Episode219.5 side 薔之院 麗花⑯-2 彼女が向き合う現実
「……いや。まぁ、元から興味があった訳じゃないが、その、紅茶……好き、なんだろ? サロンでもよく紅茶を頼んでいたし」
紅茶は好物の度合いとしては普通だ。花蓮が紅茶を好きでそんな彼女の影響を受けて、私もあればよく選んで飲むようになっただけで。
そう思い、けれどサロンと単語を出された時、何故か心が疼いた。
『ま、まぁ、その、何だ。当然のことを言ったまでで、別に俺がずっとお前のことを見てた訳じゃ』
確か前に、そんなことも言われた気がする。
……サロンで感じていたあの密やかな視線は、やはり春日井さまでは……。
「……紅茶は、そうですわね。好きですわ」
「! そうか。他にはどんな味が好みだ? 色々あるだろ、アッサムとかニルギリとかキームンとか。紅茶が好きならフレーバーティは? フルーツだけじゃなく花やスパイスのものと豊富だが、薔之院はどれが好きなんだ」
「え? そ、ちょっと、即答はできかねますわ」
「分かった。菓子もある。何が好きか分からなかったから結構種類を用意した。ほらクッキーにも色々あるだろ、サブレとかビスキュイとかバニーユとか。一応フランスの伝統焼き菓子のガレットもあるから、どれでも好きなものを食べろ」
「え。あ、ありがとうございます」
な、何ですの? 何か緋凰さま、繊細なくせに結構グイグイ来ますわね!?
彼に関する一説では、女子に騒がれるのを煩わしく思われているということでしたのに!
頻繁に開かれる口に疼いていたものも飛んでいき、聞いていたイメージとはあまりにも様子が違う彼に若干どころではなくドギマギしてしまう。完全にこちらのペースは乱されまくっていた。
何なのだろうか? 忍との会話で、何か私のことを話したりしているのだろうか? それで興味を持たれている? それともお母様とご夫人の仲が良いからと、私とも仲良くし……ハッ!
内心の動揺を押し隠すように紅茶を一口飲む。舌の上に広がる果物の甘味を感じながらも行き着いてしまった考えのせいで、その素晴らしい味わいも半減してしまった。
恐る恐るゆっくりと正面の緋凰さまを見れば、やはりジッと私を見つめている。まるで一挙手一投足も見逃すまいとでも言うように。
「……あの、緋凰さま」
「何だ」
「その。女性をそのように穴が空きそうな程見つめるというのは、些かマナーに反しておりましてよ」
「っ、悪い。お前のことが気になっ……!!」
バッと手で口を覆い、逸らされた彼の顔は耳まで赤くなってしまった。
そんな反応をしっかりと見てしまった私の心臓がドキドキと騒ぎ始める。
……どうしましょう。そんなつもり、ありませんでしたのに。
何でこうなってしまったのだろう? いつから? いつから彼は、私のことをそういう風に見ていたのか。
まさか緋凰さまが私のことを――――
――――類似した特殊組織を持つ同士だと、そう認識されているだなんて……っ!!
『今が優秀でもいつか何かで躓きますよ。すってんころりん』
昔、花蓮がそう口にしていたことも思い出す。
親友が受けた女子の迷惑行動に緋凰さまの繊細な心は傷つけられ、そんな彼にいち早く気が付いた男子らが壁となって守る。
当時の私は女子のお友達作りを頑張っていたし、忍ばっかり目で追っていたから同じクラスだったにも関わらず、そんなことに気付きもしなかった。
博識で演技も秀逸で、スポーツも大会では賞を獲るほどの優秀さを兼ね揃えている彼の、唯一躓いたことが――――『女子はフランク』!
彼にとって女子は、女子校を一つの国扱いするぐらいに未知の存在なのだ。
私があの時嵌められたことは緋凰さまもその場にいたから、彼も知っている。取り繕ってはいたが、傷ついていると見抜かれてしまったのだろう。
それにいつから設立されたのか知らないが、女子の私にも緋凰さまと同様、新田さん曰く。
『気づけば薔之院さまを見つめ、その一挙手一投足に憧れ、危険なものからお守りしたい』
という、赤薔薇親衛隊なるものが作られてしまっている。そしてこの曰く内容、緋凰さまの不死鳥親衛隊の活動指針が私を彼に置き換えただけで、まったく一緒なのである!
組織名が異なるだけで同じ組織の頂点にいる者同士ということで、私のことを同士だと思われたのだ!
だから同士である私のことが気になるし、彼にとって未知の存在である女子でもあるから興味を持ってグイグイ来られるのだ!
まずは男子の忍で間にワンクッション置き、そうして彼から色々私の話を聞いて同士だと認められた。
……どうしましょう!! あの組織、私がいなくなっても解散しておりませんの!? だからまだ同士のままなんですの!!?
博識だからその知識欲を刺激されて、女子の生態を知るために観察対象が必要。
同士だから女子の観察対象として抜擢された。この私が観察対象……。
圧倒的なオーラを発する顔が女子の生態のために、私のことをずっと見つめ続ける。
そんな想像をしてしまい、嫌な緊張で胸がドキドキし始めた時。
「――――美麗、ご主人。ウチはそういう感じだけど、如何かな?」
グルグルと妙な焦りを覚えていたところに緋凰夫人から両親へと、そんな言葉が発せられた。




