表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
527/641

Episode248-1 瑠璃ちゃんの進路


 憂鬱な悩みを思い出していたら、「花蓮ちゃん?」と瑠璃ちゃんから呼び掛けられてハッとする。


「あ、ごめん! 何だっけ?」


 聞き返すと瑠璃ちゃんからではなく、麗花から呆れ混じりに教えられた。


「ですから、夏期休暇の話ですわよ。新たに修行することになったって、一体どういうことですの?」

「あー、そうだった。高校受験で絶対に第一志望校に合格するための受験対策! 私は来年の八月は丸々約一ヵ月、とある場所にて缶詰になります」

「え、花蓮ちゃんがそんな対策するほどなの? そんなに難しいところを受けるの?」


 私にとったら一縷の希望に縋るしかないところです。

 頷いて返すと、目を眇めた麗花が瑠璃ちゃんに向かって話し出した。


「聞いて下さる? 花蓮ったら私の受験先は聞いてきたくせに、私がどこを受けるのか聞いても全然教えてくれませんのよ! 不公平じゃなくて?」

「麗花だって中学受験のこと、私に内緒にしてたじゃん」

「それはそれ。これはこれですわ」

「何それ何て理不尽?」

「私は花蓮と違って正当なサプライズでしたけど、貴女のはいつも穴あきサプライズじゃありませんの。今回だって内緒にするのなら、最後まで黙ったままでいたらよろしいのに。中途半端に明かすからこっちは余計に気になるのですわ!」

「ぐぬっ」


 貫徹テンションでハイになっていた時の行動だから、そう言われると反論できない!

 しかしここで私が麗花に押され気味なのを見て取った鈴ちゃんから、助け船が出された。


「麗花お姉さま! お姉さまもお受験されますけど、麗花お姉さまもお受験されるのですか?」

「え? ええ。私は聖天学院付属の紅霧学院を受験しますのよ」

「あ! じゃあ麗花お姉ちゃん、僕たちと一緒の学校に行くの?」

「校舎のある場所は違いますけれど、遊びに行ける距離ではありますわね」


 パッと顔を輝かせて蒼ちゃんが聞けば、微笑んで返答した麗花に彼はとても嬉しそうに笑って――――衝撃的なことをその可愛いお口から飛び出させた。


「じゃあお姉ちゃんと一緒だね! お姉ちゃんも同じ学校のとこを受験するの!」

「「え?」」


 ニコニコしている蒼ちゃんからその姉へと揃って顔を向けると、彼女――瑠璃ちゃんはふんわりと微笑む。


「バレちゃった」

「バレちゃ……え、瑠璃ちゃん? 受験??」

「翼欧も高等部までエスカレーターでは……? 同じ? 瑠璃子もこ、紅霧学院を受けますのっ!?」

「えっ!?」


 確かにダイエット訓練を長年継続してきたおかげで彼女の体力・持久力は向上しているが、通り汗もスロモ走りも未解決のままで、私と違い決して足は速くはない。そんな瑠璃ちゃんが紅霧学院を受験?

 ……何故!? こ、これは缶詰合宿の生徒追加を緋凰に依頼すべき!?


 素っ頓狂な声を上げた麗花に釣られて、私もつい驚きの声を上げて目まぐるしくそんなことを思考したが、彼女は首を横に振って否定した。


「紅霧学院じゃなくて銀霜学院の方よ、もう。どんなに頑張っても、私じゃ紅霧学院は無理だわ」

「銀霜……」

「将来を見据えての進路ですの?」


 勉学に重きを置く銀霜学院は、主に将来が定まった家の跡を継ぐ人間が軒並み。内部の選択基準事情はそうだが、外部生には関係のない内容だ。

 国内屈指の進学校で偏差値も高い聖天学院付属の二校の上には付属大学もあるが、やはり銀霜学院を経た方が大企業への就職には有利となっている。


「やっぱりこの時期だし、色々と将来のことを考えてみたの。私も米河原家の娘としてこの業界に携わっていきたいし、今も食品開発で相談されたりしているけど……。家だとそういう知識は学べるけど、でも今あるものだけで充分かって考えたら、何かしっくりこなかったの」

「しっくりこない?」

「うん。家には蒼くんがいて、お家のこと頑張りたいって言ってくれているけど、私も食品開発だけじゃなくて、それに携わる色々なことを覚えたいなって思ったの。翼欧女学院も中学では偏差値は高い学校で勉強は結構しなきゃいけないけど、でも昔の慣習を踏襲している校風の翼欧じゃ、やっぱり“外”よりも“内”寄りの考えでいらっしゃる先生が多くて……」


 瑠璃ちゃんの言う校風に関しては、彼女の言いたいことは何となく解る。香桜(ウチ)で言うとロッテンシスターがそれに該当するかもしれない。

 彼女は女性と言うものは『貞淑・穏健・婉麗(えんれい)であるべき』と謳い、だからこそ最初の頃のきくっちーは彼女からよく注意を受けていた。


「それはまあ、ある意味女子校は閉鎖的な空間ですものね」

「そうなの。だから私、家のために……ううん、それも建前ね。私自身のためにそうするわ。将来のことももちろんだけど。女子校で守られ続けるんじゃなくて、コンプレックス抱えて閉じこもっていた自分の殻を破って進みたいって、そう思ったのよ」


 私と麗花を視界に収め、白桃のほっぺたを桃色に染めて、彼女は美しく笑った。


「花蓮ちゃんと麗花ちゃんのおかげよ。花蓮ちゃんのおかげで男の子とも仲良くなれる子はいるんだって思えたし、麗花ちゃんがダイエット訓練で一緒に走り続けてくれたから頑張ってこれたの。初めに望んだ結果は得られていないけど、でもとっても楽しかった。香桜で頑張っている二人を見て、私ももっともっと頑張りたいって、二人がいるから踏み出してみようって、そう思ったの! だから私、銀霜学院を受験するわ!」

「「瑠璃ちゃん!/瑠璃子!」」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