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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode183.5 side 薔之院 麗花⑫-2 海棠鳳―そして少女は約束を交わす―


 一年生の運動会で助けたことに、特別な意味なんてなかった。

 あれが新田さんでなくとも私は助けに戻ったし、本当に当たり前のことと思ってそうしただけ。


 そうして新田さんがキラキラした目で私のことを見てくるようになったと同時。忍も、いつの頃からか彼女を気にするようになっていた。

 彼女もどうしてなのか、私の隣にいる忍を見ては後ろに飛び退く行動を取るのを、最初は不思議に思って見ていた。


 けれどその意味に気がついたのは、花蓮の恋愛話を聞いてから数日後。

 飛び退くのはこっそり(してはいなかったけど)見ていたことが忍に見つかって、恥ずかしかったからでは?

 そんな新田さんをジッと忍が見つめているのは、彼女に…………恋をしているからなのでは!?


 何てこと!と、私は衝撃を受けた。

 新田さんは最初から私を見ていたのではなく、その隣の忍のことを見ていたのだ! 私の身近にいるお友達が皆、春真っ盛りだ……!!と、そうビビッときてしまったのだ。

 自分に向けられる視線は分かると思っていたが自意識過剰だったかもしれないと、ちょっとだけ恥ずかしかったのはここだけの秘密である。



 だから新田さんが秋苑寺から変態トイレストーカーされているのを助けた時に、これをきっかけに恋のお手伝いが何かできるのではないかと考えていた。

 どうも彼女は私のことを苦手そうではなくなっているようだし、忍はいつも私に関わることで(コソコソと)動いてくれていた。

 いつも忍が何かしら助けてくれていて、ならば今度は私が彼の恋を手助けできたらと、そう思ったのだ。



『えっと、尼海堂さまのこと、なんですけれど』



 彼女の口から忍のことが出てきて、これは!と心中で歓喜した。

 忍のお友達である私に彼のことを聞くのは、忍のことが気になっているから!!

 嬉しくなってつい前のめりになり過ぎたせいか、取り下げられてちょっと残念だったけれど……。


 けれど私と彼女が一緒にいれば、忍もひょっこり現れるかもしれない。

 そうしたら橋渡しできて、もしかしたら……もしかしたら、彼女は私とも、お友達になってくれるかもしれない。


 城山さんと仲は良いけれど、彼女の派閥ではない。

 城山さんを避けてはいるけれど。


 新田さんのことは、嫌いじゃない。





『城山さまに、あ、謝って頂けませんか』



 高位家格の家の令嬢である私に、唯一面と向かって物申してきた家格の低い令嬢。

 花蓮と出会う前に、初めて“私”に真正面からぶつかってきた令嬢。


 最初こそ城山さんの影響があったから酷い始まりだったけれど、色々なことを経て、新田さん個人に対しては私の彼女への印象は好転していった。

 忍の恋のキューピッドと秋苑寺対策で始まった絵のモデルは、しかし後者に対しては有効だったのに、肝心の前者がまっっったく様子も見に来ないとは思わなかったけれど。何かあったのかしら……。


 それでも新田さんと二人で過ごす空間はとても過ごしやすくて、心地良かった。私の話をキラキラと瞳を輝かせて、頬を薄らと赤く染めて、嬉しそうに聞いてくれて。

 少しずつ、彼女と近づけていることが嬉しかった。だから――……。



「手紙のことを彼女が知ったら。私を嵌めるために自分が利用されたのだと知ったら、彼女は自分のせいだと責めますわ。気づかなかったのは私の落ち度ですのに。自身のお友達を利用してまで、嵌めようとしてくると思い至らなかった、私の……!」



 約束の場に来なかった。荒らされたのが呼び出された場だった。

 何事かを私に謝ろうとしてきた。


 その何事かはスケッチブックの件だと、問題現場名を聞いた時点で見当はついた。あの時の新田さんの様子は、本当に戸惑っていたから。

 演技などできるような生徒ではない。そんな悪事に手を貸すような生徒ではない。だって。


 だって彼女は……観察するだけで個人に関心を持たない忍が、気にしている存在だから――……。



「彼女が傷つくのを見てしまったら、傷つく人が他にもおりますの。だから私は……」

「……隠そうと思ったの? 言わなかったら。鈴ちゃんがいなかったら、手紙のことは麗花と犯人しか知らないから」


 緩慢に頷く。

 私が口にしなくても、見過ごすことなどできなかった歌鈴が口にしてしまった。


「私のせいですの。私が浮かれて、気づかなかったからこんなことに。私はただ、お友達だから手助けがしたかっただけで、彼女と仲良くなりたかっただけですのに……っ」


 制服のスカートを握り締める。

 私が気づかなくてまんまと嵌められたから。新田さんも、忍も。


「気づかなくて当然だよ」

「……え?」


 怒りの滲んだ声に見れば、彼女がクッションを顔から離してちゃんと座った。


「楽しく学校生活を送っていたら、そんな悪意なんて気づかなくて当たり前。そもそも何で自分が悪いって思うの? 根本的に悪いのは嵌めようとしてきた生徒の方じゃん。いい? 麗花は全面的被害者なの! 他の人のことを麗花は心配しているけど、麗花だってしっかり傷ついてるよ。そんなことを言うくらい、麗花だって傷ついているんだよ!!」

「っ」

「同じ学校じゃないから分からないけど、でも学院でどう過ごしているのかはお兄様から聞いて知ってる。あの時お兄様が言っていた言葉は、私と接している普段の麗花と一致する。麗花は間違ってないよ。間違っているのは麗花を誤解している生徒の方! 自分が気づかなかったから、自分が嵌められたのが悪いだなんて、絶対に思わないで!!」

「花蓮……」


 スカートを握り締めている手に、温かな手が触れる。

 指を一本一本スカートから解かれて、きゅうと優しく握られた。


「麗花がそうやって自分を責めるくらいに、あの学校で大切な子ができたんだね」

「……お友達ですもの」

「昔は友達できないできない!って、騒いでいたのにね」

「……そうですわね」

「そうして気が緩んで楽しく学校生活を送れるのは、麗花のことを守ってくれる子がいるから。さっき自分でも言っていたけど、逆に守りたい子だって、貴女にはもういるんだよ」

「…………」

「麗花は嫌われてなんかいない。――――もう、どこに行っても一人じゃないよ」


 ここにもいる。

 私を守ってくれて。私が、守りたい子が。



『……薔之院さんにとってその子って、そんなに大事?』


『俺と忍くん合わせたら?』



 どちらかなんて、そんな選択肢がある訳ないでしょう。どちらも私にとってかけがえのない――――大切な存在なんですから。



「花蓮」

「うん?」


 首を傾げて穏やかに微笑む彼女の肩に額を乗せる。ポンポンと頭を撫でてくる温かい手があることに、涙が出てくる。



 ――――もう私は、『私が嫌い』なんて言わない



「明日、奏多さまはご自宅におられますかしら?」

「……ん? え、何でお兄様? いると思うけど」


 肩から顔を上げ、目をパチクリと瞬かせている彼女に微笑み返した。



「ご相談させて頂きたいことがありますの」


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