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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立香桜女学院編―春はあけぼの―
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Episode204-2 イースター行事ミサ本番


 恐らく雲雀お姉様の『姉』だった先輩は、そんな個性の強い『鳥組』のお姉様方を結ぶ中間どころとして雲雀お姉様を指名されたのだろう。

 私達『花組』も何気に強個性ばかりだが、上手いことぶつかることなく過ごしている。……いや、私はきくっちーにぶつかられたな。


 それも今となっては良い思い出だと黄昏たそがれる。


「私もこうしていま自分が【香桜華会】でお姉様と一緒に、あの思い出深い行事を共にするだなんて思っていませんでした」

「ええ? でも花蓮さんは私達の中でも、すごく噂になっていたのよ? 花蓮さんと麗花さんを指名するのは、入学してきた時からもう大体確定していたもの」

「えっ、そんな最初の頃からですか!?」


 ぼへーと見ていたその時には、既にロックオン済みだったと!?


「だって麗花さんはあの聖天学院から、わざわざここに受験してくるんだもの。それが世界的に有名なファッションブランドを展開している、薔之院家のご令嬢でもあるし。あと入学式の時の新入生代表挨拶がダメ押しね。それで椿がもう一目惚れしちゃって」


 そう。私と麗花が入試成績トップツーだったが、トップワンは麗花だった。自己採点したら、私は一問だけミスっていた。

 入学式の時の凛として立つ美少女麗花の姿に誰もが目を逸らさず注目していたのも、良い思い出。


 私の場合も百合宮家のご令嬢だからということだろうかと思って訊ねると、軽く横に首を振られて。


「それもあるのだけど、花蓮さんって催会にまったく顔を出していないでしょう? 『あの百合宮家に長女がいた!』って皆興味津津でね。百合の貴公子で神童と名高い兄君に対して、私達の間では百合の掌中の珠(リス・トレゾール)って密かに呼んでいたの。知っていた?」

「し、知らなかったです……。私、そんな呼ばれ方されてたんですか……」


 愕然とする。

 ゲームでは白百合の君と呼ばれていたが、それよりもグレードが上がっている気が。ていうか皆あだ名付けるの好きだな。


「普段の生活態度を見ていても良好だし、椿が一目惚れした麗花さんとも仲良しだし。成績はもちろん、クラスでもまとめ役を結構こなしていたのも知っているわ。その二人とよく一緒に行動している葵さんと撫子さんも、だったら間違いないんじゃないかしらって。運命の巡り合わせか『花組』の条件にも合致していたし。私もそうだけど、三人も『妹』が彼女たちで良かったって、そう思っているのよ」


 ふわりと笑みを零され、それに私も嬉しくて笑う。

 色々と雑務雑務で忙しく大変な【香桜華会】だけど、仲良しの三人と素敵なお姉様たちと一緒に協力して日々を送り過ごせることは、とても楽しくて毎日が充実している。


「――皆さん、準備はよろしいですか?」


 とノックがあってから開かれた扉の先には、【香桜華会】顧問である六十谷むそたにシスターがいた。六十谷シスターはシスターであるが教員も兼任しており、私達『花組』二学年の学年主任も勤められている。

 黒の修道服に身を包み、銀縁の眼鏡を掛けていて学院規則に厳しく、彼女の名字と合わせて密かに生徒からはロッテンシスターと呼ばれている人だ。


 彼女は眼鏡のブリッヂをクイッと軽く押し上げ、会室で着替え終えて準備万端の私達を見渡す。それまで和やかだった会室の空気に、緊張感が漂うのを肌で感じた。

 ロッテンシスターの言葉を受けて他のメンバーを一度視線で確認してから、椿お姉様が答える。


「はい。『姉』から『妹』への、最後の仕上げも終えています」

「そうですか。貴女方は他の生徒よりも早くチャペルへ向かわねばなりません。参りますよ」

「「「はい」」」


 全員で揃って返事をし、縦に一列で並んで移動を開始する。

 シスターを先頭に並んで歩く私達へ、途中ですれ違う生徒たちからキラキラとした眼差しで挨拶をされる。にこやかに「ごきげんよう」と返すのは、最早この一年で慣れたものだ。


 ロッテンシスターが近くにいるから今はしないが、きくっちーが手を振って返すと途端、アイドルを目にしたファンのように黄色い悲鳴が上がる。

 聖天学院の運動会で攻略対象者が軒並み黄色い声援を受けていたのと、まあ似たようなものである。


 チャペルに到着し、正面からは隠れている祭壇の横壁にある控室にて待機。

 ロッテンシスターは学院長と共に再入場するので、軽く注意事項を伝えてから退室した。

 本番がもうすぐという緊張感のある中で、先程の椿お姉様が仰っていたことが気になった私は、雲雀お姉様に小声で質問する。


「あの。椿お姉様が仰っていた、『姉』から『妹』への最後の仕上げって何ですか?」

「ああ、それはね」


 顔を寄せて同じく小声で返してくる声には、溢れんばかりの慈愛が満ちていて。



「『妹』の緊張を取り除くのが、私達『姉』の最後の仕上げなのよ」





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





 そうして行われた今年のイースター行事ミサも、練習と猛特訓の甲斐あって無事に成功を収めた。

 選ばれそれを受けたからには責任が伴う。生徒間だけでなく学院の象徴として、代表として。


 それは時には大きな重圧となるけれど、一人ではない。

 仲間がいて、助け合える環境の中で私達も色々なことを学んで成長していく。


 イースターはイエス・キリストの復活を記念する復活祭。そして冬が終わり生命いのちの芽生える春を祝う春の祝祭。

 ミサの後、『花組』には『鳥組』からイースターのメッセージカードが直接手渡された。


 先生から生徒へ渡される私達が書いた定型メッセージではなく、初行事達成までの『妹』の頑張りを見ていてくれた『姉』からの――――歓迎と、お祝いの言葉を。


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