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Episode218-2 お母様の仲直りお食事会


 …………聞いてない! 学生時代に仲良かった話は聞いているけど、幼馴染とか疎遠になったとか聞いてない!!

 どういうこと!? いま一体何が起こっているの!!?


 気を抜けば白目を剥いて気絶しそうな今、気絶している間に二人が仲直りして、


『どうする? ウチの息子と貴女のトコの娘さん、仲直り記念に婚約でもさせちゃう?』

『お、それいいねー!』


 とかになったら目も当てられないので、必死に気力を保って踏ん張る。絶対にそんな流れにさせて堪るもんか!

 突如として訪れた人生の危機に特大ストレスがドカンときて、胃もキリキリしてきたが、可能な限り事前に情報を得るべく口を開いた。


「その、白鴎夫人はどのような方なのでしょうか? 疎遠前まではどのようなお付き合いを?」

「そうねぇ。とても物静かで、よくお母様の後ろを付いて歩く方だったの。同じ歳なのにそんな私達を周囲の方たちは、まるで本当の姉妹のようだと囁いていたくらいに。私のことが大好きな子で、それは決して自惚れではなかったわ。私もそんな彼女が大好きで、ずっと傍にいたの」


 そこまで話してくれたお母様だけど僅かに目線を下げて、目元に影を落とした。


「だから……傍にいすぎたから、気づかなかった。彼女が本当は、何を思って私の隣に在り続けていたのかを」

「何を思って、隣に……?」

「ええ。ただ単純にお互いのことを、『好き』だけでいられたら良かったのに」


 私に聞かせているようでいて、自分自身にも語りかけているかのような、その言葉。

 ……どういうことだろう? 花蓮と詩月の婚約は、花蓮が詩月の近くに寄る女子を葬り去る中で、中学の時に成ったもの。


 ヒロインが主役のゲーム上では、ライバル令嬢の深堀はしていない。だから彼等の婚約自体は会社関係の都合なのか、母親同士の仲があって結ばれたものなのかは、正直分からない。

 けれどお母様と白鴎夫人は、学生時代から疎遠になっている……?


 だとしたら母親同士の仲での線は消える。会社経営だって順調で、お父様だって元々家を守るために仕事に掛かりきりになっていたのなら上昇志向の野心なんて無く、成績が下がらないよう現状維持に努めていたのでは?

 だって野心なんて大企業の社長の地位に既に就いているし、婚家も由緒正しき家柄である。


 お父様が起こした悪事の中には横領や脱税があったが、何故そんな悪さをしたのかは不明であった。

 もし豪遊しただの愛人がいただのといった悪事を起こす動機があったのだとしても、他社と結びつくのなら、こちらが優位に立てる下位家格が経営しているところを選ぶ筈。


 同位家格の白鴎家なんて逆にリスキーだ。裏事情においてのメリットがお父様にはない。

 実際問題、露見して断罪されてるし。


 花蓮だって自分の意思を持たないお母様の操り人形であったのなら、例え詩月に執着していても自分から彼と婚約したいなどと、そう言い出す筈がないのだ。

 だって断罪される時でさえ表情一つ、顔色さえも変えなかった花蓮なのだから。…………あれ?


 ――――じゃあ何があって、花蓮と詩月は婚約者になったんだ……?



 そんなことをつらつらと考えている内に目的地に到着したらしい。地下駐車場に停車し、お母様とともに降車する。

 お食事をする仲直り会場は高層ビルが建ち並んでいる中にある、とあるホテルレストラン。三十八階から一望できる街並みが絶景の、きちんとしたドレスコードを求められるお食事処だ。


 そのためお母様はロイヤルブルーのすっきりとした袖なしロングドレスに、二の腕に届く白のレースボレロ。

 私はストライプがクラシカルなネイビーアシンメトリードレスで、ドレスの裾部分に同色のチュールレースがあしらわれて軽やかな印象を見る者に与える。肩にはシフォン素材の白いタックドスリーブのフリルボレロを着用。

 うん、一目で親子なことが丸判りな格好です。


 いつまで経っても若々しいお母様と薄幸美少女である私の組み合わせはやはり人目を惹くらしく、エレベーターで三十八階まで上がってウェイターに案内されながら進む度に、他のお客さんから密やかな視線を頂いた。

 そうして案内された先。恐らく一番見晴らしが良いと思われる席には、既に一人の女性が座っていた。


 彼女も私達が近づいてくるのに気づき、辿り着いた際にはとても優雅な微笑みを浮かべてから静かに席を立つ。



 ――――とても美しい女性(ひと)だった。


 間違いなくあの佳月さまと詩月の母親だと頷ける、静謐な美貌。

 一見すると冷たく見えてしまうかもしれないが、彼女から滲み出る月の光のような淡い、柔らかさのある雰囲気がそれを打ち消している。


「お久し振りね、咲子さま」


 袖のないクルーネックに、上半身は花模様のレースで上品なウエストリボンのライトグレードレスを着ているその人は、微笑みを浮かべたままお母様へと一度視線を。そして、その隣にいる私を見つめて。



「ふふふ。初めまして、百合宮 花蓮さん。私は貴女のお兄さんと妹さんと仲良くさせて頂いている兄妹の母で、白鴎 静香と申しますの。――――よろしくね?」



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