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Episode15-1 リーフの相談事

 ごーろん、ごーろん。

 ごろろーん。


「ふーふふふんふん、ふふふふふっふ、ふんふふふっふふふふふんふふふ~」


 転がっていたカーペッドの上から起き上がり、そっと窓から見える景色をその瞳に映す。


 皆さんこんにちは、百合宮 花蓮六歳です。

 季節はただ今、雪が降りしきる冬を迎えました。


 そしてもうすぐ、私が乙女ゲームの記憶を思い出してから、一年目を迎えようとしています。





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





<こんにちは。

 もうすっかり外の空気も寒くなりましたね。今年の正月は初めて海外へ行ってすごしました。


 行き先はフランスだったのですが、雪景色のサクレ・クール寺院はとても幻想的で思わず見惚れてしまいました。夜空の中に白亜の城が雪の光に輝いて、まるで妖精の国にやって来たようです。

 

 実際に見る方が素敵だと思いますが、天さんにも同じ気持ちになってほしくて写真を一枚同封しています。喜んでくれると嬉しいです。

 

 ところで、少し相談があるのですが……女の子は一体どんなものをもらったら嬉しいものですか?


 親戚の女の子の誕生日が近々あるのですが、何をプレゼントしたらいいのか少し困っていて。ぜひアドバイスを頂けるよう、お願いします。

                  リーフより>



「うっわぁ~。本当に素敵! リーフさんって本当に情緒深い人だよね~まだ子供だけど。それにしても、親戚の女の子への誕生日プレゼントかぁ。うーん」


 リーフさんとは手紙のやり取りのペースが一ヵ月に二回ほどに落ちているが、その内容はとても充実したもので、私も読むのも書くのもワクワクしながら文通させてもらっている。

 しかしながら、こうしてリーフさんから相談されるのは初めてのことだった。


 てか親戚の女の子って何歳だ。それにもよるぞ。


「取りあえず一般的な案としては、お花とかお菓子とか? だったら歳下でも歳上でもいけるし。でもありきたりか」


 よし、ここは他の意見も聞くべきだな!

