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Episode245-2 紅霧学院合格への道


 そう言えば過去に緋凰と鬼ごっこ(?)をしたことがあるが、同じくらいの足の速さだったので走者と鬼の距離は付かず離れずのままだったことを思い出す。


「お前が紅霧の方で合格する可能性がゼロじゃねぇ理由は、実技試験の内容にある」

「え、ちょっと待って下さい。実技試験の内容ご存じなんですか? ホームページに掲載されている内容には詳細なんてありませんでしたけど」


 そう言うと呆れた目を向けられた。


「毎年外部で受ける人間がいんのに、絶対漏れねぇことはねーだろ。それにこれも情報戦略だ。外部から受けるヤツで聖天(内部)の知り合いがいるってーのは、プラスにはなってもマイナスにはならねぇぞ」


 つまりズルじゃないってことが言いたいのであろうが、別にズルだと思っていない。

 出場するスポーツ系の大会で個人戦であれば、賞を総ナメする天才児に教わることこそズル……とまではいかないが、近道ではあるとは思っている。


 スイミングを緋凰と春日井、春日井夫人から教わっていたが、感覚でものを教えるだろうと思っていた緋凰は意外にも懇々説明型の春日井と同様、分析してどこがダメでどこを直したら良いのかをちゃんと教えてくれる人間だった。

 助言と同時にバカとアホと鳥頭という暴言が毎回付随してくるのは、最早彼の可愛くもクソもない愛嬌であると早い段階で割り切った。


「いえ、それをズルとは認識してはいません。それであの、実技試験の内容とは」

「大まかに分けると、球技・ダンス・水泳・陸上。この四種目が主で、普段の紅霧の授業も、受験の時に選択した実技種目で大体埋まるらしい。球技だとバスケやテニス、ダンスは社交やバレエとかな」

「なるほど。ではその中でも私が希望を見出せるのが、陸上だと」

「そうだ。足の速さだけは俺と同等だからな。陸上なら無いことは無い」

「おおお!」


 そこで水泳とならないのは推して然るべし。

 そして更に有益な情報が彼の口から発表される。


「陸上の試験内容で思いつくのはタイムか記録を競うかと、あとは体力値だ」

「体力値」

「簡単に言うと持久力」

「自信しかありません」

「だろうな。水泳初期に息継ぎ忘れた宇宙人だからな、お前」


 話を聞けば聞くほど希望しかない。

 あれ? もしかしなくても私、イケるのでは……?


 しかしそんな浮き立つ気持ちも、次に発せられた内容で吹っ飛んだ。


「簡単に考えんな。重きを置いているとは言え、専門じゃねーんだ。それでも他のトコの推薦蹴って受験してくるヤツも多々存在する。それだけ聖天学院付属っつーブランドはデケェんだ。能力の高いライバルなんざごまんといる。合格するにはそいつらを蹴散らかさねーといけねぇんだぞ」

「う……はい」

「俺は一度やると決めたら徹底的にやんねーと気が済まぇ性質だ。お前のコーチ以外に今年の夏、俺は一切他の予定は入れねぇ」

「え」

「えじゃねぇ。覚悟決めたっつったろ。陸上の実技内容が何であれ、タイムと体力値は絶対だ。そこを集中して伸ばす。俺ん家で夏の合宿すんぞ、合宿」

「合宿!?」


 大特訓じゃなくて!?

 てかまさかここに泊まるの!? 宿泊!!?


「そ、そこまでしなくても。と言うかあの、合宿って私、女の子です。いくら何でも年頃の男女が一つ屋根の下と言うのは、外聞的にちょっと」

「は? 女学院行って二年経つくせに、未だ宇宙人なヤツが何言ってる。クマ面宇宙人に男だとか女だとかの性別がある訳ねぇだろ」

「ひどくないですか!?」


 さっきは控えてやめた天誅を喰らわしたいところだが、コーチと生徒関係が成り立ってしまった今でもやはり控えなければならない。口惜しや!

 ……え、待ってよ。そういうの冗談で口にするヤツじゃないから、これ本気で言ってるやつだ。え? 本当に泊まんなきゃいけないの??


 オロつく私に補足が入る。


「毎日家を行ったり来たりするよりその方が手っ取り早いだろ。大体俺が特訓メニュー作成すんだから、休憩とかその間の食事制限とか色々考えると、もうウチで一ヵ月合宿でお前一人管理した方が早ぇんだよ」

「徹底的が徹底過ぎる!!」


 そこからはお互い……と言っても緋凰側は本人が問題ないと言い、私は帰宅後両親に何とかして許可を得なければならないのと、個人の連絡先を交換することになった。私の素性問題の件があるので携帯番号を教えるしかなかったのだ。

 ちなみに連絡先を交換したのは今回みたいに春日井を挟むことなく、今後直接やり取りをした方が春日井の手間も暇も取らせないからと緋凰が言い出したからだ。緋凰の春日井大好きっ子は、相変わらずの通常運転である。


 しかし春日井の存在を思い出せば緋凰が目の前にいることもあって、不意にあの時のことが浮かんでしまった。



『……その中で、真っ直ぐと。前向きに行動できる彼を――――初めて妬んだ』



「緋凰さま」


 携帯をポチポチ操作している手を止めて顔を向かせてきた彼を、ジッと見つめる。


「私が香桜に通っている間、好きな人のことで何か行動されましたか?」


 瞬間、緋凰はピシリと固まった。



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