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Episode230-2 対象違いの解釈違い


 柔道でも他の女子からの試合を受けなかったのは彼の性格上即納得だが、彼女に対してはそりゃあ自分にとって特別な女子を今までのように投げ飛ばすことなどできやしないだろう。

 素直じゃなかったから二人の時は他の女子にするみたいにニコリと取り繕えないし、嫌そうな顔で拒否するしかなかったのだ。うわぁ……。


 修学旅行の時にまた巻き込まれそうとか何とか予言していたが、対象違いの解釈違いである。世間が極端に狭過ぎた結果、土門少年の問題に私が巻き込まれているではないか!

 巡り巡って結ばれたご縁が去年のきくっちーとのあれこれだと思うと、私はよく頑張ったなとしみじみしてしまう。


 しかしながらナルシー師匠が自覚してくれたおかげで、きくっちーの告白も上手くいきそうだ。いや、もう告白成功率は百パーセントと言っても過言ではないだろう。

 きくっちーがどうして女の子らしくなりたかったのか、彼女の告白を聞けば頭の回っているナルシー師匠はその意味を正確に理解する筈。


 彼に女の子として見てもらいたくてこの一年と半年の間、例えその頑張りが彼の思考とマッチしていなくても、好きな子が自分のことを想って健気に努力していたのだ。

 これで素直にならなかったら男が廃ると言うもの!


 そんなことを考えて内心、密かにドヤァとして構えていたが。


「……そっか。だったら、その、花蓮がそのまま郁人を案内して下さい。私もここで会えましたし、女子らしい姿を見せることができて目的は果たせましたので。それではちょっと私は高等部の屋台の方に行きますので、これで」

「え?」


 言われたことにポカンとする。

 そして私達の返事を待つこともなく素早くクルリと方向転換して、スタスタと食堂から出て行こうとしている。


「……え? き、菊池さん!?」


 さすがに何か様子がおかしいと思い追い掛けようと慌てて席を立つも、「かっ、花蓮ちゃん!」と桃ちゃんに引っ張られて追い掛けられず、更には少しテーブルから離れた場所へと連れられる。

 土門少年を振り返ったが彼は珍しくも私と同じくポカンとした様子で、出て行ったきくっちーの行き先を見つめていた。


「も、桃ちゃん? 今はきくっちーを追い掛けた方が…」

「ダメ! 確認しなきゃケンカになっちゃう!」

「ケンカ!?」


 誰と誰が!?

 物騒な発言に目を剥くが、桃ちゃんは私の手を掴んだままウルッと瞳を潤ませた。


「花蓮ちゃん、前に好きな人がいるって言ってたよね? それ、あの人のことなの?」

「え? いや、全然違う人だけど」


 当然のように否定すると彼女はホッと息を吐いたが、以降の発言に私は度肝を抜かれることとなった。


「葵ちゃん、花蓮ちゃんたちに近づく前に呟いてたの。『郁人があんな顔してるの、初めて見た』って。だから花蓮ちゃんは悪くないけど、でも好きな人に好きな人がいるって知ったら、平気な顔してなんていられないよ……!」

「え? 好きな人に好きな人?」


 どういうこと? あの二人は結果両想いで、別に何の問題もないと思うけど。

 伝わってこない意味に首を傾げると、彼女は決意を秘めた目でグッと私を見つめてくる。


「い、言ったらダメなの分かるけどでも、二人にこじれてほしくないから! だって桃から見てもあの人、花蓮ちゃんのことが好きなんだもん!!」



 ――――は、と口が間抜けな形に開いた。


 ……ん? あの人、私のことが好き?? ん???


「待って桃ちゃん。それ誰のこと?」

「葵ちゃんの好きな人が、花蓮ちゃんのこと!」

「え。ないないそれだけは絶対有り得ない」


 真顔で全否定したが、それでも彼女は必死に言い募ってくる。


「だって葵ちゃんがそれ言ってたの、あの人が花蓮ちゃん見て耳赤くした時だもん。それにさっきも花蓮ちゃんと色々話してたって言って、耳赤くしてたし。決定的なのは葵ちゃんの衣装だよ! 百合!」


 言われ、衣装選びの時のことを思い出す。



『えっと、アイツが、さ。道場の外に咲いてる百合の花見て、「百合の花は美しいね……」って呟いてたことがあって』



 確かに何故百合の模様が良いのかと問い、そのような返答ではあった。

 妙に背筋がヒヤリとする中で、別れる前の麗花の難しそうな顔と呟き内容も思い出される。


 ……え。待ってよ、嘘でしょ? まさか私、土門少年の想い人ってきくっちーに思われてるの? それできくっちーあんな態度になったの!? …………うわああああああぁぁぁ!!!


 とんでもない勘違いが巻き起こっていることを理解して、大慌てで未だ呑気に座っているナルシーのところへと戻った。

 テーブルにバン!と手をつき、「土門くん!!」と強く呼び掛ける。


「貴方、道場の外に咲いている百合の花が美しいとか言った覚えあります!? ありますよね!? あれは一体どういう意味で発言したんですか!」

「何だい急に? いつの話かも不明なんだが。単純に見た感想をその場で呟いただけではないかな?」

「そこに私のことなんて一切何も含まれていませんよね!? そうですよね!?」

「は? 何だいその自意識過剰」


 そうだろうよ!

 くっそマジか対象違いの解釈違いいいいぃぃぃ!!


「桃ちゃん誤解! 全っ部誤解! 私多分悪くないけど絶対やらかした感じだから、やっぱりきくっちー追い掛けてくる!!」

「分かった! じゃあ桃は葵ちゃんのために、ちゃんとこの人のこと逃がさないように捕まえとくから!」

「うん? え、どういうことだい?」


 訳が分からんと発言している土門少年は力強い宣言をした桃ちゃんに任せることにし、事の一大事に私はすぐさま走って食堂を出て、きくっちーを追い掛けるのだった。



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