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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode164-2 鈴ちゃんのお友達事情


「というかお兄様だって来年受験生じゃないですか! 読んでハマってお花畑脳になっても知りませんからね!」

「僕の進路は付属の大学だから、受験って言っても知れてるし。花蓮とは違うから」

「私だって合格確実なんですけど!?」


 前世の地頭プラス百合宮の独自教育が火を噴くぞ!

 爪が整えられている指がパラパラと流れるようにページを捲っていて、本当に読んでいるのかも怪しいものである。


「……イマイチ分からないな。どうしてこの男は主人公を引き止める? それに引き止めるのなら、わざわざ抱き締めなくてもいいだろう。腕を掴むだけで充分……いや、拘束するという意味合いだと、そっちの方が有効か?」


 ちゃんと読んでいた。しかも考察を述べている。

 あのスピードで読めるものなの?


 やはり神童の名は伊達ではないのか。しかもそこ、丁度私が力尽きたところ。それにあんな感想が出てくるくらいでは、お兄様の恋愛経験値も私と同等かそれ以下であると推察する。

 今になって思うが、お兄様のそれに関しては都落ちして風紀委員になったが故の弊害かもしれない。


 ……あっ、だから麗花に対しても親戚のおじさんなのか!

 一番青春しなきゃいけない時期に風紀風紀ばっかり言って取り締まってるから!!


「花蓮」

「はい」

「今とても失礼なことを考えた?」

「いえ何も?」


 本に視線を落としてこっちを見てもいないのに、何で分かるんでしょうか。怖いんですが。

 第三の目があるのかと目を凝らしている内に鈴ちゃんが向い合わせから前へと方向転換し始めたのを見て、そう言えばと訊ねてみる。


「お兄様。お兄様って、鈴ちゃんの頃は学院でどうでした?」


 本から顔が上がる。


「どうって?」

「お兄様の他に同学年で高位家格と言うと、佳月さまくらいですよね? 鈴ちゃんはクラスの子からは囲まれてるみたいで、ファヴォリの子からは遠目で見られているらしいんですけど」

「あぁ。……そうだな。周囲に対して特に興味もなかったからあまりよく見てなかったけど、誰かしらには話し掛けられていたような気はする。当たり障りなく返していたから、誰がどうだったとかは特に記憶にないけど」


 随分とあっさりな付き合い方だなと感想を抱いていれば、「ただ、」と続いた。


「時たま強い視線があるのは感じてたな。まぁ見られるのは百合宮の跡取りと僕への周囲の評価のせいだとは考えていたけど、その中でもたまに強い視線があったのは覚えているよ」

「……それ、誰かって言うのは?」

「いや? そう感じる時に限って誰からも話し掛けられないから、誰がそうなのかは判らなかった。けど僕も知りたいとはそんなに思わなかったんだよね。僕のことどうこう出来るとは思わなかったし、見られるだけならいいやと思ってね。別に減るもんじゃないし」


 それは減る減らないどうこうの問題なのか。ううーん、お兄様に聞いてもよく分かんなくなった。

 お兄様はあらかじめ興味がなく当たり障りない対応。私は別の学校で同じ環境下ではないものの、よく知らない人には令嬢対応。鈴ちゃんは蒼ちゃん以外を令嬢しながら邪魔者扱い。


 ……あれ? 思ったんだけど、もしかして私達三兄妹って、人への対応力滅茶苦茶……?


 お兄様は人の顔面に紙を貼りつけるくらいだし、私もたっくんへの最初は無理やり強引に行っていた。鈴ちゃんは蒼ちゃん以外に見向きもしない。

 ヤバい。何か気づいちゃいけなかったことに気づいてしまったような……。


「お姉さま」


 声を掛けられて見ると、鈴ちゃんがこちらを振り向いている。

 首が痛くなっちゃうよ?


「お姉さまは、鈴にお友達ができたらうれしいですか?」

「え? まぁそれはいないよりは、いた方がいいのかなって」

「うーん……」

「鈴ちゃん?」


 唸りながら考えていた彼女は、足をプラプラさせながら。


「あの女の子の視線は、鈴をまっすぐに見ています。だからよく分かります。鈴に話しかけてくる子たちは、あの子みたいに鈴を見てないです。鈴じゃなくて、“百合宮”を見ています」

「!」

「ほほえむと他の子たちはみんな鈴をうっとりして見てきます。でもあの子は鈴がそうすると、イヤそうな顔をしてそっぽ向くんです。だからそーちゃんいがいは、よく分かりません」


 話を聞いて、微かに衝撃を受ける。ただ単に蒼ちゃんとそれ以外を分けて見ているんじゃなくて、ちゃんと人を見て考えていたこと。

 話を聞いていたお兄様も頷いている。


「花蓮の心配も分かるけど、歌鈴だってちゃんと考えているってことが分かったね。いいんじゃない? 取りあえずは歌鈴の好きにさせて。何かあれば麗花ちゃんや、蒼佑くん経由で瑠璃子ちゃんから話が行くだろう」

「そうですね」


 鈴ちゃんの頭をヨシヨシすると、ニコニコ笑って受け入れてくれる。


 ……そうだよね。心配のし過ぎも良くない。私だって顔面ダイブして暫くお母様の過保護が発動していた時はずぅーっと付きっきりで、げんなりしていたじゃないか。

 成長を遠くから見守るのも姉の務めと言えよう。ブラコンでシスコンだけど、私も我慢しなければ。


「あ。あとお姉さま」

「なぁに?」

「鈴、皆から長女ってかんちがいされています。鈴はお姉さまのこと言いふらして、皆がお姉さまにむらがるのすっごくイヤなので、いつもだまっています。でも、鈴は次女って言った方がいいですか?」

「えっとね、」

「言わなくていいよ」


 私が何か言う前に食い気味にお兄様がそう言った。

 え、何故?


「花蓮のことは知っている人間だけが知っていればいい。僕の周囲が騒がしくなるのは御免だね」

「りょうかいです!」


 深い笑顔できっぱりと言い切られ、鈴ちゃんが力強いお返事をした。

 騒がしくなるって、あれ? それは私が問題児認定されているということなのか!?


「お兄様! 私がいつお兄様の周囲を騒がしくしましたか!」

「他校行事訪問禁止された件を忘れたのかな?」

「事あるごとに召喚される私のやらかし!」


 この禁止の件に関してもまだ執行されており、未だ解除の兆しはない。私に対する縛りが多過ぎる!


「くっ! いつか……、いつか身軽となって飛び立って見せます!」

「重いって歌鈴」

「えっ」

「えええ違う! 違うよ鈴ちゃん! お兄様!!」


 ピシャアッと効果音を鳴らしてショックな顔をする鈴ちゃんを宥めながら、違うと分かっているのにそんなことを抜かしたお兄様に文句を言う私であった。


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