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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode255-2 花蓮の特訓状況と陽翔の変化


 バカアホ鳥頭の三拍子は相変わらず畜生な口から飛び出すし普通に舌打ちもしてくるのだが、靴を履き替える時に手を貸してくれたり、歩く時でも歩幅を合わせてきたり。

 初めにそうされた時は思わずギョッとして緋凰を見たが、本人は至って気にしていないようだった。そんな様子から、これらはすべて彼の無意識下で行われたことだと思われる。


 それも頻繁ではなく極たまにされることなので、急に今まで全くされなかったことをいきなりされたら、こちらとしては何なんだとキョドるしかない。……恐らくだがこういった行動が表面化してきたのは、緋凰の中で私への壁が一つ取れたからなのだと思う。

 大好きな春日井にはかける言葉も比較的柔らかいし、態度も同様。対する私はクソミソ舌打ちメンチ切りだが個人的に会ってくれて話も聞いてくれて、こうして特訓も引き受けてくれている。


 多分今まで接する中でも、緋凰にとって誰かとコミュニケーションを取ることは手探りだったのだろう。その中でも私は最初から特殊だったので、だから言いたい放題ではあったが、それでもどこかで引いていた一線があった。

 そりゃまあ、仲が悪いよりかは良い方がいいに決まっているけれど……。


「おい」

「え? あ、終わってる。私ちゃんと前傾姿勢維持できていましたよね?」

「暑さで頭やられたかお前。終わってから二十秒も待った。あと姿勢は戻すのが三秒早ぇ」


 見ていた筈なのに思考していたことに囚われて、動画内容が頭に残っていなかった。そんな私へ緋凰は安定の暴言を吐くついでにキッパリとダメ出ししてくる。三秒って……。


「三秒そんなに大事ですか?」

「クロールのフォーム練習でどれだけ時間費やしたか覚えてねぇのか鳥頭」

「ああ、はい。そうでした」


 バタ足もそうだが腕の動きだけでもタイムがどうのこうのと言われて、ずっとやらされていたことを思い出す。なるほど納得。


「最初に説明した通り、基礎を固めるのにやってることだ。受験までにそう時間ねぇからここでしっかりやって、香桜のグラウンドでもコーナーあるなら休日にちゃんとやれよ。鳥頭だからすぐ動きが混乱するとかふざけたこと抜かしやがるが、甘いこと言ってる暇なんざねぇからな」

「はいティーチャー」


 大人しく素直にお返事すると、日差しを遮るように片腕を動かす仕草をしている。


「あっちぃ」

「天気予報でお姉さん言ってましたよ、今日の最高気温三十六度いくって」

「酷暑日かよ。……気象のことまで組む時入れてなかったしな。じゃあ今日は上がるか」

「えっ、いいんですか!?」

「適度に休憩したり水分補給するっつっても、限界あっから。あー、帰ってアイス食うか。お前何がいい? 三鷹天屋(みたかてんや)のカップのやつがあるけど」

「ブドウ味があったらそれがいいです。あと緋凰さま」

「何だ」


 シャワー更衣室が併設されている方向に歩き始めて途中、先程思ったことを伝えてみる。


「好きな人にも、そういう風に接していったらいいと思います」


 一体どういう風に受け止められているのか、無言のまま歩みは止まらない。

 けれどその速度が次第に落ちてゆっくりとなり、まるで電池が切れた玩具のようにピタリと止まった。一歩程度追い越したので振り返ると、何やら小難しそうな顔をしている。


「お前の話はいきなりどっか飛んでって脈絡もクソもねぇから、全っ然解んねぇ。そういう風ってどんなだよ」


 無言だったのは私の発言の意味を考えていたからだったらしい。無視されていた訳ではなかった。


「さっきは頭にタオル被せてくれたり、一緒に歩くときに歩幅合わせたりしてくれてるじゃないですか」

「そうか?」

「そうなんです! そう言うってことはやっぱり無意識のようですが、女の子って、そういう何気ないことにキュンとしたりするものなんです! 緋凰さまの場合は一気に距離を詰めるより、小さなキュンポイントを積み重ねていった方が効果的だと思います」

「キュンポイント」

「キュンポイントです」

「マジでお前のネーミングセンスクソだな」


 はい出たお口悪い! マイナスキュンポイント!


「……待て。つーことはお前……まさか」

「全然してません。私は私でキョドっただけで、客観的に見てそうだということを言っております」


 うわぁって引いた顔するんじゃない。マイナスのキュンが降り積もっていくぞ。


 せっかく善意でアドバイスしたのにと憮然とするも、「客観的……」と呟いて緋凰が歩みを再開させたので、大人しく付いていくしかなく。

 その後の緋凰はシャワーを浴びて着替えて出てきた時も、お屋敷に戻るまでの帰りの車内でも、帰宅後のアイスを食べる時もずっと考え事をしていた。声を掛けても反応はないが手は動いていたので、何とも器用なことである。


 一応就寝の挨拶をしに行った時もベッドに腰かけて顎に手を当ててまだ考え込んでいたので、何も言うことなくそっとドアを閉じた。

 そうして緋凰が思索にふける海外の有名な彫刻のようになってから――翌日。



「よし亀子、遊びに行くぞ!」



 朝食の席で、そんなことを唐突に言い放ってきた。



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