Episode19-0 女子3人で誰かの話
「ということなんですよ、ふふふ~」
「笑い方が気持ち悪くてよ」
「気持ち悪いって何ですか、失礼な!」
「相変わらず仲良しですね、二人とも」
どこがですか、瑠璃子さん!
私笑い方が気持ち悪いって言われたんですよ!? せっかく気分良くたっくんとの友達までの軌跡を語っていたのに!
今日は麗花の家にお邪魔して、プチ女子会を開催している。
まだ低学年なので午前授業のみで、昼休憩が終わったら掃除して終了なのだ。
三人ともたまたま習い事や家庭教師もなく、それに入学して初めて会うということもあって、学校が終わってそのまま集合したのである。
プンスカと頬を膨らませていると、膨らんだ頬を麗花が突いてきた。
「ちょ、痛い痛い! さっきから何なんですか麗花さん、不機嫌!」
「不機嫌にもなりますわよ! 私が友達作りに苦戦しているのに貴女ときたら、嬉しそうにペラペラと!」
やっぱり苦戦しているのか麗花。
「うーん、瑠璃子さんはどうですか? 学校のお友達ってできました?」
話を振ると、彼女は遠慮がちに笑った。
「麗花さんには申し訳ないですけど、何とかお隣の子とは親しくなれました」
「わ、私だけですの!?」
ガーンと分かりやすく表情に出して、ショックなご様子。
でもいくら何でも、麗花は友達できなさ過ぎじゃないかな?
「私や花蓮さんのように、席の近い子とお話とかなさらないのですか?」
「するにはしますけど、ウマが合いませんの」
「合わないって、どんな風に?」
揃って聞けば、麗花はムムッと眉間に皺を寄せる。
「あの子たち、毎度同じ話しかしないのですわ! 最初は合わせていましたけど、何回も同じことを繰り返せばいい加減我慢なりません!」
「同じ話って?」
「誰が格好良いだの、素敵だの。よく飽きもせず繰り返し話せるものだと、逆に感心してしまいますわ」
「……へぇ~」
本当、へぇ~しか言えないわ。
しかしそんな私と違って瑠璃子さんは親身になって、どうにか解決しようと麗花に質問している。
「麗花さんはそういったお話は苦手なんですか?」
「苦手と言いますか、実にならないと言いますか……。根本的に何がそんなに楽しいのか、分かりませんの」
近い未来、ヒーローに一目惚れして追いかけ回す人物の台詞とは到底思えない。
「楽しいか、と聞かれれば私もお答え出来ないです……」
麗花の返答に残念そうに俯く瑠璃子さん。
私も色恋のことに関しては前世含めてさっぱりだから、下手なことは言えないなぁ。
「だったら、同じ話でもそれとなーく違う方向に内容を変えていく、っていうのはどうですか?」
そんな私の提案に二人とも目を丸くする。
「どういうことですの?」
「例えばあの人素敵ですわーとか言うじゃないですか。だったらその対象となった人の家に関することとか、好きなこととか、知っていることを何でも良いので話すのです。きっかけはそこからでも、枝分かれさせていけば、全く関係ない話になりません?」
「なるほどですね。お菓子が好きなんです、どこのメーカーが好き、あそこの何々が美味しい、どうやって作っているのかっていう感じですね」
おおう、例えるの上手いな瑠璃子さん。
麗花も感心した様子で頷き、「や、やってみますわ!」と意気込んでいる。
「でしたら、まず練習してみませんか?」
「あ、そうですね。練習もなしに本番でいきなりというのは難しいですもんね。麗花さんファイト!」
「が、頑張りますわ!」
ということで、練習が始まった。
当然話題は私達では語るに難しい恋愛の話である。
「と、取りあえず、麗花さんのクラスの男子で、一番素敵だと言われている方ってどなたなんですか?」
「クラスメートの話では、緋凰さまらしいですわ」
「ブフゥッ!!」
思わず噴き出してしまった私に麗花が、「何なんですの!?」と文句を言ってきた。
ちょ、ストップ! ストップ!!
「れ、麗花さん! 緋凰さまと同じクラス何ですか!!? しかもらしいって、どういうことです!」
「急に何ですの!? 同じクラスですけど、男子にまで気が回りませんし女子だけで手いっぱいですわよ!」
私のあまりの剣幕に押された麗花がポロッと普段なら絶対言わない本音を漏らしたが、私が受けた衝撃はそのことを凌駕するほどに凄まじいものだった。
だって貴女、その緋凰に一目惚れするんだよ!?
同じクラスとか女子だけで手いっぱいとか、どういうこと?!!
「き、気にならないんですか!?」
「気になるかって聞かれましても。今は男子より女子ですわ」
マジか!!
麗花が緋凰のことアウトオブ眼中だ!!
青天の霹靂とはこのことである。
私の両親とかお兄様が変わったように、麗花も変わっているってこと?
「そう、なんですか……」
「……えぇ。よろしいですの?」
「あっ、はい。続けて続けて」
どこか釈然としない様子でじっと麗花に見つめられていたが、そのことにも気がつかないほどボーッとしてしまう。
麗花が緋凰のことを気にしていないのなら、もしかして私も、大丈夫な可能性がある? 白鴎と会っても、私は“私”でいられる……?
私がボーッとしている間にも、二人の会話は続行していた。
「緋凰さまのどのようなところが素敵なのですか?」
「ええっと。お顔立ちが整っていて、頭の回転が速いってお聞きしていますわ」
「頭がクルクル回っているってことですかね。クルクル~」
「……ゆ、優秀なのですね。さすが、緋凰家の御曹司というべきですか」
「そうですわね。聞いた話では家庭教師の出される問題にも、難なく答えられているとか」
「今が優秀でもいつか何かで躓きますよ。すってんころりん」
「…………そ、それは女の子達に騒がれているのも分かりますね。お名前もとても格好良い響きですし」
「“陽”に向かって“翔”ぶ。漢字も綺麗ですわよね」
「カキカキカキ」
麗花が緋凰に会っても大丈夫だったのなら、私が白鴎 詩月と会っても……?
「花蓮さん、一体何を書いて……ぷっ」
「貴女もさっきから茶々入れてないで協力……ちょっ」
「え、何ですか……わぁっ!?」
ニ人が私の手元を覗き込んで急に噴き出したので、ハッとして思考の波から浮上すれば、どうやらいつの間にか会話に参加していたらしく、自分が書いたらしい手記が目の前にあった。無意識こわっ!
「あ、貴女っ、ひ、緋凰さまに何か恨みでもあるんですのっ!?」
堪え切れていない笑いを漏らしながら指摘されるも、そんなわけはない。
しかしながら、一体私は何を思ってこんなことを書いたのか。
<ひおう はると ひおーはると
ぴよぉーはると ピヨー>
「ぶふぅっ」
「自分で書いといて何笑っているんですの! ぷぷっ」
「そうですよ! それにしても、ふふふっ」
恋愛話の練習だった筈が、こうして笑い話となって終わったことは言うまでもない。
麗花の部屋の外からそんな私達の笑い声を耳にしたお手伝いさん達は、「あの麗花お嬢さまのお部屋からお友達の笑い声が……っ!」と、感激に涙していたとか。
そして私が無意識で話していたり書いていたりしたことが、遠い未来の厄介事の原因として自身に降りかかってくるとは、まさか夢にも思わないのであった。




