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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
311/641

Episode138.5 side 水島 美織の悔恨④-1 呪縛が解き放たれる時

「ぁ…………」

「麗花」

「席に座りますわよ」


 震える手を引かれて、連れて行かれそうになる。



 いや。


 いや。


 いや、いやいやいやいや!!



「いやっ。いやです! 汚れっ、汚れちゃうっ!!」


 足を踏ん張って手を強く引いて、薔之院さまから自分の手を取り戻す。驚かれる薔之院さまの顔を最後に、今すぐここから出ようと来た道を戻ろうとすれば。


「美織さま! 私との約束を覚えていらっしゃいますか!?」

「!?」


 大きな声にビクリと肩が揺れる。

 約束。約束? 何の……!?


「戻ったらまた二人でお話しましょうと。あの時、お会いせずに帰宅してしまいました。太刀川くん……私の居場所を貴女が教えて下さった男の子。彼から、貴女が泣いていたと聞いて。約束を守れなかったこと、すみませんでした」


 な、んで。どうして、百合宮さまが、謝るの。

 私のこと、どうして!


「……て」

「え?」

「何で、何で百合宮さまが謝るの!? 私がっ、全部っ! 悪魔の道具で汚い私が全部全部悪いのに!! どうなるか知ってた! 知っていて、でも怖くて、ダメで、結局置き去りにしてしまった! 汚い! 汚い道具なの!! 謝っても許されないことをしたのは私なのに! 何で。何でっ!」


 分かる。私を見て微笑まれた瞬間から。

 百合宮さまは汚れていない。純粋で、美しくて、きれいなまま。


 だったら近づいちゃいけない。

 汚れた私が近づいたら、今度こそ汚れてしまう!


「美織さま」


 椅子が動く音が聞こえた。百合宮さまが移動する音。


「こな、来ないで下さ……っ」

「美織さま。座って下さい。“被害者”の私が、“加害者”の貴女に対してお願いしているのです」

「……あっ……」


 被害者と加害者。百合宮さまの、お願い。

 真っ青になりながら恐る恐る振り返れば、真っ直ぐに見つめてくる瞳と出会う。どうして私に拒否権があると思った。許されない私は、百合宮さまの言うことを聞かなければ。


 幽鬼のようにフラフラと覚束ない足取りで、指し示されたガゼポの椅子へと座る。どこを見ていいのかさえ分からずに、白く美しい木目のテーブルを見つめた。

 私が座ったのを確認して、百合宮さまと薔之院さまも椅子へと座られる。


「……まず、今の状況をお伝えせねばなりませんね。取りあえず私とこちらの薔之院家の麗花さんは、昔からの友人です。麗花さんにお願いして、今日お話させて頂くために連れて来て頂きました」

「はい……」


 驚くべき繋がりも、今の私の頭には入って来ない。


「麗花さんから道中、お聞きになっているかもしれません。美織さま、貴女のお家である水島不動産ハウスサービス。貴女の一族に経営権が失われたのは、もうご存知でしょうか?」

「はい。お聞き、しました」

「そうですか。貴女の一族から経営権を奪ったのは、我が百合宮家です」

「!!」


 バッと顔を上げる。

 百合宮さまも、薔之院さまも、静かな眼差しで私を見ていた。


「百合、宮、家が」

「どうしてか、理由は分かりますか?」


 理由なんてそんなの。


「悪魔が。悪魔がまた、百合宮さまに触ろうとしたから……っ」

「……自分のお兄様のことを、悪魔と呼んでいるのですか。それも一つの理由としてはありますが、私が何より許せなかったのは、私の大切な人を貴女のお兄様が傷つけたからです。貴女が泣いていたと教えてくれた、あの男の子のことです」

「……あ」



『同じ学校みたいでね、彼の弟と花蓮ちゃん。あぁ、覚えてないかな? 四年前にすごく気に入った可愛い子と、途中で邪魔してきた子だよ。ずっと一緒にいるみたい。彼はそれが気に入らないみたいで、二人を引き離せって』



「他にも、人を利用してその人をも苦しめました。私だけならまだしも、他の人を巻き込んで苦しめるなど言語道断です。当時、私は家族に守られました。私が傷つくことをよしとせず、この四年は報復のための準備期間でした。報復の権限は最終的に私にゆだねられましたが、話を聞くまで本当は家ではなく、兄一人への仕返しをするつもりでいたのです。……美織さま。貴女の事情を知って、その考えが覆りました」

「わ、たしの?」

「はい。貴女を連れて来てほしいと頼むより以前に麗花さんには、貴女の学院での様子を教えてほしいと頼みました。ごめんなさいと悲痛な声で私に謝った貴女が、今はどのように過ごしているのかと」


 薔之院さまの方を見る。

 彼女は口を挟む気配もなく、話に聞き入っている。


「聞きました。他の女子生徒を気にすることなく、一人の男子生徒へ執着していると。まるで――追い詰められているかのように」


 そんな。だって、何で。

 振りは、絶対に“そう”見えていた筈なのに。


「突然でしたもの。貴女の変わり様。人見知りで常に大人しい子が、いきなりあのようにご自分から行かれるのですもの。それに、その顔ですわ」


 薔之院さまに言われ、手で自分の顔に触れる。

 この顔が何だと。


「楽しそうに、嬉しそうにはしゃいでいた後。必ず間で表情がなくなりますわ。抜け落ちるようになくなるのです。本当にその感情通りに感じていたら、そんなこと有り得て?」

「私の表情」


 あの日壊れた、日常では何も聞こえない、私の。


「美織さまご自身も先程口にされていたように、お兄様の行いを貴女は知っていました。知っていて、貴女は私をあそこに連れて行きました」

「ごめ、ごめんなさっ」

「聞いて下さい。でもお兄様に相対した時、止めて下さろうとしていた。覚えています。色々話し掛けていたのに返事もあまり返ってこない、常に青白い顔をしている。怖かったのですよね? でも逆らえずに、言われた通りにするしかなくて。安易に分かりますと口にしたくはありませんが、被害を受けた私だから言います。貴女のお兄様は異常者です。言葉なんてものは通じません。そんな異常者の妹として、ずっと身近にいた。知っていたんですよ、私も。貴女のお兄様は、異常だと」


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