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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode20-0 催会ミッション

 麗花が大丈夫なら、私も大丈夫かもしれない。


 そんな気持ちがぽっこり出てきた私、月編ライバル令嬢の百合宮 花蓮。まだ六歳である。


「お兄様! 絶対、絶対に私から離れないでくださいね!」

「はいはい。でもお手洗いに行く時は離れるからね」

「付いていきます!!」

「……」


 気丈にもそう立ち振舞っているが、実際足元はガクブルである。


 小学校の生活にも慣れてきた今日この頃、時期は四月半ば。未だ友達は柚子島たっくんしかいないという寂しい現状ではあるが、今はそんなことをうれいている場合ではない!


 今日はお兄様が誘われている、とある家の催会に無理にお願いして付いて来ていた。それもあの、恐怖の男・白鴎 詩月も参加する催会である!!


 頼んだ時にお兄様には、にべもなくお断りされたがしつこく追いかけ回してお願いしたら、結局は折れてくれた。催会出席を断り、逃げに逃げまくっていたのにどういう風の吹きまわしだと、大変訝しまれたが。


 あの衝撃の『麗花、緋凰 陽翔アウトオブ眼中事件』から、私は考えていた。

 麗花が緋凰を気にしていないのなら、私も白鴎のことを気にしないでいられるのではないかと。


 そしてこうも考えた。


 ゲームの始まりは高校の入学式。

 それまでずっと白鴎の影に怯えて、逃げて暮らさなければならないのかと。


 もちろん怖いし、偶に見る夢の影響もあったりしてできる限り会わないに越したことはないが、試してみようと思ったのだ。


 直接会って話すのなんて論外。

 今回の参加目的は、白鴎の姿を遠目から見るだけと掲げている。


 ……けど、怖いものは怖いんだよ~っ!


 ギュウッとお兄様の手を握りしめ、縋りつくようにして立つ。先程から見慣れぬ幼い女の子(私)がお兄様の傍にいるからか、先に来ていた参加者は窺うようにしてこちらを見ていた。

 お兄様も微笑んでいるだけで、窺う周囲をものともせず私に話し掛ける。


「花蓮、お菓子でも食べる?」

「……お菓子よりお茶が飲みたいです」


 緊張で会場入りする前から、喉はカラッカラだった。俯きがちにそう答えれば、「そう」と頷いて手近にあったテーブルからカップを取り、手渡してくれる。


 飲むためにはお兄様の手を離さなければならず、仕方なく手を離して両手でカップを持ち、チビチビと飲み物を口にした。

 仄かに香るイチゴの甘酸っぱい香りとすっきりとした味わいに、緊張していたものが幾分か落ち着いてくる。


「お兄様。このストロベリーティー、とても美味しいです!」

「うん。米河原家の食品ブランドの紅茶だからね」

「まぁ、瑠璃子さんのお家の!」


 なんと! それは美味しい筈だ。

 帰ったら瑠璃子さんに感想言わなくちゃ! まるで瑠璃子さんのように癒してくれる、素敵茶だと!!


「家に帰るのが楽しみです!」

「来たばかりでもう帰る気なの?」


 ニコニコ笑いながらお兄様と話し続けていると、「百合宮くん!」と掛ける声が私達の間に落ちた。


 その声にお兄様が振り返り、爽やかに微笑む。


「遠山くん」

「今日の催会、百合宮くんも誘われてたんだな。教室で何も言ってなかったから、てっきり行かないのかと思ってた」

「いや、わざわざ言うことでもないし」


 一通り挨拶を気軽そうに交わした、どこかお調子者そうな少年の顔が私の方に向いた。


「ところでこの子誰? 親戚の子? すっごい可愛いなー」

「へ?」


 親戚の子? 私の事?


「……僕の妹だよ」

「えっ!? 百合宮くん妹いたの!? だって今まで見たことないぜ!?」


 驚いて、マジマジと私とお兄様を交互に見てくる少年。

 肩を震わせて笑いを堪えるお兄様に、私はムスッと頬を膨らませた。


 ふんだ!

 いいもん、どうせ出席する価値もないって見下しているような性格の悪い子だよ!


「花蓮、彼は僕のクラスメートの遠山とおやま 金成かねなりくん。クラスのお調子者だよ」


 やっぱりお調子者なのか。

 私は紹介された遠山少年へと向き直る。


「はじめまして。私、百合宮 花蓮と申します。お兄様がいつもお世話になっています」

「ええっ。いやお世話になっているのは俺の方だし! 俺は遠山 金成。花蓮ちゃんって呼んでもいい?」

「え、はい」


 頷けば遠山少年は「おおおっ」と何故か感動した。


「さすが百合宮くんの妹って感じだなー。すごい素直で良い子! 俺の妹とは全然違うわ。あ、比べんなって話だよなー」


 あははーと笑う遠山少年はとても気安く、面倒見の良さそうなお兄ちゃんって感じだ。


 ん? 何ですかお兄様、「素直かなぁ?」って言って首を傾げたりして。


「今日は他に誰か来るとか聞いてる?」

「あー、どうだったかなぁ。確かウチのクラスでは設楽と栗林が来るって聞いた気がする。百合宮くんの方は? ファヴォリのメンバーって来るの?」

「いや、特には。僕も本当は不参加の予定だったんだけど、妹にせがまれてね」

「そうなんだ?」


 えっ、お兄様今回行く気なかったの!?

