折衷だ! お泊りした時のケチャップオムライスも美味しかったけど、これも美味しい!
ちなみにこのオムライスに当たったのは初めてである。他にも本格的な和風キノコのオムライスとか、デミグラスソースのシンプルなオムライスとか、エビとホタテの海鮮オムライスとか。メニュー表には「この曜日にはこれですよ」とアレルギーがある人のために表記が為されているので、注文する側に不安もない。
チラッと緋凰の方へ観察眼を向けると、彼はとてもお行儀よくナイフとフォークを使って食べていた。まあ毎食同じ空間で食事を摂っているので、息を吸うように綺麗な食べ方をするのは分かってはいたけれど。
それでもオーラ駄々洩れの緋凰が綺麗に食事をしている光景は、郊外にあるご近所さん御用達のカフェなのに、まるで三つ星の高級レストランであるかのように錯覚させた。
うん、只者ではない雰囲気の私達へと密かに視線を向けているお客さんの何人かが目を擦っているので、間違いない。