 私はリビングで編み物をしているお母様のところへと向かった。


「お母様!」

「あら、花蓮ちゃん。もうすぐマフラーが編み終わるから、これを巻いて一緒にお出掛けしましょうね」

「あ、はい。それよりもお母様! お聞きしたいことがあるのですが、女の子って何をプレゼントしたら嬉しいものです?」


 私の問いに、お母様は編み物の手を止めて首を傾げる。


「プレゼントってお友達かしら?」

「お友達の身内の方への贈り物の相談です。私としては、お花とかお菓子くらいしか思い浮かばなくて」

「そうねぇ。お洋服だと好みもあるし、お人形とかどうかしら? いくつになってもお人形とかぬいぐるみをもらったら、嬉しくなるものよ」

「なるほど、お人形ですか……。お母様ありがとうございます!」


 ピョンっとスキップしながら自室へと戻り、早速リーフさんへの助言を書き記そうとしたが、ハタと思い立ち再度部屋を出てお父様の書斎部屋へと向かう。


「お父様!」

「な、何だね花蓮」

「お電話お借りしますねー」


 リビングにも電話機はあるが、私の部屋からだったらお父様の書斎の方が近いのだ。

 何故かビクッと肩を跳ね上げさせたお父様には目もくれず、電話を借りる旨だけを伝えて電話機へと一直線に進む。


 お兄様に怒られ麗花にも呆れられたので、あの日課はもう行っていないが、少しでも怪しい素振りを見せたらまた復活させる心づもりである。

 受話器を取り、持ってきたメモ帳を見て番号をダイヤルして掛ければ、二コール目で繋がった。


『はい、こちら薔之院でございます』

「こんにちは。私、百合宮 花蓮と申しますが、麗花さんはご在宅でしょうか?」

『おお、花蓮お嬢さまでいらっしゃいましたか。はい、ただいま麗花お嬢さまにお繋ぎいたしますね』


 声からして恐らく電話に出たのは、執事長の西松さんであると思われる。

 麗花が初めてウチに遊びに来た時に一緒に付いてきた、優しそうなお爺ちゃん執事さん。


 ゆったりとしたメロディーの保留音を聞きながら待っていると、十秒もしない内にそれが途切れた。


『もしもし、花蓮さん?』

「あっ、麗花さん。ちょっと麗花さんにお聞きしたいことがあるんですけど、今大丈夫です?」

『ええ。それで、聞きたいことって何ですの?』

「あのですね、実はとある女の子へのプレゼントについて悩んでいるのですが、意見をお伺いしたくて。同い年くらいの子にあげるものって、何が喜ばれますかね? 一応今出ている案としてはお花とかお菓子とか、お人形なんですけど」

『……とある女の子へのプレゼント?』

「麗花さん?」


 そこでちょっと間が空いたが、どうしたのか問い返す前に向こうが話し始める。

 あの間は一体何だったんだ。


『そうですわね。季節にちなんだ贈り物でもよろしいのではないかしら。蜂蜜ジンジャーなどはお茶に入れてもお菓子に入れても美味しいでしょう。風邪対策にもなりますし。ハンドクリームでも喜ばれると思いますわよ?』

「は、はんどくりーむ!」


 前世と今生合わせて二十九歳の私でさえ思い浮かばなかった、美容プレゼント! 麗花ってば大人思考!


『あとはスティックディフューザーとかかしら』

「すてぃっく……なんて?」

『スティックディフューザー、ですわ!』

「そのスティックなんとかって何です?」

『……貴女の家のリビングにも置いてあったのを見ましたわ。飾棚の上に写真立てと一緒に置いてあるでしょう!』

「ん~? あっ、あの香りつきの棒のことか!」


 あれってそんなご大層な名前だったんだ。へぇ~。


『もう一々突っ込みを入れるのも疲れましたわ。あれだったら気分も落ち着けますし、色々香りの種類もあるので、何種類かを一緒にプレゼントしてもいいですわね』

「ちなみに麗花さんのおススメは?」

『私? 私が今愛用しているのはベルガモットやレモングラスの精油をブレンドした、リードディフューザーですわ。誰かさんの読めない言動に対して、いつもこの香りで癒されておりますの』

「へぇ~」

『……何がへぇ~、ですのっ! 貴女のことですわよ!?』

「ええっ!?」


 私そんな麗花が言うような、読めない言動なんかしてないんですけど!?


 待って。癒されているって、私ってばもしかして麗花にストレス与えてる!?

 私があまりにも由緒正しい家のご令嬢らしからぬ行動ばかりするから!? 一応令嬢らしからぬ行動をしていたことは少なからず自覚していたけど!


「今年はもう少し落ち着いた行動を心がけるようにします。くすん」

『最後の言葉が既にふざけてませんこと? ……と、ところで花蓮さん』

「ん? 何です?」

『そ、そのプレゼントのことですけど。い、一体どなたへの贈り物ですの……?』


 何でそんなことを聞くんだろう。

 あっ、さては麗花、私が新しい友達を隠れて作ったんじゃって疑っているな!?


 ふっふっふ、可愛いやつめ。


「(文通相手の)親戚の子へのプレゼントですよ。何ですか麗花さん、ヤキモチですか?」

『!!? ばっ、なっ、ふ、ふざけたことを言うんじゃなくってよ!! もう切りますわよ! ごきげんよう!!』

「あ、ちょっと」


 ガッチャン! と思い切りよく切られた音に、調子に乗り過ぎたかと舌を出す。


 いけないいけない、あまりにもツンデレな麗花が可愛すぎてつい。

 しかし思いの外良い収穫になった。

最初にふんふん言っているのは鼻歌です。

犬はどこかを駆け回って、猫はどこかで丸くなっているというアレです。

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