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Episode228-2 再会は思わぬご縁で


 顔を上げて空を見る。秋の空もまた青が広がり澄んでいるけれど、所々にうろこ雲が浮かんでゆったりと風に流されていく。


 特別じゃない人なんていない。皆が誰かの特別で、私だって誰かの特別だ。今この時も同じ空の下で、特別な縁を誰かと繋いでいるかもしれない。


「意味のない出会いなんてない。だから私は出会って、縁を繋いだ人達を大切にしたいって、()()そう思ってるよ」


 忌避したかった出会い。乙女ゲー関係者だからと避けようとしていたのに、いざ蓋を開けてみたらこんな感じだ。……だけど嫌じゃない。

 嫌じゃないどころか、それぞれと関係を築けて良かったとさえ思う。



『……強く望めば、きっとそれは叶うよ』



 家族を一家路頭になんて迷わせない。無事に高校を卒業して、乙女ゲーの運命から逃れる。今年の夏は叶わなかったけれど、白鴎ともちゃんと――必ず向き合う。


 まぁまだ出会ってもいないから、相手は私の存在なんて知らないだろうけど。

 ……いや、もしかしたらあの時に存在自体は認識されているかもしれない。我が家に遊びに来た妹を車に乗って迎えに来ていた、あの時に。


「百合宮さま、薔之院さま」


 声を掛けられて顔を向ければ、香実専用の半被はっぴを着ている先輩が近づいて来られていた。色々とお喋りして思いを巡らせている内に十五分経っていたようだ。


「交代のお時間でしょうか?」

「はい。お勤めお疲れ様です」


 パンフレットとチケットコードを認証するための専用バーコードリーダーを手渡し、同様のことをしている麗花に近づく。


「引継ぎ終了できました? 早く本部に行って確認して、展示を見て回りましょう」

「……本当に貴女のオンとオフの切り替え、詐欺にも程がありますわね」

「ふふふ」


 微妙な顔をしている麗花と手を繋いで、そうしていざ高等部校舎にある本部に向かおうと、一歩を踏み出した時。



「――やぁやぁ麗しいお嬢さん。パンフレットを一枚頂けるかな?」



 ……その聞き覚えのある口調と声に、進もうとしていた足がピタリと止まる。一緒に歩き出そうとしていた麗花も止まることとなり、怪訝そうに見られた。


「花蓮?」

「……いや、ちょっと」


 恐る恐るゆっくりと振り返り、その人物を目視して目を大きくかっ開く。そしてそんな私に向こうも気付いたようで、一瞬真顔になったのを見逃さなかった。


「え、ちょ、ど、上か……土門くんですか!? 貴方まさかあの土門くんですか!!?」

「間で一体何を口走ろうとしたのかはさておき、久し振りだね、百合宮嬢! まさか来校し足を踏み入れた瞬間に、よりにもよってすぐ君と再会を果たすことになるとは思わなかったよ! これはあれだね、過去に戻って修学旅行をやり直さなければならないヤツだね!!」

「どんだけ安井金毘羅宮のことを引き摺っているんですか! 相変わらずそうで何よりです!」

「お知り合いですの?」


 不思議そうに聞かれたことにハッとし、つい小学校の時のやり取りで会話を交わしてしまって、交代した先輩方も驚いた様子でこちらを窺っていた。


「ひ、一先ず本部より先に事情聴取です! ちょっと一緒に付いて来なさいナルシー師匠!」

「…………」

「…………」


 胡乱気な眼差しを私に注ぐ麗花と、やれやれと首を振りながらも大人しく後ろを付いてくる土門少年を連れて、私達は人気のあまりない中等部校舎の裏側へと到着する。

 土門少年と向かい合い、早速口火を切った。


「お久し振りですね、土門くん。何故貴方が我が学院に訪れているのでしょうか」

「頭が足りないのは相変わらずなのかい、百合宮嬢。もちろん、この学院の生徒に招待されたからに決まっているだろう。ああ、ところでそちらのお嬢さんまで巻き込んでしまってすまないね。彼女とは通っていた小学校が同じでね。高学年では同じクラスにもなって、体育の面倒を見るのに大変苦労したよ」

「あら、そうでしたの。それはとても大変だったと、心中お察し致しますわ」

「どういう共通認識」


 私だけ憮然としてお互い自己紹介するのを聞きながら、一体誰との繋がりなのかとそれが妙に気になる。

 どこで何を見ているか知れない、いつの間にか姿が消えてヌッと現れる、恐ろしい予言を口にする人間をこのまま、「はい、それじゃあさようなら」と野放しにしておくには怖過ぎたのだ。


 確かに縁を繋いだ人達を大切にしたい、また会えるかな?とは思ったけど、こんなところでまさかの再会を果たすとはまったく思ってもいなかった。


「しかしまったく。君は目立つから避けて過ごせば問題ないと考えていたのに、まさか受付をしていてタイミングも重なるとはね。これは一種の運命だろうか」

「とっても嫌そうな顔で言うの、とっても失礼なのだとご自覚がおありでしょうか? ……ところで土門くん。貴方、私の他にも香桜生のお知り合いがいたんですね。とても驚きました」


 ここは国内でも有数のお嬢様学校。いくら土門少年が清泉ではモテ男だったと言っても、主に上流階級出身のお嬢様と知り合う伝手は少ないだろう。

 そう思って他の知り合いと口にした時に、彼は珍しくも苦虫を噛み潰したような顔を見せた。


「……君以外にと言うと、そうだね。話は聞いていたが、本当に香桜に通っているのかと僕自身、正直信じられないという気持ちがあったから、確認という意味合いで訪れたのだよ。それに、女子に呼び出されたら行かない訳にもいかないからね」

「ん?」


 何やら違和感を覚える。土門少年は確かに女子に呼び出されて、それに応えていつも欠かさず彼女たちの元へ向かっていた。まぁ裏エースくんと同じで、告白を断るまでがワンセットではあったが。

 しかし彼が女子に対してこんなに苦々しそうな顔をするのは、私以外で初めて見る。


「他の生徒のように我が校の生徒と交際、または婚約関係ということでもありませんの?」

「か……のじょとは全くそういう関係ではない。僕も何故誘われたのか、とんと理解が及ばなくてね。同じ学校でもなく、ただ家の関係で多少付き合いのある間柄というだけさ。夏に何の用かと呼び出されたと思ったら後日ここのチケットを送るからと言って、本当に送りつけてこられたのだよ」

「「え?」」


 どこかで聞いたような話に女子二人、顔を見合わせる。

 瞬時にお互いの認識を擦り合わせ、若干顔色が悪くなったと自覚のある私から、怖々とそれを確認した。


「あの、土門くん。その……お知り合いの香桜生ですが。もしかして、私達と同じ学年の子ですか?」


 ハッキリと聞くには怖過ぎて無理だった。

 ヤバい。ドキドキし過ぎて心臓が口から出そう。


 遠回しに尋ねると、彼は私と麗花を交互に見て。


「ふむ。百合宮と薔之院のご令嬢が知っているかは不明だが、まぁアレも柔道界隈では名家だからね。確かに僕らと同じ学年さ。――菊池 葵という者だが、知っているかい?」


 何の気なく出されたその良く知り過ぎている名前を耳にして、私は膝から崩れ落ちそうになった。


 きくっちーの告白相手。……よりにもよって上から毒舌ナルシーザ・失礼師匠、お前かよおぉぉっ!!!



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