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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode165-2 〇〇家にてお悩み相談会


 さすが分かるように懇々と説明してくれる春日井。私は何も言えません。


「えっと。ゆ、油断してたら、耳触ってきたり……」

「うん」

「たまに後ろからだ、抱き締められたり……」

「……うん」

「こ、この間なんか、ここ、ここに、ちゅってキスされました!」

「これただの惚気だよね?」

「惚気じゃありません!」


 羞恥を押して話したのに、何で呆れた顔をされるのか。

 ジワジワと熱が篭る頬に両手を当てて、思いを吐きだす。


「だっ、だからその、わ、わわわわわ私だって嬉しいですけど、それよりも恥ずかしさが勝ってどうしても負けちゃうんです! でも私だって、態度でちゃんと伝えているつもりです! 私は一緒にいて話すだけで充分嬉しいんです。でも、最近、ド、ドキドキし過ぎちゃって、心臓壊れちゃいそうで……!!」


 言っている傍から思い出しドキドキしてきた! くっ、ラスボススケコマ野郎め、いてもいなくても私にダメージを負わせてくる!

 そんな私を気がつけば春日井は、生気のない目をして見つめていた。――そして。


「うん。そのまま爆発すればいいと思うよ」

「何故に!?」

「……その気持ちが通じ合っている彼は、太刀川くんでいいのかな?」


 やっぱり見当つけられた! しかも即バレ!

 もう自分でも真っ赤な顔をしているのが分かる。だって触っている頬が熱過ぎる。


「聞いていて思うよ。彼、すごく百合宮さんのことが好きなんだろうなって」

「ぎゃああ!」

「で、百合宮さんも彼のことをすごく好きなんだってことも」


 最早叫べなくなった。今、とてもあそこの植込みの中に潜り込みたい気持ちでいっぱいです。

 春日井が小さく息を吐いた。


「取りあえず、男の子側の心理を知りたいってことだったね。僕は好きな子とかはいないから、想像の範囲での答えになるけど、好きな子には触れたいと思う。百合宮さん前に気心の知れている人には抱きつき癖が出るって言っていたけれど、彼にもしているんだとしたら、それは百合宮さんの自業自得じゃないかな。気持ちが通じ合っているんなら、そりゃ相手も触りたくなると思うよ」

「え。ここでもまさかのブーメラン理論」

「あと、もしかしてそうされそうな時に百合宮さんが逃げる素振りとか見せているのなら、それも自業自得と言わざるを得ないかな。何かの動物の文献で読んだよ。逃げるメスをオスは狩猟本能で追いかけるって」


 自分で動物に例えたり麗花からも習性とか言われたりしたけど、春日井からもまさかの動物で例えられるとは。そして全てに私の自業自得と。

 言われて思い返せば、いつも私がフルボッコにされる時の大体が私の及び腰の時だ。うわぁ、動物の文献当たっている……!


「な、なるほど。つまり対抗策としては、私がドンと待ち構えていればいいと」

「普通に狩られると思うけど」

「何故!?」

「まな板の上の鯉」

「的確!」


 じゃあどうしろと言うのか!


「自然に身を任せるしかないと僕は思う」


 何も言っていないのに、最終アドバイスが繰り出されてしまった。私はこれからも羞恥心に耐え抜かねばならぬらしい。おおう……。

 テーブルに顔を突っ伏していると、「百合宮さん」と呼ばれる。


「ご家族には?」

「! ……言っていません。お母様だけ、察しているみたいです」


 短い一言に含まれる意味を察し、ノロノロと顔を上げて答えれば、微妙そうな顔がある。


「そう。……難しいな。こっちは僕が止められるけれど、まぁ夫人が承知なら向こうから話は来ないか」

「何のお話ですか?」

「こっちの話。まさか百合宮さんからそんな相談受けるとか、もう全然思っていなかったから」

「私もです」


 乙女ゲームのライバル令嬢が攻略対象者に恋愛相談するなんて、出会った当初は微塵も思っていませんでした。

 そしてどこか物憂げそうに視線を逸らしたので、気になって訊ねる。


「春日井さま?」

「人って分からないね。百合宮さん、最初は深窓のご令嬢の印象強かったけど、今ではこんなだし」

「こんなって何ですか」

「ちょっと最近、よく思い出すことがあるんだよ。僕が初めに抱いた印象とは、次に会った時にはガラリと変わっていて。本当にあの時の()()に対する僕の評価は、正しかったのかなって」


 彼女と言ったので、それは私を指しているのではないと判る。

 春日井も悩んでいることがあるのなら、私も相談を受けてもらった身なので聞いてあげようと思った。


「春日井さまにとってはその方、あまりよろしくない印象だったのですか?」

「うん。まだ学院に入学する前の話だけどね。人が結構いる前で、一人の子に対して酷い言葉を投げて泣かせていた。理由も僕にとっては頷けるものじゃなかった。けど今を見て聞いていると、あの時間違っていたのは僕の方だったのかもしれないって、そう思うようになったんだ」


 中々に複雑そうなお悩みである。私も言葉を選んで話を続けた。


「そうまで思われるくらいなら、余程昔と今でその方、良い方向に変化しておられるのですね」

「……初めからそうだったのかもしれない。言われたんだ、『見ていないのは僕の方』だと」


 フッと笑って空を見上げる春日井に釣られ、同じく視線を向ける。春らしく、穏やかな青い空だった。


「気まずいし今更って言われそうだから敢えてもう触れないけど、別のことで彼女にあの時のことを返そうと思っているんだ」

「そうですか」

「……詳しく聞かないの?」


 顔を戻して言われたことに、ゆるりと首を振る。


「私と違ってもうご自身の中で答えを出されているのに、求めていない答えを探して詳しくお聞きする意味って、あります?」

「ははっ。そうだね。……うん、やっぱり僕らの関係はこうが一番しっくりくる。あーもう高位家格の令息って、本当に面倒くさいよ。色々考えることが多過ぎて嫌になるよね」


 一人で何やら納得したかと思ったら、急にぶっちゃけ始めたのでギョッとした。しかも後半の発言が全く以って白馬の王子様じゃない!


「え、え? どうされました? プリンセス・緋凰の脱却がそんなに上手くいきませんか?」

「ぷっ! 本当それ、百合宮さんのネーミングセンス面白いよね。というか本人の前でそれ言ったら、またバタ足特訓させられるよ?」

「それなんですけど、私納得いきません! だって本当のことなのに、何で私に当たられるんですか!?」

「それだけ陽翔も百合宮さんに気を許しているってことだよ」

「えー」


 ド畜生に気を許されている結果が、足すっぽ抜けとか。


 ……まぁ、ヤツとももう大体六年の付き合いにはなるか。緋凰とは友達ではないが、交友関係の人数で言えば私の方に軍配が上がる。

 仕方がない。コミュニケーション先輩という立場で、残り少ない日にちを謳歌するか。好きな子ともくっつけないといけないし。


「というか、本当にまだ鉄壁の防御は撤去できないんですか?」

「入学してからずっとだからね。陽翔も厚意でしてくれていて、ずっと甘んじて受けていたことを今更やめてほしいとは中々言い出せないみたいで」

「それに対しクソミソ言われている私とは」


 強引俺様属性のくせに、妙にヘタレの香りがするとはこれ如何に。


 そんな春日井家でのお悩み相談会。私と春日井はその後、数十分ほど緋凰の人間関係向上のためのあれこれを話し合っていた。


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