Episode24-2 催会の終了とミッションのこと
「彼はどうしたの?」
「あっ。えーと、カップを倒してしまった時に太刀川くんも駆けつけてくれたんです。そのまま付き添ってくれて」
「そうなんだ? なら僕もお礼言った方が良かったな」
お兄様は裏エースくんを見送りながらそう言った後、手を繋いでくる。
「それじゃ、戻ろうか」
「はいっ。……!?」
繋ぎ合った手とは反対の手に新たな温もりが重なったので、ギョッとして見ればそこには小さな手が。
「か、春日井さま?」
「最後までエスコートさせてほしいな」
王子様スマイルでニコッと微笑まれたので、ついこちらも釣られて微笑み返してしまった。
こ、これはいわゆる逆両手に花状態……!!
有栖川少女に見られたら目から破壊光線でも出しそうだなとか思っていると、そっと耳に、風が触れた。
「今度はちゃんと、守るから」
「…………っ?!!」
囁くように告げた犯人は今まで見せていた王子様スマイルではなく、含んだ笑みを見せ、近づけていた顔を離していった。それは一瞬の出来事で、思わぬ不意打ちに表情を取り繕う暇もない。
……な、に……いまの……っ!?
え、今のホント何!? これ本当に春日井!? もしやコイツ、実は春日井の皮を被った女たらしの秋苑寺か?!
既に標準装備の微笑みの表情へと戻っているその澄ました顔をじーっと見ていると、こちらに注意を向けたお兄様に、「前を向いて歩かないと転ぶよ」と注意された。
お兄様!
注意して然るべきは私じゃなくて隣の攻略対象の方だよ!!
無論そんなこと声高に訴えられる筈もなく、何か負けた気分で両親たちの待つ部屋へと戻って行った。
そして結局入学祝いの食事会はまたの機会となり春日井夫人に、「今度絶対一緒に行きましょうね」と満面の笑顔で約束させられた。
そのまま会場施設から外に出てそれぞれの送迎車のところで別れ、ようやく帰路につく。
あー。最初から行きたくなかった食事会だったけど、立ち消えて本当に良かった。
だって予定外の初攻略対象者との顔合わせだったし、有栖川少女との戦いで既に精神的には疲労困憊状態だったのだ。これ以上のダメージはご免こうむる。
ただ、唯一の心残りと言えば、今回の催会に出席するに至ったミッションを遂行できなかったことに尽きるわけだが。
……気になったんだけど、本当にあの場に白鴎いたのかな?
同家格とはいえ、春日井が現れればお互い挨拶ぐらいはしてもおかしくなかった筈。それに事前に白鴎が参加することは、それとなく麗花から聞いて調査済みなのだ。
腑に落ちなかったため、隣に座るお兄様に聞いてみる。
「ねぇお兄様。お兄様のお知り合いで参加されていた人って、いらっしゃいました?」
「え? そうだね、最初に会った遠山くんはそうだし、他には同じクラスで二、三人は見掛けたね」
「一年生のプティの子って来ていました? 今日は麗花さん、用事があって不参加だったので、どうだったか教えてあげられたらと思ったんですけど……」
私の質問にお兄様は少し首を傾げ、「一年のプティの子ねぇ……」と宙を仰ぐ。
「んー、あ、確か蓑和家の清香ちゃんはいたな。後は一応、白鴎家の詩月くんかな」
あっやっぱり来てたんだ! でも、
「一応って?」
「今ちょっと調子を崩しているようでね。季節の変わり目だし、詩月くんも色々忙しい身だから仕方ないんだけど、明らかに体調が悪そうだったから帰らせたんだよ」
「えっ、そんなに悪そうだったんですか!? それっていつのお話です?」
「まだ花蓮が僕の傍にいた時、少し入り口付近でざわついてた時があっただろう? でも主役の子のところへ行くより先に僕のところまで挨拶に来てくれて、それで気づいたんだ」
それってもしかして、私が裏エースくんを発見した時か! 私が裏エースくんの友達相談を受けている時に、まさかそんなことになっていたとは!
それにしても忙しい身のお兄様に色々忙しい身だと言われる、白鴎のスケジュールって……。
「大丈夫でしょうか? 学校は違いますけれど同級生ですし、何かお見舞い品でもお送りした方がいいですか……?」
敵とは言えまだ子供だし、何だか話を聞いたら純粋に心配になってきた。
「そうしてもいいとは思うけど、でも花蓮は詩月くん本人と面識はないだろう? 急に贈り物をして向こうがびっくりしても悪いから、僕から本人にサロンで会った時にでも伝えておくよ」
「わかりました」
なるほど、お兄様の言うことには納得。
私だって名前は知っているけど会ったこともない人からプレゼントされるのって、すごい違和感あるし。えっ、何で?ってなるもんね~。
……あーあ、せっかく催会に出席したのにな。
まあでも、太刀川くんと仲良くなれたし春日井は……うん、何も言うまい。
「疲れちゃった?」
そっと息を吐いたのを聞き留められ、コクンと頷く。
「はい。あまりこういう会に参加したことありませんでしたし、ちょっとだけ」
「そっか。家に着くまでまだ掛かるし、寝てていいよ」
「はぁーい……」
眠っていいと言われた瞬間、ふわわ~と欠伸が漏れた。
年齢がまだ幼いってこともあるだろうけど、やっぱり外出に不慣れなのとバトルで気を張ってたせいだろうなぁ。
次第に下がり落ちていく瞼に逆らうことなく閉じた中で私は、夢を見る。




