表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
411/641

Episode188-1 瑠璃子の本音


 そんな何かを感じるような時間だったが、ずっと走る姿を見つめていた春日井から再度ポツリと。


「……アドバイス、ということだけど。ちゃんと一定のリズム感覚で走れているし腕の振り方も正確だから、特に言うことはないんだけど」

「え? そうなんですか?」


 臨時コーチのお言葉に私も瑠璃ちゃんへと視線を戻して、ジィッと見つめる。

 ……今年だけ何もないのか? まぁ、それならそれで問題は…………ん?


 よくよく目を凝らす。ふぅっ、ふぅっ、ふぅっと彼女が走っているその隣では、既にマシンから離脱した蒼ちゃんが床にバタンキューしている。そしてそんな蒼ちゃんをお父様が甲斐甲斐しく、せっせとお世話をしてあげている。

 例えばルーム内冷蔵庫から飲料ドリンクを取り出して、コップに注いで飲ませてあげたり。ルームクローゼットからタオルを出して、流れ落ちる汗を拭いてあげたり。汗を、拭いてあげたり。……汗。


「瑠璃ちゃんストップ! ストップ!!」

「え?」

「百合宮さん?」


 世にも恐ろしい問題を見つけてしまい慌てて制止の声を上げると瑠璃ちゃんはマシンを止め、隣から訝しげな声が上がる。

 しかし説明する間も惜しい程の焦燥に、私はタッと瑠璃ちゃんの元へ駆け寄った。


「どうしたの瑠璃ちゃん!?」

「え? なに? 何の話なの?」

「何で汗かいてないの!? 通り汗は?!」


 私の剣幕の理由と言われていることが理解できていないのか、「え? 汗……?」とオロッとしている。


 今まで動きにばかり異変がないか注視していたせいで、基本が頭から抜け落ちていた。

 麗花は薄ら額に汗を滲ませる程度だが、瑠璃ちゃんは毎年通り汗。持久力が付いて年々記録を伸ばしている彼女だが、最初の時から汗をかく量はまったく変わらなかった。


 持久力が伸びる分、流れ落ちる汗の量も増えるので最早用意されるのは彼女の場合だと普通のタオルではなく、大判のバスタオルになっている。

 ……それなのに今年だけ汗をかいていない!? 彼女の脳は一体どういう指示を身体に出しているのか!


「……あら? そう言えば、濡れた感触が全然……」

「もっと早く気付いて!?」

「どうしたの?」

「大変です臨時コーチ! 瑠璃ちゃんがっ、瑠璃ちゃんが汗をかいていません!!」

「え?」


 こちらにやってきた春日井に訴えれば、台詞通りの表情をする。


「汗? でも走り始めてから、まだ数分くらいしか経ってないよね?」

「そんな普通の認識は今すぐどこかに捨てて下さい! この時点で汗をかいていないことがもう異常なんです!」

「ええ??」


 初見のためにこのとんだ異常を異常と認識できていない春日井にそれがどれだけ異常なのかを伝えた結果、彼は瑠璃ちゃんを二度見した。


「えっと米河原さん。それ、本当の話……?」


 同じく私の話を聞いていた瑠璃ちゃんは、顔色を少し青褪めさせて頷く。


「はい。……そうよね。私、いつもすごく汗をかいているのに、どうして気づかなかったのかしら」

「そ、それだけ走るのに集中していたってことじゃないかな?」

「どうすればまた汗をかくようになりますか!? かかないと多分、大変なことになるのだけは分かります!」


 彼は顎に手を当てた。


「そうだね。汗は体温調整とか、皮膚を保湿して健康な状態を保つ役割があるから、かかないより断然かいた方が良いんだよ。汗をかいていたと言うことは無汗症じゃないし、後天性で発症したりすることもあるけど、それは大人と言われる年齢になってからの事例だし。……あー……」


 顎に当てた手を、今度は額に当てる。


「急に汗をかかなくなるなんて、初めて聞いたな……。ビート板消失も未だに原因が分からないし」


 瑠璃ちゃんの話なのに、ボソッと何故か私のビート板の謎に飛び火した。

 本当に何ですぐ無くなるのか、私も未だによく分からないよ。これでスロモ走りの謎も提示したら、何か春日井の頭が謎で埋め尽くされてしまいそうだ。


「な、悩ませてしまいまして、すみません……」

「いや、うん。大丈夫。人体はとても神秘的なものなんだって、改めて知ることができたから」


 恋愛の神様兼、白馬の王子さまの語録に女の子を傷つける言葉などありはしない。


「……原因か。発汗の調整って、自律神経が関係するんだ。ストレスや疲れの蓄積で自律神経機能に異常が出ると汗が出にくくなるんだけど、最近そういうストレスを感じたり、疲れたりすることってあった?」


 問われた瑠璃ちゃんは視線を床に落とし、少し考えて。


「この時期にお菓子を控えるのは毎年のことですし、疲れを感じたりするのも、特には……」

「お菓子の他に何か食事を控えたりしている?」

「いいえ。それは花蓮ちゃんともう一人の子から良くないことだと言われて、ちゃんと摂っています。高タンパク低カロリーメニューを維持して、それが苦だとは思いません」

「そう……」


 何とか原因を突きとめようにも話は振り出しに戻るばかり。

 今の時点で改善されないと、今年の夏は汗をかかないまま過ごしてしまうことになってしまう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