Episode178.5 side 百合宮 花蓮の後手④-2 海棠鳳―百合宮三兄妹側―
元々の家格とその為した功績が故に、初等部・中等部・高等部の垣根を越えて生徒への多大な影響力を持つお兄様がこれ以上ないほど、麗花を認める発言をしたこと。
百合宮 奏多は薔之院 麗花を信用している。それだけで充分だ。
それにその妹である鈴ちゃんも初めから疑う素振りもなく麗花の味方をしていたことは、廊下にいて様子を窺っている生徒たちは知っている。
ま、鈴ちゃんが手紙のことを言わなくても、スポンサー筆頭の百合宮家は麗花のことを疑う訳がない。
だって私の親友で、お兄様も幼い頃から近くで見ているし、鈴ちゃんなんか生まれた時からのお付き合いだもの。
関係性を大っぴらにしていないとは言え、麗花に完全味方の百合宮家が関わっている行事で事を起こすなんて、正に愚の骨頂としか言いようがない。だから私も、麗花のために声を上げる。
「奏多お兄様」
「……っ!? 何……?」
何でそんな気持ち悪そうなお顔をされるのか分かりません、奏多お兄様。
だって親戚の子扱いでしょ? 普通にお兄様って言うより、そっちの方がぽくない?
「思い出したことがあります。私達、一度スケッチブックを持っていた生徒とすれ違っています」
「すれ違った?」
コクリと頷く。
普通に授業ノートだと思っていたけど、何か見覚えあるなと思ったらそりゃそうだ。女子会に結構な頻度で趣味の成果を見せてくるので覚えている。
麗花が使用しているスケッチブックはノートサイズで、女子が持っていたノートの色もサイズも同じだった。どこにでも売っているような安っぽいものではなく、画材の専門店で購入している結構なお値段のするやつ。
そしてそのスケッチブックを手にしていたのは――
「あの子です!」
ピチッ!と黒い指を差せば、ビクッと身体を揺らす生徒がいる。
――教員とやって来た、私がどこかで見たと思った女子である。
植物をダメにした犯人とは違うかもしれないが、仲間の可能性は高い。顔を青褪めさせたその女子が、タッと逃げようとしたところで。
「村井! 染谷! その他!!」
緋凰の鶴の一声により廊下にいた男子たちが一斉に動き、女子を逃がさないように包囲する!
あ、あれが噂に聞く鉄壁の防御・ピーポーウォール……! てかその他って。
その他扱いされた生徒に同情を禁じ得ないが、逃走を図るという行いをした女子に対してはもう言い逃れはできない。ヘタリとその場に落ちた女子へと教員が近づき、「どういうことなのか話を聞かせもらいますね、大沼さん」と声を掛けている。
「どうしますか? 私達も付いて行きます?」
「いや。先生方に任せよう。進行スタッフ統括責任者の貞森さんに報告がいくと思うから、事の顛末は菅山さんに訊ねるとして、僕達は僕達で引き続き…………無理か」
無理ですね。廊下側を見てポツッと呟きを漏らすお兄様に同意する。
お兄様が正体を明かしたことで私の真の正体は保たれたものの、『親交行事お父様張り切りフォロー計画』はここで打ち止めだろう。
この度の親交行事のスポンサーがどこの家か判明し且つ、そこの時期跡取りで学院の垣根を越えて多大な影響力を持つお兄様が闊歩していると知った六年生は、親交どころじゃなくなる。
催会に招待されたらなるべく参加はしているお兄様だが、その頻度も年々減少している。
まあ学院であんなに色々しているのだから鬼のように忙しいのは当たり前のことで、他家からすれば同年代の子供が同じ学校圏内でなければ、知り合う機会も少なくなる訳で。
そういう家の思惑がなかったとしても、子供本人にとっては怖いと言うよりは尊敬と憧れが先立つらしく、現に廊下からこちらを見ている生徒は瞳をキラキラと輝かせている。顔から下はパンダにも関わらず。
「えー、お騒がせしたね。ということで僕達はもう失礼するよ。親交行事、引き続き楽しんでくれるとありがたい」
「お騒がせしました」
兄妹揃って告げると、生徒は頷いて散り散りとなっていく。
さて、あとの問題は……。
ちらりと麗花を見て、未だ彼女の顔が固いままなことに内心で溜息を吐く。他の人であれば澄ました表情に見えると思うが、七年も彼女の親友をやっている身としては一目瞭然である。
多分、ただ陥れられただけの感じじゃない。手紙のことを言わなかったことと関係ありそうだ。
まったくもう。本当に……麗花にこんな顔をさせるなんて。
――――ただじゃおかない
「鈴ちゃん」
ピョッと顔を上げて、まあるいお目めで見てくる彼女に耳打ちする。
「麗花と二人の時に伝えてくれる? 今日お泊りするから、麗花ん家で待ってるねって」
「りょうかいです!」
直接伝えても良かったのだが、麗花と直接繋がりがあることを緋凰に悟られてはならない。私は密やかに麗花の手助けをする!
その後は室内にいるファヴォリの三人も行事に戻らせ、私とお兄様で片づけをしているところに慌てて他スタッフも来て、「後は私どもでやりますので!」とかなりの焦り様で追い出された。
別に一緒にやっても良かったのに、と意見を同じくするパンダ兄妹は顔を見合わせて肩を竦めた後、駐車場でお留守番をしている本田さんの元へと戻って、一足先に帰宅の途についたのだった。
CM(主人公の出番)終了! いよいよ後半戦が始まります……!




