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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode169-2 言えること、言えないこと


 私は禁止令で参加していないけれど裏エースくんは度々参加しているのは聞いていたから、それも私の知らない場で起きている話で実際に女子に囲まれているのなんて、見たことない。


 だから現実に目視してしまって、どう判断したらいいのか分からなくなってしまったのだ。

 だって明確にハッキリとお付き合いしているんじゃないのに、どの面下げて割り込めに行けと。木下さんが利用されている可能性が出て、そこで初めて行ける理由ができたと思ったのに。


 それも周囲が動いて、あっという間に解決してしまった。

 心中複雑である。


「立場的には私も他の子と同じなので、さっきだって堂々と行けませんでしたし……」

「は? 他の子と同じって、花蓮は違うだろ」

「え?」


 胡乱気な眼差しで見つめられる。


「前にさ、自分の好意は撥ね退けるとか言われたことあるけど、今のお前だってそうじゃん。俺何回も言ってるじゃん。花蓮のことが好きだって」

「!」

「何気にしてんのか知らないけどそんなの、行ける理由ならちゃんとあるだろ。太刀川 新は百合宮 花蓮のことが好きで、百合宮 花蓮は太刀川 新のことが好きっていう、明確な理由が。周りに言われて変わるような程度の軽い気持ちじゃないのに、そこに必要な立場なんて要るか? 俺らの中にあるその事実だけで充分だろ。何ポケッとした顔して突っ立ってんのかと思ったら、変なことで悩んでんなよ」

「え、私がいたの気づいてたんですか!?」

「当たり前だろ」


 だからどこに目がついているの!? 顔チラともこっち向いてなかったじゃん! 察知能力が長けているにも程があるよ!? と、いうか。


 ……そっか。私、友達だった頃に好きが伝わってないと思ってあれだけムッとしていたのに、同じことしてたんだ。関係性に名前が付けられなくて、お互い両想いって事実があるのにそれが見えていなかった。

 何だ、別に行っても良かったんだ。難しく考える必要なんて、どこにもなかった。


 そう思ったら、どこかモヤッとしていたものが薄れていった。自然と頬が微笑みの形に動く。


「ふふっ、そうですね。じゃあ今度太刀川くんが他の女子に囲まれている場面に遭遇したら、堂々と行きます」

「おう。ちゃんと俺はお前のだって言って示して来い」

「いっ!? 言える訳ないじゃないですか、そんな堂々と! 淑女の微笑みでプレッシャー掛けるくらいで勘弁して下さい!」

「態度で示せるくらいなら言葉でも言えよ」


 できたら今すぐにでも『好き』って言ってるよ!

 言えないから態度でしか示せないんでしょ!?


「ん」


 そして何やら片手を差し出してきた。

 何だこの手は。


「何ですかこの手は」

「花蓮待っている間に冷えた。あっためて」

「どうして貴方はそういうことを平気な顔して堂々と言えるんですか。このスケコマシが」


 しかし裏エースくんがお風呂から上がって、それなりに時間が経過しているのも事実である。

 その手に触れてみたところ、確かに少しひんやりとしている。温もりを共有するように、手を繋ぎ直した。


「だから言ったじゃないですか。風邪引きますよって」

「俺そんな軟じゃないし。学校だってあの一週間以外に休んだことなかっただろ」

「……そうですね」


 いつも皆勤賞だった。

 身体が丈夫だと知っても、繋いだものはそのまま。


「話だけど、別にそんな大した話はしてない。普通に班別の行動でどこに行ったのかとか、自分たちがどこ行ってどうだったとか、そんなんばっか。俺だって木下盾にされてなかったら、早めに会話打ち切ってた。妬いてくれんのは嬉しいけど、変な顔させたい訳じゃないからな」


 何を話していたのか聞いたからだろう、答えてくれた内容を聞いてまたムズついた気持ちになる。

 笑った顔が好きって言ってくれた。初詣の時も、同じお願い事を神様にお祈りしていた。――笑い合って過ごしたい、って。


「……修学旅行中は来るなって言ってたけど、同じ場所にいるんだからそりゃ会いたいだろ。来るなって言っていたからダメ元で言ったのに、お前普通に待ち合わせるの頷いたしさ」

「あっ」


 しまった、すっかり忘れてた!

 新幹線の時は辛うじて覚えてたのに! お風呂上がりの裏エースくんに見惚れて頭お花畑になってた!!


「う、あ、それは、その」

「本当は一緒にいたいって思ってくれてんだって、俺はそう思ったけど」


 ジ、と見つめられて、手を繋いでいるから逃げられない。



『逃げるメスをオスは狩猟本能で追いかけるって』



 ハッ、神様! そ、そうだ。逃げ腰になってはならぬ!

 心臓がうるさく騒ぎ始めたが、負けてはならないと奮起する。


「わ、私だって、い、一緒にいたいです。でも、だって太刀川くん、太刀川くんすぐスケコマするしすごく格好良いから、こっちだってすごくドキドキしちゃうんです! ドキドキし過ぎてそれが周りの子達にも伝わっちゃってるみたいですし! 来ちゃダメって言ったのは、土門くんが刺激的なランデブーとか何とか言ったからです!」

「また土門かよ」

「いきなり機嫌悪くならないで下さい!」


 それまで目を見開いていたのに半眼に戻った!


「……実を言うとダメ元で言ったのも本当だけど、もう一個ある」

「え?」


 緩く繋いでいる手の密度が増し、もうそこから感じる温度はひんやりしていない。


「食事の後、部屋に戻る時に拓也に呼び止められてな。矢田寺で土門と話している時、花蓮が何か不安そうな顔してたって。その顔した後にお守り買っていたから、多分俺のことで何か悩んでいることがあるんじゃないかなって言われた。……だからさ、何かあるんならちゃんと俺に言えよ。一人で悩んでお守りに頼るんじゃなくて。一人で考えさせてると絶対お前、明後日の方向に答え出すんだから」


 明後日の方向って何だ。いつ私がそんな風な答えを出した。

 ……でも、そうだね。私と裏エースくんのことなんだから、二人でちゃんと話して解決していかないといけないよね。


 今感じている不安を、吐露する。


「土門くん、意外と物知りで情報通なんですよ。太刀川くんのもう一つの名前も知っていますし。だからまた何か起こりそうな気がするって言われて、それで少し不安になっただけなんです。あそこのお守り、良縁成就のご利益がついていますので」

「……それだけか?」

「はい!」


 笑って返すとイマイチ信じ切っていないような顔をしているが、そっかと取りあえず引いてくれた。


「それにしても、拓也くんにも心配を掛けさせてしまったみたいですね。男子の階でお話したんですか?」

「おう。だから何か隠そうとしても、拓也経由で俺に話行くからな。覚えとけ」

「何ですかその四六時中監視体制みたいなの!?」


 そんなことを二人でソファに座って、それからも今日あったことを話していたけれど。

 私と裏エースくんは気が合うから、私もあの時の彼と同じことをしているのだと気付いていて、それでも全部を明かすことなどできなかった。


 『好き』だから。

 大切で、大事な人を巻き込みたくなかったから。



 ――――“ごめんなさい”


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