Episode248-2 瑠璃ちゃんの進路
体型のコンプレックスを抱えて、けれどずっと走り続けてきた瑠璃ちゃんの姿を長年見続けてきた私達が、そんなことを言ってくれる彼女を応援しない訳がない。それに私のいない銀霜学院ならば、特に変なことも起こるまい。
例えヒロイン空子がそっちに入学してきたとしても、瑠璃ちゃんだってどちらかと言えばライバル令嬢系じゃなくてヒロイン系だ。唯一知り合っている攻略対象の春日井とは、違う学院なわけだし!
「うん、うん! 頑張ろう瑠璃ちゃん! 翼欧のエウメニデスなら、銀霜のエウメニデスにだってなれるよ! 香桜の百合の掌中の珠と赤薔薇の聖乙女も、ずっとずっと付いてるからね!!」
「まだ時間は充分にありますわ。受験における筆記試験は過去から遡っての繰り返しですもの。去年から過去五年ほど振り返ってすべて制覇すれば、筆記の不安なんてなくなりましてよ!」
「えっ。あ、うん。銀霜のエウ……にはならなくていいかな。あと五年も前の過去問集、学院にあるかしら……?」
「あっ、瑠璃お姉さま!」
少々困惑した瑠璃ちゃんにそれまで大人しく話を聞いていた鈴ちゃんが、はいっ!と挙手をする。
「そこはウチのお兄さまの出番です!」
「え?」
「お兄さまは銀霜学院を卒業しています! 在学中でも常に成績はトップでした! そんなお兄さまなら瑠璃お姉さまのお勉強を見るのだって、お茶の子さいさいです!」
「えっ。……あっ、ちょっと待って花蓮ちゃん!」
私の動きにいち早く気付いた瑠璃ちゃんからストップが掛かるが、超絶可愛い妹から超絶ナイスな提案を耳にした私は早速携帯を取り出して、素早く請負人へと連絡を取った。
丁度時間が空いていたようで、すぐに出てくれる。
『もしもし? なに?』
「もしもしお兄様! 瑠璃ちゃんが銀霜学院をお受験するそうです!」
『あ、そうなの? 内部進学じゃないんだ』
「はい! そこで銀霜学院で常にトップだったお兄様に、ぜひとも瑠璃ちゃんの受験勉強を見て頂きたく! 家庭教師のご依頼を!!」
「花蓮ちゃん!」
『瑠璃子ちゃんの受験勉強を見ればいいの? いいけど』
グッと片手拳を握り、瑠璃ちゃんにグッドサインを出す。
「オッケーだって!」
「花蓮ちゃん! もう花蓮ちゃんお願い電話代わって!!」
「はい」
振り返って見た瑠璃ちゃんからいつになく強い口調で言われ、何かマズッた?と思いながら大人しく携帯を彼女に渡すと、瑠璃ちゃんはペコペコしながらお兄様と会話し出した。
何かマズッたかと麗花に聞いてみる。
「私何かやった?」
「そうですわね。貴女たちにとってはご兄妹ですから気軽に頼めるのでしょうけど、普通は無理だと思いますわ。私だって昔から親しくさせて頂いているとは言え、お忙しくされている中で奏多さまに勉強をわざわざ見てほしいだなんて。そんなおいそれと頼むことなんてできなくてよ」
「え? あれそうだっけ?」
言われて考えてみたら、あ、確かにと思う。
テストがある度にお兄様へと一直線に向かって突っ込んでいく遠山少年という実例が存在しているので、いつの間にかそこら辺の感覚がバグっていたようだ。そうか、そう言えば彼は特殊な人間だった。
それに私の絶賛お悩み問題もお兄様が勉強を見ることになるのなら、夏休み期間もあると踏んで自分のお悩みが解決できそうだと気が逸ったというのもあって、すぐにそういう考えに思い至らなかったのである。ごめんね瑠璃ちゃん……。
話し終えたらしく、今にも両手で顔を覆いそうな表情をしている瑠璃ちゃんから返却された携帯を、再度耳に当てた。
「もしも…」
『瑠璃子ちゃんからの頼み事だと思って話したら、花蓮が勝手に進めたんだってね? まあ元々受験勉強に関しては時間取る気でいたから、僕にしたらそれが花蓮から瑠璃子ちゃんに変わっただけで、別に問題はない。色々と予定組んで合わせるのはまた考えるけど、瑠璃子ちゃんには受験勉強を僕が見るっていうので話はついたから』
「ありが…」
『取り敢えず色々と言いたいことがあるから、家に帰ってきたら僕の部屋に来るように』
ブツッと切られた携帯を耳から離して見るも、ただ通話終了の画面が表示されているのみ。例のホテルトイレの時のように、充電切れで通話が切れたという訳ではない。
「ご愁傷様ですわ」
通話終了画面を見つめたまま動かない私に、麗花からちっとも憐れまれないご愁傷様を頂いた。長年の付き合いで会話を聞かずとも、何を言われたか解ってしまうらしい。
そして瑠璃ちゃんからは懇々と怒られ注意され、けれどいつかのように「私のためにしてくれたことだから」と、最後にはお許しを頂けた。
私が怒られている間は鈴ちゃんと蒼ちゃんの弟妹組にもハラハラとさせてしまい、これからはちゃんと後先のことをよく考えてから行動しようと、改めてそう思った私である。
……いや、本当にちゃんと考えて行動しますから。
だからごめんなさい。許して下さい足が痺れましたお兄様。




