Episode225-1 語られしポッポの生態
声のトーンが変わった。――吐き捨てるような、それへと。
「まあ私があの姉の妹って言うのは、紛れもない事実なんだけど。……姉のことは大好きよ? 自慢の姉だと思っているわ。でもね、姉は姉で、私は私よ? 私が出来ることを全部『茉李の妹』だからって、当然みたいな決めつけして欲しくないのよね。私は姉のクローンじゃないのよ? 両親も何かあれば『茉李のように、茉李のように』って、煩いし。そんなことをずっと言われ続けていたら私らしく頑張るの、何か馬鹿らしくなっちゃって」
笑って言っているのに淡々とした口調のせいで、どこか不気味なものを感じる。
「……やっぱり去年のアレは、態となんですか?」
「やっぱりその話をしてたのね。そうね? あからさまに『あの鳩羽会長の妹』って期待されて、すっごくムカついたわ? ちゃんと間に合う範囲でイタズラしたし、でもその結果、今年の高等部広報課はとっても作業効率が良くなったって聞くわ? ふふふ、ちゃあーんと私、補佐、できてるでしょ?」
『書記で今後杏梨と関わることも多くなると思うから話すけど、茉李から聞いた話だとあの子、影の実力者タイプなんだって』
その年ちゃんと間に合い、去年の反省が活かされた高等部の動き。
確かに結果を見たら文句は言えないかもしれない。影の実力者とは、何とも的確な表現である。
「今年はどうなさるのですか?」
「あら、そっちが気になるのね? ふふ、今年はちゃんと正しく補佐するわよ? ニホちゃん先輩送られてきちゃったし、姉に怒られたくないもの。それに……椿たちに迷惑は掛けたくないし」
「ということは、去年は掛けてしまったのですか?」
「うーん。広報課の実力の底上げっていう部分では伸びたけど、他の課の応援には行けなかったから。特に会長が補佐で携わる装飾課って、校舎全体の飾りつけの他にも、校門のゲート作成とか垂れ幕とかも作ったりするから、結構大変な課なのよね。私がしたことの反省があるとすれば、そこくらいかしら?」
広報課に対して微塵も悪く思っていないのは、何かもうあっ晴れとしか言えない。
しかし、そうも『有名な人の妹』として見られるのが嫌なのに、どうしてポッポお姉様は【香桜華会】の指名を受けたのだろうか?
「お姉様が【香桜華会】の指名をされた時は、どのような……」
ん~、と間延びするような声を発してから。
「成績とか平均より少し上くらいでちゃんと目立たないように調整していたのに、それでもやっぱり姉の妹だからっていうのが大きかったわね。断っても良かったんだけど……雲雀も誘われていたから受けたの」
直の『姉』の名が出てきて、何となく納得した。個性的な『鳥組』を結ぶ中間どころとしてと以前考えたことがあるが、やはりそうなのだろう。
雲雀お姉様も確かに私のことを“百合宮家の令嬢”として見てはいるが、それ以上に一後輩として見て下さっている。
そんなお姉様はきっとポッポお姉様のことだって『有名な人の妹』というよりも、一同級生として見ているのではないかと思う。だからこそ、ポッポお姉様も雲雀お姉様のことがお好きなのだ。
「『鳥組』って、すごく仲良しですよね」
「……そういうこと言うの、やっぱり『姉妹』ね。雲雀がいるから所属したのに、椿と千鶴とちょっと話していると、ニコニコして仲良しねって。千鶴はどうか分からないけど、椿は私の人間性に気付いているわ。去年の今頃はすっごく物言いたげな顔して見られていたけど、何も言ってこなかったし。それもあって、だから椿には迷惑掛けられないと思っているの。だから私のことを監視しながら作業しなくて大丈夫よ。ちゃんとやるから」
「そ、そうですか。それでは仁保先輩にもそうお伝えします」
「大丈夫よ。三人でやった方が早いって言った時、ニホちゃん先輩には通じたから」
「えっ」
確かに三人作業になった時に彼女は何も言わず受け入れていたけど、あれで判ったのか仁保先輩。すごい。高等部二年の実力(?)は伊達じゃない。
「姉と私って性格似ているから、好きになる友達も似ちゃうのよね。ニホちゃん先輩は『鳩羽 茉李の妹』としてだけじゃなくて、ちゃあんと私という人間は“私”なんだって、見てくれる人なの。だから私が前々から花蓮ちゃんと話したかった内容っていうのは、ここから」
緩く笑んでいたのさえ、消えた。
「――神童と呼ばれる兄がいて、その妹はどう感じているのかしらって」
……ああ、なるほどそっちだったか。個人的な話とは、てっきり椿お姉様の時のような雲雀お姉様の直の『妹』と、彼女のことで何らかの話かと、たった先程までは推測していたのだけど。
確かに私とポッポお姉様は、その点では似ている。
優秀な兄姉がいるからこその、周囲から向けられる比較と期待。私も小学校に上がるより前の未就学児童だった時はお母様からの淑女教育とは別に、筆記分野の教師を雇用してそういう教育をさせられていた。
鈴ちゃんはお兄様直々だったけど、あの頃の私はお兄様から避けられていた。そしてできた時の教師の褒め方が、“さすがあの奏多さまの妹君”。




