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Episode226-2 あだ名がつく人つかない人


 私はその時のことを思い出し、グッと拳を握りしめた……!


「くぅっ! あの時隣を引いておけば、こんなことには……!」

「クジはその時の運だから仕方がないよ、花蓮ちゃん」

「でも最初に引いてそれだったし、ある意味当たりじゃん」

「はっ倒すよ、きくっちー」

「だから何でアタシだけ!?」


 内容は話し合って決めたが、どのクラスが何を担当するかはクジ引きで決めた。

 そしてクジ運のない私は見事三大天使から外れた、聖母マリア像制作権をゲットしてしまったと。クラスの展示制作も準備期間の半数を過ぎれば顔の造形はほぼ出来上がっている。


「はい! ということで、私のクラスは美術部エースの阪木さんが指揮を取っているから順調! 次!」


 プリプリしながら座って他クラスの進捗を促せば、次に発言したのはきくっちー。


「アタシんトコのミカエルさまも問題ないかな。鎧作って着せるのに四苦八苦しているけど、こだわり過ぎてる部分があるからそれを差し引いて。ガワも問題ないな」

「私のクラスも問題ありませんわ。各自のステンドグラスアートも…………佳境に入っておりますし……」

「麗花、目を逸らさないで。私と一緒で時間の問題だよ」

「まだ私は大丈夫ですわ!」


 勢い込んで言ってはいるが、前言がよどんだ時点でアウトである。

 麗花のクラスはガブリエルさまだが、天使像自体に問題はない。問題があるのは言い淀んでいたガワとなる、ステンドグラスアートの部分。


 ガブリエルさまと言えば我がクラス像の聖母マリアの元に現れ、イエス・キリストさまの誕生を告げたという『受胎告知』が有名だ。

 そしてそのガブリエルさまは、聖母マリアの純潔を示す白百合を携えて描かれていることが多い。故にステンドグラスアートも白百合の構図にしようとしていたそうだが、こちらはディベート部のエースに言いくるめられて赤薔薇になった。


 麗花がその熱意に絆されたのと、まぁ赤薔薇でも問題ないかと頷ける理由だったからそれで納得して進めたらしい。

 けれどそのステンドグラスの制作中にビシバシと視線を感じるので不審に思った彼女が他の子に問い詰めたところ、麗花は頷ける理由の裏に隠されたあの真実を遂に知ってしまったのだ。



 ――そう。自分が上・同級生から、赤薔薇の聖乙女イングリッド・バーグマンとあだ名されていることを!!



 あと白百合では私のイメージが付いてしまうそうで、ここは麗花の在籍するクラスだと知らしめるべくどうしても赤薔薇でなければならなかったとは、問い詰められた子談。

 変更しようにも既に【香桜華会】で受理され制作し始めてしまっており、後の祭りだった……という訳である。

 ちなみに自分がそんなあだ名を付けられていたことが余程衝撃的だったようで、寮の部屋に帰ってから。



『まさかそんな……。ただでさえ二番煎じのアレがありますのに、あんな恥ずかしいあだ名が私に……?』



 と悪夢でも見たかのような声音で、二段ベッドの上からブツブツと呟いていた。二番煎じのアレに関しては不明だが、二段ベッドの下の私も同じ境遇なので共感が半端ない。

 私のクラスは私モデルの聖母マリア像(ガワはもちろん手作り百合造花)、麗花のクラスはガブリエル像の背後にそびえるステンド赤薔薇アート壁。やれやれである。


「桃ちゃんのところは? 私と麗花のクラスに対抗して桃か撫子の何か作ってない?」

「えっ。も、桃のクラスはちゃんとしたラファエルさまを造ってるよ! ガワも発泡スチロール削って、ちゃんと木の形にしてるよ!」

「桃か撫子の何かって何だよ。アタシも二人と違って、菊だの葵だのの制作物はないからな」


 きくっちーからそんな突っ込みが入り、同じ『花組』なのに何故こうも生徒の対応というか反応が違うのかと項垂れていると、麗花が眉を潜めて。


「納得がいきませんわね」

「何がだよ?」

「だっておかしいじゃありませんの。この中では貴女が一番生徒から騒がれている身でしょうに。私達同様、あだ名があってもおかしくはありませんわよ!」

「あ、確かに。アイドル枠なのにあだ名がない! 何で!?」

「それは向けられる憧れの種類が違うってだけの話だと思うけどな。アタシは親しみやすい感じのヤツだけど、二人はどっちかと言うと、初見じゃ見た目も雰囲気も近づき難いタイプじゃん。近づき難いからこそ親しみやすいように、特徴的なあだ名を付けてたんじゃないか?」


 見解を聞き、麗花と顔を見合わせる。


「「……ああ」」

「納得した?」


 コクリと頷く。

 恐らく麗花も私と同じで、入学したばかりの頃を思い出していたに違いない。二人して悪目立ちしていたあの頃を。


「葵ちゃん! 桃は?」

「は?」

「桃もあだ名ないよ!」

「お前の場合は相手が近づこうとしてんのに、逃走して隠れてただろ。見た目親しみやすい方なのに変な動きばっかしてたから、皆そっとしてあげてたんだろ」


 自分のことに言及がない桃ちゃんはきくっちーからそう返されて、ガーンとなっていた。



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