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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode182-2 海棠鳳⑪―萌の決断―


 昨日と同じようにバクバクと鼓動を鳴らし、お昼休憩である現在、6ーAの教室前へと陣取っている私。

 今までにない速さで給食を食べ終えて真っ直ぐ向かえば、ちゃんと教室内に薔之院さまがいらっしゃるのを確認した。


 珍しくも今日は教室内で読書をされるらしく、席でブックカバーの掛かった本を手に目を通されていらっしゃる。その横顔のなんと素敵なことか。

 …………違う! いや違わないけど、今はそういうことじゃなくて!


 教室から出てくる生徒から向けられている不審そうな視線にも気づかない私は、今一度言うべきことを頭の中で整理する。

 言い訳をあれこれダラダラと喋っていたら、きっと昨日の二の舞になってしまう。

 伝えることは率直に。簡潔に! 重要なことだけを!!


 大きく深呼吸し、両手を拳に握って気合いを入れる。


 今が薔之院さまの私に対する印象のド底辺。なら、ここから更に落ちることなんてないわ! だって今が地の底なんだもの!! よし、行くのよ萌!!


「失礼します!!」


 気合いに比例して大きな入室の挨拶をした私に、一斉に集まるAクラスの生徒たちの視線。その中にはもちろん薔之院さまのものもあって。

 スッと目が細まったけれど、一直線に彼女の席へと向かってピタリと止まる。

 鮮やかな血色の唇から言葉が紡がれる前にとご挨拶も何もなく、私は重要な一言を薔之院さまへ放った!



「――――薔之院さまのことが大好きです!!!」



 ……目を細めたまま、動きが止まっている薔之院さまからの返答はない。

 少しざわめいていた教室内の声が聞こえなくなったのも、気のせいではない。自分が何をしているのか、ちゃんと分かっている。


 二人きりで話すと信じてもらない。ならば大勢の証人……人のいる場所で伝えれば本気だと受け取ってもらえるのではないかと、ない頭で必死に考えた。


「いつからお慕いしているのかと言うと、一年生の時からです! 運動会で助けて頂いたあの頃からです! それからずっと薔之院さまのことが気になって気になって、いえ、気になっていたのはそれよりも前からでしたけれど!! いつも髪の毛巻かれているのに艶々していてすごいなとか、背筋を伸ばして綺麗な姿勢で歩まれるのも、一令嬢として憧れます! あとスケッチブック! 感想いまお伝えしますけど、とても素敵です。所々タッチも変えていらっしゃって、陰影も細かくてとても平面に見えず立体的でした。間でとても繊細なカブトムシの絵とかもあって、すごい才能をお持ちだと思いました!」

「繊細なカブトムシ……?」

「はい!!」


 思わずと言うように呟かれた言葉に力強く頷き返しながら、更にありったけの想いを吐き出す。


「あと私は隠れ……違う、薔之院さまを頂点とする赤薔薇親衛隊ローズガーディアンズに属する、純薔之院派です!! 気づけば薔之院さまを見つめ、その一挙手一投足に憧れ、お守りしたいと思う、それくらい私は貴女に……貴女のことが……えっと、だ、大好きで……す……」


 ずっと薔之院さまだけを見つめていたから、その表情の変化がつぶさに見てとれた。と、いうか。

 これはもう私だけじゃなくて、他の生徒から見ても分かると思う……。表情は目を細めたものから変わってはいないけれど、色が。


 とても、とても――――真っ赤になっていらした。

 それに瞳も潤んでいらっしゃる。


「え、可愛い」

「~~っ!! ちょっと! ちょっと来て下さいませ!!」

「えっ、あの!?」


 ガタリと席を立たれて腕を引かれ、多くの視線を浴びながらも教室から連れ出されるその間際に――尼海堂さまが廊下にいて、私達をジッと見ていらっしゃるのを見つけた。



『違う。睨んでない。また麗花を見ていると思って見ていただけ』



 確かに私は薔之院さまを見ていたけれど、でも。

 怖かったから。……怖かったから、尼海堂さま()いるかどうかを、いつも探していた。


 目が合って。睨まれていると思って飛び退いて。

 真っ赤な薔之院さまに連れられていく私を見つめて、初めて――――微笑まれた。


「っ」


 その瞬間、バッと顔を逸らしてしまったのは。


 ――それは一体、どういう感情からくるものだったのだろう





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





 連れられた先は、何故か非常口だった。

 真っ赤だったお顔も移動している内に元の美白へと戻られていて、惜しいような良かったような……。


 引かれていた腕は既に離されており、正面から見据えられている。

 私は教室で率直に簡潔且つ、重要なことを言い切ったので薔之院さまからの発言を待っていると、ようやく口火が切られた。


「どういうおつもりですの?」


 ……え? おつもりと言われましても。


「教室でお話ししたことが全て、なのですが」

「だっ、だから! あ、あんな大勢の生徒のいる前でこ、告白紛いのことを仰って! ご自身が大変なことになるかもしれなくてよ!?」

「え?」


 どうして私が大変なことになるんだろう?

