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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode183-2 海棠鳳⑫―忍の衝撃―


 悲壮な声と表情で俯く城山だが、春日井くんの穏やかな表情は変わらない。


「親交行事より前に、教室で話していたこと。女の子同士の話に悪いとは思ったけど、不思議と耳に入ってきたんだ。確か、『新田さま、大丈夫かしら? 皆さんも聞いていらしたでしょう? どんなお気持ちで今、薔之院さまに連れられているのかしら……。有栖川さまのようなことにならなければ良いのだけど……』だったっけ? どうしてファヴォリ間でしか知られていないことを、知ったように口にしていたのか疑問だった。……色々と、教えてくれる生徒が近くにいるみたいだね?」

「流行ですとか情報を先取りしなければ、この学院の生徒としては将来に関わると思っておりますので」

「うん、僕も一理あると思う。その考えは否定しない。――けど」


 彼の纏う雰囲気が、そこで変わった。



「それが初めから誰かを陥れようとして口にした言葉だとしたら、僕は共感できない」



 微かな圧だけが雰囲気にも、言葉にも込められている。


「上手くその人の心理を突いているよね。自分の言動が他人からどう見えて、どういう印象を与えるのか、よく解っている。だから――――()()()の薔之院さんの言動も、君がそうして引き出したものだ」


 ピクリと、麗花の肩が小さく揺れたのが視界の端に映った。


「よく話し掛けていたから、彼女がどういう人間かを君は解っていた。だから彼女の性質たちを逆手に取って、彼女が自分を責めるように誘導した。同じ場にいても見ていない間に何かが起こることは……よく、覚えがあるからね」

「私が、薔之院さまに何かしたと?」

「僕はそう結論付けている。違うと言うのならそう言えばいい。それを僕が信じるかどうかは、僕の問題だけど」

「……意味がありませんわね。だって春日井さまは、ご自身で結論付けたと仰ったもの。私の言動を()()()()()()()()()のでしたら、それは私の責任ですわ。信用を取り戻すべく邁進まいしんすることが、今後私のするべきことだと思いますわ」


 本質の見極め。

 簡単なようで難しいこと。一度結論付けた印象がそこからくつがえることなど、限りなく少ないと思う。



 ――ずっとその人のことを気にしていなければ、できないことだ。



 そして城山が口にした言葉の意味。

 信用を取り戻すべく邁進する、ということはやはり状況が不利だと、大人しくすることを意味している。

 学院内で麗花に味方が増えることもそうだが、何より特権階級であるファヴォリの……その中でもトップクラスである四家中二家の御曹司が直接言ってきたのだ。


 城山は有栖川のように単純な直情型ではなく、頭の回転が速く悪い意味で賢い。

 相手を陥れるやり方も派閥の形成の仕方からも考えて、彼女とは長期戦になる。そう判断した。きっと今回だけでは終わらないだろう。


 何故なら自分の彼女に対する印象が、一年生の頃からずっと――――ハイエナだから。


 麗花の制服の袖を引き、場所を移動すると伝える。話の流れから見て同じようにそろそろ終了の気配を感じ取っていた彼女も頷き、そそくさと隣の教室へと移る。

 暫くすると室内ローファーのカツカツとした音が響いて、そこから離れ始めるのを耳にした。


「……私、別に嫌われていても良いと思っていましたの」


 隣で並んで座る麗花からポツリと落とされた呟きに、黙して耳を傾ける。


「万人に好かれる人間なんておりませんし、私のことをちゃんと見て好きだと思ってくれる方がいれば、それだけで充分だと。あんなことを言われましても、正直今更……と思いますけれど。でも……」


 キュ、と恐らく無意識だろう、袖が掴まれた。


「これは……どういう感情なのかしら。とても複雑で、難解で、グルグルと渦巻いておりますわ」


 どういう感情なのか……。



『守って下さって、ありがとうございます!』



 同じことが言える。違うと感じた。

 麗花に抱く気持ちと、彼女に抱く気持ちが。


 気になって、放っておけなくて追い掛けた。自分から近くに寄って座った。

 言動が誤解されていることは薄々感じていて、どうしてそう受け取られるのか悩んだこともある。

 何かが表情(おもて)に出ている気がしたから、不自然でも顔を彼女から隠した。表情に出ていただろう、何かは。


 ……何か、こうした似たような内容を前に考えたことがある。あれはいつだったか。確か……。

 不意に隣へと顔を傾けて――――ギョッとした。



 真っ赤、なんだが。

 瞳も潤んで、何もない床を睨みつけているのだが。



「グルグルして、全っ然落ち着きませんわ……! 妙に心臓がドキドキして、でも嫌な感じのものではありませんわ。何なのかしらこれ? 病気かしら」


 それ前に自分も同じこと考えた。そして違った。

 え。え? 待てこれ一体どういう……。


「ま、前と同じように対応できるのか、もの凄く不安になってきましたわ。ああっ、何か余計なことを言ってしまいそう! クラスが遠く離れていて、これほど幸いなことはありませんわ!」


 余計なことを言わないか、挙動不審にならないかの心配? 真っ赤な顔? ……待て、まさか!!?



 ――ガラリ



「ねぇ、いつまでそこに隠れているの?」


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