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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode167-2 班別自由行動


 たっくんと豊島くんの確認も終わり、京都を走るバスに乗って最初の行き先である矢田寺へ向かう。時間制限もあるし遠くには行けないこともあって、本当は貴船神社やら鞍馬寺に行きたかった豊島くんのチョイスでは、他の生徒とはあまり被らなさそうなところを先に巡ってから有名どころへと行くことに決まったのだ。


 そんな方針で決まった矢田地蔵で知られる矢田寺のご本尊である地蔵菩薩は代受苦地蔵だいじゅくじぞうと呼ばれており、人々の苦しみを代わりにお地蔵様が受け取ってくれると伝えられているそうな。

 大体二十分ほどバスに揺られて降車し、商店街の街並みを皆で歩く。お寺や神社と言うと木々がそびえ立つ中にあるのを想像してしまうが、街中にちょこんとあったりもするようである。


「あ。あそこかな?」


 皆で道を確かめながら歩いていたら、小野田さんがお寺を発見したようで声を上げた。しおりから顔を上げて走って行く彼女の後を追ってその建物を見上げると、確かに提灯に『矢田地蔵尊』とある。


「そう、ここ。全集にも載ってる!」


 現地で現物を見た興奮からか、豊島くんが喜色を乗せて断言した。


「普通にお店みたいだよね」

「周囲の景色がそうですからね。溶け込んでいて、目的地として来ないと見逃してしまったかもしれません」

「では早速参ろうではないか!」


 土門少年の一声にて、境内へと足を踏み入れる私達。入って見回すと、至るところに赤い提灯が飾られている。


「これだけあると壮観ですね」

「うん。先にお地蔵様にご挨拶しよう」


 参ることをご挨拶と言うたっくん、可愛い。まぁお寺や神社にはその神様にご挨拶をしに参るのだから、間違いではない。


 奥まで進んで大きな鐘の下にある奉納箱にお気持ち分を入れ、正面の奥に鎮座されている代受苦地蔵様へと手を合わせる。

 思うけれどこの時間に限っては心が落ち着き、神様に語り掛けられているような気がするのは、気のせいだろうか。


 そうして皆でお地蔵様へのご挨拶を終えた後、ここで豊島くんからの熱弁タイムが差し込まれる。


「明日行く奈良にも矢田寺があって、ここはその別院なんだ。でもこのお寺は×××年に日本で初めてつくられたとされている地蔵菩薩のお寺で、人の苦しみを代わって下さると言われているんだ。ご本尊の手前にある炎の表現も~~~~」


 次々に奮われる熱弁を私達は静かに聞き、最後に皆でへぇと感想を言って、佐久間さんが楽しみにしていたお守りを見ることに。そのお守りとは手作り感たっぷりな、可愛らしいお地蔵様のぬいぐるみ。

 微笑んでいる顔が大半ではあるがジッと見つめているとどれにもに個性を感じられて、何だか茶目っ気満載である。


「可愛い~♪」

「確かお札が中に入っているんだよね? どうしよっかな。買おうかな?」

「向こうにも同じものが掛けられていますよね? あれには何やら文字が書かれているようですが」


 私の言葉にたっくんが反応する。


「あれは買った人が書いた文字みたいだよ。さっき見たけど、後ろにお願い事が書いてあったから。絵馬のようなものじゃないかな」

「絵馬と言いますと、あちらにも豊島くんのお話に出てきた、鉄釜の僧侶のものがありますよね」

「うん。あれに悩んでいることを書いて、それを僧侶に助けてもらうってことかなぁ?」


 色々考察が出てきそうだが悩み事を書くという点において、ブラック企業退散と一家路頭断固拒否が頭を過ぎった私である。


「苦しみを代わりに受けるというが、一説では特に苦しい恋を救ってくれるとも言われているそうだよ! 愛の願かけ地蔵とも呼ばれていて、良縁成就や安産祈願にもご利益があるらしい!」

「土門くん」

「貴方も意外にオールマイティな物知りさんですよね」

「まぁね! 学ぶ以上は、やはり人よりも一歩先を行きたいと思うものじゃないかい?」


 なるほど、彼の情報通の一端が垣間見える考え方だ。将来は記者とか報道関係の職場で働いていそうな気がする。

 そして意味ありげな視線を彼から向けられた。


「百合宮嬢はお守り買わないのかい? 良縁成就」

「どこら辺で師匠出してくるんですか。少し離れるだけで苦しいこ、恋じゃありませんし! 中学はお受験先の関係でアレですけど、でも卒業したら戻ってくると思いますし」


 一緒にいたいから、同じ高校は難しいとしても家から通える学校を探すと決めている。銀霜学院にだって行かないから、乙女ゲーの通りにはならないだろうし。

 女子二人は購入を決めたのだろう、それぞれ手に持ってお会計へと向かっている。そしてたっくんは次の行動のために、再度豊島くんと打ち合わせをしに離れていた。


「……何故だか予感がするよ。君たちのランデブーには受難の相が出ていそうだ」

「何の根拠もなく碌でもないこと言い出すのやめて下さい」

「根拠ね。…………」


 待って。呟いてその後無言になるの、めっちゃ怖いんですが。

 え、何か知ってるの!?


「土門くん!?」

「……あの修行一貫の日和見朴念仁が何故かは知らないが、わざわざ動いていたからね。それに君たち二人ともが上流階級の出だ。何かまた起こる方が自然だろう」

「とても嫌な自然です! そんなものは杞憂ですよきっと!」

「やれやれ。何故だか遠い未来でまた君たちの何かに巻き込まれるような、そんな気がしてならないよ。安井金毘羅宮やすいこんぴらぐうも候補に挙げていれば」

「気がするだけで、縁切りで有名な神社に神頼みするほど嫌なんですか!?」


 なまじオールマイティに手助けされている(筆頭:体育)から、失礼発言にも強く否定できないというジレンマ!

 結局お地蔵さんのお守りに関しては私も購入することにした。だって何でも知ってそうな土門少年からあんな怖い予言を聞かされて、装備ゼロのままではいられなかったのだ。


 ……苦しい恋と言うけれど、気持ちが通じ合っているのにそんなことが起こるのだろうか? 確かに私は面と向かって「好き」と言えていないけれど、でもお互いのことを好きなのはちゃんと解っている。


 それにそもそも聖天学院に通ったり催会に出席しない限り、要注意人物である白鴎と秋苑寺とは出会う訳がないし。

 婚約関係を結んでいた白鴎だって、ゲームでは“百合宮 花蓮”が彼のことを好きだっただけで、彼は彼女をずっと疎、まし……く――……?


「花蓮ちゃん?」

「……えっ。はい!?」


 振り向いたら、たっくんがキョトリとして私を見ている。


「お守り買えた?」

「あ、はい。買えました」

「じゃあ次の場所に移動しよう。時間限られているし」


 既にお寺の外で話しながら待機している班員たちの元へと一緒に合流し、再び商店街を歩きながらバス停へと向かっていく。

 皆でワイワイと次の神社への話に相槌を打つ間にも、浮かび上がろうとしていた何かは霧散していた。


 疎ましく思われていた。それに間違いなどない筈なのに。


 ――どうしてそれに、違和感を覚えたのかなんて。


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