 何かもう色々と吹っ切れちゃって、他の生徒からどう思われても別にもういいか、みたいな気持ちになっているし…………あ。


 頬を染めて薔之院さまを見つめる。


「もしかして薔之院さま、いま私のことを心配して下さっています……?」

「!? ち、違っ……ああもう! 貴女があの子みたいなことを仰るから、調子が狂いまくってしまいましたわ! 何なんですの本当に! 白鴎さまから耳にした時は半信半疑でしたのに、そんな緋凰さまの二番煎じみたいな組織まで本当のことだなんて……!!」

「あ。ちなみに中條さまもメンバーですよ?」

「何ですって!? 中條さまも!?? え? 中條さまはご自身の派閥がお有りでは?」


 恥ずかしがられているのか嬉しがられているのか判断に迷うけれど、再びお顔を赤くされている姿は、やっぱり文句なしにとってもお可愛らしい。

 この反応を見る限りでは、既に私の印象は浮上しているのではないだろうか?


「あの、薔之院さま…」

「――また利用されるかもしれなくてよ」


 落ち着いた声音で紡がれた内容に瞳を瞬かせる。

 顔を赤らめながらも、向けられる視線はどこか不安そうなもので。


「私と親しくしていたから、()()()派閥に利用されたのでしょう? ……離れてもう言葉を交わすこともなければ、気づかずに手を貸す形になって傷つく可能性など、無くなりますのに」

「え……」


 思い出す。拒絶された時のこと。



『貴女からの謝罪は結構だ、と言ったのですわ。謝罪される必要を感じませんもの』


『今回のことでよく分かりましたわ。どんな手段を用いてでも、私を引き摺り落とそうとする生徒がいるということが』


『もう近くに寄らないで下さいませ。貴女が私の傍にいると、とても。……とても不愉快ですわ』



 謝罪がいらないと言ったのは、私がやったことじゃないとご存知だったから。

 城山さんが友達の私を利用してまで、彼女を嵌めようとしたから。

 また同じことが起きてしまったら……私が傷つくと、思ったから? だからあんな……。


「私のために……?」


 信じられないと落とした呟きに答えが返る。


「私は彼女にとって貴女は友人であると認識しておりましたから、そんな貴女を利用されるなど考えておりませんでしたの。このまま貴女が私の傍にいれば、一度はそれをしたのです。もうしないとはとても言い切れませんわ。同じことを繰り返すなど、御免ですもの」

「……薔之院、さまっ」

「何です……え。えっ!?」


 ポロポロと涙が溢れるのを見て慌てられても、止められない。

 手で拭いながら、震える唇で必死に言う。


「私、私っ! きら、嫌われたって、すごく、すごく悲しくてっ。でも、薔、之院、さまの方がっ、傷ついているって、思って! だから私っ! 私……!!」

「……だから美術室では、ああして面と向かって伝えようとして下さったの?」


 コクコクと頷くと、小さく溜息を吐き出されるのが聞こえた。


「まったく。……忍ったら、知っておりましたのね。だから昨日」

「尼、海堂さまは、お話、聞いて下さって。勇気、頂きました」

「そうですの。……やっぱり」


 何がやっぱりなんだろう?

 クシクシ手で拭っていたら薔之院さまからハンカチが差し出されたけれど、それを固辞してポケットから自らのを取り出し…………あっ、これ私のじゃない!


「あら。忍、ハンカチも貸しましたのね」


 また鞄に入れっぱなしだ!

 お会いしたらお返ししようと思っていたから!!


「そのままお使いなさってよろしいんじゃありません? 返却が多少遅れたところで、忍はどうこう言いませんわ」


 そう言って、差し出されていたハンカチをご自身のポケットへと仕舞われる薔之院さま。

 何かちょっと引っ掛かるけど、自分のものが手元に無い以上は仕方がない。お二人からお借りする訳にもいかないし、ぺしょぺしょな顔のまま教室に戻るのもアレだし……。


 そうして私は尼海堂さまからお借りしたハンカチで再度目元を拭っていたから、見逃してしまった。

 薔之院さまがそんな私を、とても嬉しそうなお顔で見つめていらっしゃったことを――……。


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