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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode251-2 きくっちーと球技大会のこと


 綺麗にテーピングされた指を見つめ、ハァと深く息を吐き出してきくっちーと共に体育館を後にする。


「ごめんきくっちー。せっかく付き合ってくれたのに」

「いいよ。何か誘われた時点でこうなる予感はしてたから」


 何てことないように言われるけどそれ余計にショックだよ、きくっちー。


 女の子らしくお嬢様らしくを心掛けていたきくっちーだが、あの日土門少年にありのままの彼女が好きだと言われてからは、日常生活では元の彼女の口調で過ごすようになった。お嬢様口調になるのは【香桜華会】会長として立つ時。

 それで良いと思う。やっぱり自分らしく過ごした方が変に肩肘張らないし、魅力的だから。


 けれど私の場合はちょっと違う。こっ恥ずかしいあだ名まで付けられて、最早学院に浸透していると言っても過言ではないイメージを持たれているので、去年は会室で気楽に素でいた私は今のところお嬢様口調を維持している。

 まあ姫川少女には解除しても特に問題はなかろうが、他の『妹』に対してはまだちょっと距離感を測りきれていないので、タイミングを見て素になろうと思っているのだ。


 ものの十分もいなかった体育館から離れて特に宛もなく、二人適当に歩きながら会話する。


「今年こそは麗花にリベンジできるといいね」

「んー……や、何か今年はそんな勝ちたいって気持ちないなぁ」

「え、そうなの? あの負けず嫌いなきくっちーが?」


 二人はまた偶然同じ部門での出場となっており、今年はサッカー部門。ちなみに桃ちゃんも去年のゴールキーパーとしての活躍(?)を見込まれて、同じくサッカー部門だ。

 驚く私の反応を見た彼女が苦笑する。


「うん。勝ちたいっちゃ勝ちたいけど、去年のことを思い出してたらさ、アタシばっか動いてたって言うか。期待されて逆に動かされていたって言うか? だからサッカーでコートも広いし、麗花みたく今回は周囲のこともよく見て動いてみようかなって。そう考えたらクラスで練習している時も身体は動いているけど、頭の中は落ち着いていてさ。周りを見るってこういうことかって。気が付いたらすごく楽しくて、別に勝敗にこだわんなくてもいいかってなったんだ。楽しかったら何でもいい!」


 そう言って、んー!と伸びをするきくっちー。

 聖歌練習の際にはトンチンカンなことを言っていたが、確かに進級してからは見ていて行動にもかなり落ち着きがある印象がある。憑き物が落ちたとは少し違うけど、心に余裕があると言うか。

 出会いが出会いで、彼女も色々抱えていたから落ち着きがなかったのだろうが、それが払拭されて幾分気楽になったのだろう。


 多分それはきっと、千鶴お姉様からのあの言葉が響いている。



『椿には椿のやり方があるように、葵ちゃんには葵ちゃんらしいやり方があるから。会長職の「姉」が揃いも揃って個性強烈だけど、自分らしくが一番だよ!』



 自分らしくが一番。

 皆、それぞれ自分の道をそうして進んでいく。


「花蓮」

「なに?」

「アタシで力になれることがあったら、今日みたいに頼ってよ。今日は突き指で終わったけどさ、次は四分の一の力でパス錬するから」


 投げる力を全力の半分の半分にすると宣言された。


「去年桃ちゃんが言っていたこと、あながち外れでもないような」

「何のこと?」

「ボールぶつかったら腕折れるってやつ」

「あの程度で突き指する花蓮だったら、無いことないな」


 結局その日以降は何やかんやで忙しくて練習はできずに球技大会本番を迎えてしまったが、結果としては目出たく私の目標であるフルタイム出場は叶った。

 ええ、叶いましたとも。ボールが一度もこの手に渡らず、コート内を行き来するだけの人間として、とても元気に活動しておりましたとも。


 その部門に該当する部活の部員は他の部門への参加が基本だが情報共有は自由なので、バスケ部員である時任さん他数名によって突き指事件がチームメイトに耳打ちされて広まり、十五点先取のバスケでは。


「ボールに触れさせたら例年の如く、百合宮さまは必ず負傷されるわ! 負傷される前に、もう何が何でも私達でこの試合を終わらせましょう!!」


 という私の知らない決め事が浸透しており、一度もボールに触ることなくあっという間に試合は終わってしまったのだ。私には豪速球だったパスボールも現役バスケ部員の目から見たら、本当にヤワだったそうな。

 ちなみに後から聞いた話、私のバスケ部門推しは二つの部門において結果負傷しているので、未知数のバスケという最後の希望に託していたらしい。


 まさか去年の一人コートサイドラインマラソンが少々形も部門も変わって現実のものとなるなど、露ほども思わなかった私である。



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