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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode138.5 side 水島 美織の悔恨①-2 信じていたものは


 私が知ってしまった日から、お兄ちゃんは誰をあの噴水まで連れていくのか、指定するようになった。

 逆らってしまったら、私もお母さんのような目に遭わされる。そう思うと、怖くても言うことを聞くしかなかった。


 けれど唯一の抵抗として、最初にお友達になってくれた子――新田 萌ちゃんだけは絶対にそんな目には遭わせないと、家にも催会にも招待しなかった。

 来たそうな素振りは感じるけれど、絶対絶対にダメだった。萌ちゃんまでいなくなってしまったら、私には何も残らなくなってしまう。


 あの日は私も初めて迷路に入った日だから、お兄ちゃんは私に道を覚えさせることを優先したのだと今なら分かる。

 こんな人見知りで、上手く話せないような私と仲良くなってくれる子達に申し訳なくて、お兄ちゃんに逆らう勇気のない自分がひどく汚くて、感情が麻痺しそうになっていた。



 そんな中で小学一年生の夏、私は最大の過ちを犯してしまう。





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





「百合宮の娘の花蓮と申します。水島さま。この度は、おめでとうございます」


 見たことがないような、とても。とっても可愛い私と同じ年の女の子。

 百合宮家というとすぐに思い浮かぶのは、私も通う学院の先輩で、特権階級のファヴォリにも所属されている百合宮 奏多さま。それにお家も私の家とは比べ物にもならないほど古くて、大きなお家。


 私と全然違う。歩き方も、頭の下げ方一つ取ったって。


 お祖父様に促されて緊張しながら挨拶をすれば、その子――百合宮さまはそんな私にも、にっこりと微笑んで。


「大人の方がいっぱいですもの。失敗しないようにしないとって、緊張しますよね」


 そんなことを言ってくれた。

 家格が上の子ほど自分に自信のある子が多くて、上流階級でもオドオドとしている私に、そんな子達は白けた目を向けてくる。


 でも、この子は全然そんなことなくて。私に掛けてくれた言葉だけで、優しい子だってことが分かった。だけど。


「う、ごほん! で、美織が隠れているのが我が水島家の、時期跡取りで長男です!」

「水島 淳です。小学三年生なので、花蓮ちゃんの二歳上だよ」


 そう言ってお兄ちゃんが握手をするために手を差し出した瞬間、ガツンと頭が殴られたような衝撃が襲った。


 何で。どうして。

 だって今までは、私達の家よりも家格が低い家の子しか。


 信じられない思いで、お兄ちゃんと百合宮さまが握手を交わすのを凝視してしまう。


 うそ。うそうそうそうそ……! 何で。何で!? どうして……!!


 百合宮家のお二人が下がって少しして、お兄ちゃんが耳元に囁いてくる。


「美織。分かるよね?」


 きっと私の顔色は真っ青になっている。

 見上げたお兄ちゃんの顔は、薄く微笑んでいた。





 会場でずっと、百合宮さまの動向を見守っていた。

 彼女はずっと、今日のパーティで白鴎さまと同じくらい話題に上がっている男の子と一緒にいる。彼はお兄ちゃんと同じ学年の、水島よりもずっと大きな家の子だと言う。その家の次男だと。


 でも聖天学院じゃない。それは百合宮さまも同じ。今までその存在さえ知らなかった二人が、一緒に。

 楽しそうなその様子は、遠目から見ても分かるほどで。他の、親に付いて来ている子達も気にしてチラチラと見ている。けれど話し掛けに行けないのは、とてもあの二人がお似合いだからで。


 このままずっとあの二人が一緒で、話し続けてくれていたら。そうしたら私は、案内できなかったとお兄ちゃんに言える。


 それなのにどうしてこうも神様は私に残酷なのか。

 男の子が呼ばれてしまい、百合宮さまが一人になってしまった。言い訳が、できなくなった。


 彼女が一人になっても他の子は近づかない。

 とても可愛いだけでなく、所作も美しい彼女に女の子は自分が見劣りするからと。男の子の方はあの彼のことを気にして、行けないでいる。

 多分、家格を気にすると何の抵抗もなく行けるのは、まだ来られていない白鴎さまくらいしか……。


 と、丁度その時、白鴎さまがお越しになられた。

 すぐに誰かを探すように会場内を見渡され、その視線が一瞬留まり、薄く微笑まれた。目撃した女子たちの顔が一様に赤く染まる。


 私も例外ではなかったけれど、心臓が嫌な音を同時に立てていた。

 ずっと動向を見守っていた先と、同じ方向に向けて微笑まれたから。


 そうだ。百合宮先輩と白鴎先輩はよく行動を共にされている。白鴎さまと百合宮さまも、面識があってもおかしくない。

 白鴎さまが百合宮さまの方へ行けば、私にまた行けない理由が――


 と、ポンと肩に手が触れた。


「美織」

「っ!」


 振り向かなくても分かる。耳元に、平淡な声が降りてくる。


「主催者への最初の挨拶は社交においての基本。その間に行っておいで」

「……!」

「どうして一人になった時、行かなかった?」

「いっ…」


 肩に掛かる力が強まった。

 いやだ。いやだ! 行きたくない行きたくない行きたくない!!


「次は、ないよ?」


 白鴎さまの挨拶を受けるため、お兄ちゃんが離れていく。

 どうして。何で。私に優しくしてくれる子ばかり……っ!


 震えて仕方がない足を、見守っていたその先に向ける。

 何故か固まってその場から動いていない百合宮さまへと、泣きそうになりながら声を掛ける。掛けてしまったのだ。



「ゆ、百合宮さまっ」


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