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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode188-2 瑠璃子の本音


 頭を悩ませる私達に、その時本宅の外線電話から繋ぐ場合にしか鳴らない呼び出し音が鳴った。

 一旦そちらへと瑠璃ちゃんが向かって取り、話し始める。すると受話口を片手で押さえて、「花蓮ちゃん」と私の名が呼ばれた。


「何?」

「麗花ちゃんから。代わってって」


 声を落として告げられた名前に目を丸くして受け取り、受話器を耳に当てる。


「もしもし? せいコーチ?」

『何ですのその呼び方は』

「や、コーチの名前を呼んだらちょっとアレな人が来ていて」

『アレな人? 他に誰か来ておりますの?』

「うーん。来たというか、私が召喚したというか。今年はコーチが不在だから、運動が得意な人に見てもらおうと思って」


 そう言えば、『貴女じゃ難しいですものね』と返ってきた。

 そうですね。自分でもそう思ったけど、今年の異常に最初に気づいたのはこの私だよ。


「それで、どうしたの?」

『いえ、貴女が口にした通り、今年は私が不在の中で行われておりますから。例の件が心配で連絡しましたの。今年は大丈夫ですの? 何か見つかりまして?』


 なるほど、麗花も瑠璃ちゃんの今年は何だろう……が気になったらしい。そりゃ去年は首カクカクだったから心配するよね。


「落ち着いて聞いて。実は……世にも恐ろしい事案が発生した」

『え!? なに、どうしましたの!?』

「汗をかかない」

『え』

「汗をかかない。始めてから一筋も。まっさら」

『……え!? え?!』


 二度驚愕の声を上げたので、正コーチの異常認識反応速度は私のそれと同等だ。


『汗をかかないって。それ、大問題じゃありませんの!』

「そうなの! 今どうすればいいかって、皆で顔を突き合わせて悩んでいる最中で。臨時コーチが言うにはストレスや疲れが関係しないかってことなんだけど、聞いてもそんなもの感じてないって瑠璃ちゃんが」

『ストレスや疲れ……自律神経の話ですわね。自己申告でも本人が気づいていないストレスがあったりすることもありますから、詳しく聞き出した方が良いと思いますわよ』

「本人が気づいていないストレス?」


 聞き返せば、詳しく教えてくれる。


『本人がストレスじゃないと思っていても、それが実際はストレスになっている、ということですわ。瑠璃子、毎年頑張ってはおりますけど、体重が減っても見た目に反映はされていないでしょう? 例えばの話ですけど、それが毎年のことだから「もしかして今年も」と意識下にあるのだとしたら、それが無意識のストレスになっている可能性がありますわ』

「なるほど……!」


 毎年の積み重ねが悪い方向で今回、遂に爆発してしまったと。

 さすがしっかり者の麗花さん。目のつけ所が違う!


「分かった! ありがとう正コーチ!」

『ええ。……ただ』

「ん?」


 続く言葉を途切れさせたことに首を傾げて待つと、声に迷いが表れていた。


『……ダイエット訓練のことじゃ、ないかもしれませんわ』

「え? それって、日常にある何かで抱えているかもしれないってこと? ……もしかして、何か心当たりある?」

『今年の問題がそれということで、少し。ああ、私のせいかもしれませんわね……』

「えっ」

『もう一度、瑠璃子に代わって下さる?』

「う、うん。分かった」


 そして再度瑠璃ちゃんを呼んで電話を代わり、春日井のいるところへと戻った。


「傍で待機してなくていいの?」

「はい。多分、私は一緒に聞かない方がいいかな、と」


 瑠璃ちゃんのストレスに自分が原因かもしれないと彼女が判断したのは、恐らく麗花のやりたいことが関わっているのだと思ったからだ。

 なら内容を知っている瑠璃ちゃんが私に秘密にするくらいだし、取り敢えず様子を見た方がいいかなと。


 そうして暫く様子を見ていたが、小さく首を横に振っているあたりで何やら瑠璃ちゃんの様子がおかしくなった。


 ……? あれ?

 何か、肩が小刻みに震え出し……?


 話が終わったのか受話器を置いて、けど、その場から動かない姿に嫌な予感がする。春日井からも「百合宮さん」と声を掛けられ、無言で頷いて私は瑠璃ちゃんの元へ向かった。


「瑠璃ちゃん」


 振り返らない。横から覗き込めば顔を両手で覆っていて、その指の隙間から――嗚咽が漏れている。


 背中を軽く擦り、横からタオルを差し出されたので見れば、お父様が無言で持ってきてくれていた。蒼ちゃんはマシンの隣で眉を下げて、心配そうに自分の姉を見つめている。

 お父様の手からタオルを受け取って、「瑠璃ちゃん」と声を掛けて顔を押さえている手に当てれば、震える手でそれを顔へと押し当てた。


「……かれっちゃ、私、私……っ」

「うん」

「私、本当にね、二人のことがっ、だい、大好きなの」


 突然告白されて少々驚くが、頷くだけで口を開かず静かに耳を傾ける。


「うん」

「ほん、本当は、おう、応援しなくちゃって、おもっ、思って、いるの。でもっ、でもねっ。やっぱり、さび、寂しくて! 私にとって二人は本当に、大好きな、友達だから! 思っちゃ、ダメなのにっ、でも、ずっとっ、一緒にいたくて……!!」

「瑠璃ちゃん……」


 途切れ途切れに、けれど必死に伝えてくれているその内容。

 詳しいことは分からない。けど彼女が私と麗花とずっと一緒に居たいのだということだけは、強く伝わってくる。


 私の場合はやっぱり中学受験で、それも全寮制のところだからなぁ……。

 指示元へとチラリと視線を遣ると、背中を丸めて縮こまっていた。



『今は内緒だけど麗花ちゃんのそれは、きっと花蓮ちゃんにとっては嬉しいことよ』



 私にとっては、で気づけば良かった。

 きっとそれは無意識に出た発言で、私も瑠璃ちゃんがいつもニコニコ笑ってくれていたから気づかなかった。


 そうだよね。離れることになって寂しいのは、皆同じだよね……。


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