 初耳なんですけど!


 交わされる会話を何となしに聞いていたら、まさかである。


「そ、そうだったのですか? 私てっきり参加されるものとばかり……。ご、ごめんなさい」

「いいよ。外に出たがらない花蓮が参加したいって言い出すなんて、とても珍しいからね。どう? 会場の雰囲気とか」

「まだ来たばかりで分かりませんが、楽しもうと思います」


 微笑んでそう言うと、お兄様も遠山少年も笑った。


「いいなー。俺もこんな可愛い妹欲しいー」

「ははは。あげないよ?」

「冗談だって。……おお? 誰か来たっぽいぞ」


 遠山少年のその声に、耳を会場入り口付近に澄ませれば、確かにザワザワとざわめきが広がっている。


「どなたが来られたんですかね?」

「さぁ……、あ。あれは」


 尋ねても言葉を濁したお兄様だけれど、途中あっ、て顔をしたので誰が来たか分かったらしい。誰? 誰が来たの?


 両手にカップを持ったまま入り口扉に視線を向けて、確認しようとした時。


「あっ」


 入り口扉へ行く前に、私の視線はとある男の子へと留まった。


 つまんなそうな顔をして所在なさげにキョロキョロしているあれは、太刀川くんこと裏エースくんではないか!


 クラスでは男の子たちと笑い合って騒ぎ、休み時間にはサッカーをしてキラキラ笑顔を振りまいている彼が、何だか小さく見える。

 クラスメートが私に近寄ってこない理由はたっくんから聞いて知っているが、しかしこの裏エースくんはいつも「一緒にサッカーしようぜ!」と、必ず声を掛けて誘ってくれている。


 ニシシと歯を見せて笑うその表情は、けして社交辞令ではなく本心から言ってくれているものだと分かるが、一応今年は令嬢らしい振る舞いをすると麗花と約束した手前、せっかくのお誘いだったが泣く泣くお断りせざるを得なかったのだ。


 そんないつも明るい裏エースくんが、つまんない顔をしている。きっと私のように、こういう場には慣れていないのだろう。……よし!


「お兄様、私少し向こうに行ってきますね!」

「え、ちょっと花蓮!?」


 声を掛け歩き出した私にお兄様の戸惑った声が聞こえたが、今は裏エースくんのところに行くことが先決だ。ごめんなさいお兄様!


 入り口扉からそう離れていない場所に立っている彼は、まだ私の存在に気がついていない。多分大丈夫だろうが、ご令嬢らしく微笑んで……。


「太刀川くん」

「え? あ!?」


 あ!?って。

 ちょいと、驚き過ぎじゃないですかね?


「奇遇ですね。太刀川くんもご参加を?」

「お、あ、うん。百合宮さんも、だよな。あっ違った、ですよね?」

「ふふ、いつもの話し方で大丈夫ですよ。私もその方が落ち着きます」

「そ、そうか? あー、俺丁寧に話すのとか苦手でさ。そう言ってもらえるとすごい助かる」


 ホッとしたように息を吐き出して、苦笑する裏エースくん。


「ここで立ち話するのもなんですし、座ってお話しませんか?」

「そうだな。じゃ、あっち行くか」


 隅の壁の方に設置してあるソファに向かって、一緒に歩き出す。


 二人ちょこんと座れば、何だかんだで来た頃よりも会場はザワザワと盛り上がり始めていた。

 持って来ていたストロベリーティーを、コクリと一口飲んで喉を潤す。


「お見かけしてつい話し掛けてしまいましたが、太刀川くん。こういう場の参加は初めてですか?」

「あ、やっぱ分かる? 親父の会社の取引先が主催してるから、行ってこいって言われてさ。知らないヤツらばっかりの場所で何しろっつーの。だから正直、百合宮さんが話し掛けてきてくれて助かったって言うか」

「そうだったのですか」


 なるほど、取引先のご機嫌伺いか。

 今回の催会の名目上はその子の誕生日会だしなぁ。


「でも百合宮さん、さすがだよなぁ。何かこうして話しても教室で話してんのと変わらない。堂々としてるよな」


 いやだって前世合わせて二十九歳だし。

 あっ、でも今年で歳上がったら三十歳だ! 精神年齢おばちゃんの域だ!!


「ほ、ほほ。そんなことありませんよ。私だってこういう会は、あまり参加したことありませんし」

「あ、そっか」


 納得された。


 と、言うことはだ。

 裏エースくんも裏で私が何と噂されているかを知っていることになる。


「あの。太刀川くんにお聞きしたかったことがあるのですが」

「何々?」

「私、クラスであまり良く思われていないでしょう? それなのに、どうして太刀川くんは毎日サッカーに誘ってくださるのですか?」

「え? あー……。もしかして噂のこと知ってる?」


 コクっと頷けば、あっちゃーって顔をした。


「本人知ってんのかよ……。あー……の、さ、気にすんなよ。クラスの皆だって百合宮さんと話したら、そんな噂のような子じゃないって分かるって」

「あ、はい。そう言ってもらえるのは嬉しいのですけど」

「あ、俺の話だったっけ。いやさ、柚子島が楽しそうに百合宮さんと話してるからさ」


 たっくん?

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