表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
304/641

Episode138-2 天蜻蛉⑫―終幕―

 一緒に過ごせるのは、あと一年と半年。

 そこからは離れ離れ。


「自覚するのは遅かったけどさ、五年もずっと気持ち変わらなかったんだ。少し離れるくらいで何が変わるんだよ。大丈夫だって」

「何が大丈夫ですか。香桜は全寮制だから会えなくなります」

「奇遇だな。有明も全寮制。兄貴は地に埋まる勢いだった。ざまぁ」

「……ふふっ」


 思わず笑ってしまうと、隣からも笑い声が漏れる。軽く握っていた手をまた握り返される。


「笑ってろよ。先のことも大事だけどさ、一緒にいる時間を俺は優先したい。離れてる間は泣いてる顔よりも、お前の笑った顔をすぐに思い出したい。多分、何となく。高校は一緒になるんじゃないかって気がする」

「いつから預言者になったんですか」

「そこは素直に頷いとけよ。花蓮らしいけど。……あー、でもお前があそこ受けるんだったら、かなり難しいか? もう一校の方だな」

「? どこの高校の話ですか?」

「何でもない。……あのさ」


 首を傾げて聞くと横に首を振られはしたが、その後真面目な顔で見つめられた。

 何か言い掛け、それでもどうするか迷うような素振りを見せて、けれど彼はそれを口にした。


「俺らの関係ってさ、どうなんの?」


 言われた意味が、一瞬頭に入って来なくて。


「関係……」

「俺はお前が好きだ。あの日もそう言った。花蓮だって、そうなんだろ?」


 止められずに溢れた想いの言葉。

 それを口に出した先で、すぐに否定した。別れがすぐ目の前にあって、伝えてはいけないと思ったから。でも、でも……っ。


「……言わなくていい。首をどっちかに振って教えて。俺のこと、好き?」


 涙が零れる。コクリと、縦に。

 何度も頷くから、ポロポロ落ちて制服を濡らしていく。


「泣くなって。泣き虫」

「だって、だって」

「何か理由があるんだろ? 五年も一緒にいるんだから分かるよ、それくらい」


 出来過ぎ大魔王め。私だって言いたいんだ。

 それなのにどうしてかこの緩々なお口は、伝えたい時にそれを拒否する。


 好き。

 好きだよ。好きなの。


 ……どうして? 友達だと思っていた時は、何の躊躇いもなく言葉にできたのに。



 ――――『好き』の種類が変わると、何で言葉にできない




「言葉がなくても」



 顔を上げて見つめ合う先には、愛しさと、優しさしかない。何度も涙を拭ってくれる指は濡れている。


「態度でちゃんと伝わってる。分かってるから、もう泣くな。楽しそうに笑ってる顔が好きなんだから、笑ってくれ」


 頬に触れている手に手を重ねて一度、目を閉じる。

 そして再びその視界を開けた時、彼は私を見て笑ってくれた。


「その時まで、一緒にいます」

「その時まで、一緒にいる」



 約束する。



 もう貴方の前では、泣かないから。





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





 スクールバスに揺られ、隣同士で座っている私の目は泣き過ぎて真っ赤。借りたハンカチはちゃんと洗濯して返却します。

 繋いだ手をプラプラ揺らしながら、気になったので隣に聞いてみる。


「ねぇねぇ太刀川くん。さっきは暫く学校に来てなかったからって言っていましたけど、明日も学校ありますよ? 何でわざわざ放課後に来たんですか? 探険ですか?」

「何で五年も通ってんのに今更探険するんだよ。しかも一人だぞ。何となくって言っただろ」

「えー。つまんないです」

「つまんないってお前な」


 だって、もう少しで夕方になろうって時にわざわざ来る?

 しかも行き道にスクールバス走ってないし、お家から徒歩で来たっぽいし。不思議なことするよね。……通うのも後少しって思ったら、感慨深くなったのかなぁ?


「……何となく」

「はい?」


 ポツ、と零した言葉に聞き返せば、肘かけに頬杖をついた顔がそっぽを向いて。


「何となく、お前が待ってるような気がしたから」

「え……」

「いるような気がして行ってみたけど、拓也と一緒かと思ったら土門とだし」

「えっ」

「何か仲良さそうに話してたし? 俺と同じくらい女子に人気あるヤツだし? 別に気にしてないけど?」


 めちゃくちゃ気にしてるじゃん。

 というかアレで仲良さそうに見えたの!? おかしくない!?


「ほぼウザ絡みです! ……あと、今回の協力者でもあります。土門くんのおかげで塩野狩くんのことが分かりましたので。お礼と、ちょっとした答え合わせです。土門くんの比重は女子よりも塩野狩くんに傾いていました」


 そっぽを向いていた顔が、意外そうな感じで振り向く。


「土門が? ……そっか。何か、意外なところで意外なヤツが繋がってんだな」

「思いました。こうしてみると、世間って狭いですよね」

「本当にな」

「太刀川くん太刀川くん」


 首を傾げて促される………くっ、格好良いな!


「明日、教室来てくれますよね?」


 確かめるように聞くとキョトンとして、ふはっと笑った。


「なに心配してんだよ、当たり前だろ! ちゃんと行くから安心しろって」

「心配にもなります! いきなり姿消して! 初めて無視されたあの日、私達わざわざ太刀川くんの生存確認しに行ったんですからね!?」

「つかお前らが来ないのあの時の俺に取ったら都合良かったけど、来るの遅くないか? 行かなくなってからどんだけ日にち経ってたと思ってんだ」

「だっててっきりお昼休憩の時に顔を出せないほど、激モテ期が到来したのかと思ってたんですもん」

「本当ポンコツだよな、お前って」

「何ですって!?」


 百合宮家のご令嬢つかまえて何度もポンコツ言うな!

 プンプンして腕に抱きつく。


「……どうした?」


 疑問に満ちた声が降ってきて、間近にある顔を見上げる。


「何がですか」

「何で抱きついてんの」

「え?」


 何でとか普通聞く?

 態度でちゃんと伝わってるんじゃなかったの? 話違うくない??


「お兄様に甘える時とか、よくしています。拓也くんにだってしています。……太刀川くんにも、したいです」


 だって好きだもん。

 ジィッと見つめていると、段々とその顔が赤く染まっていって。プイッと逸らされた。


「~~っとに! 可愛いにも程があるだろ……!」

「え? ……え? えっ」


 ボソッとスケコマ発言が飛び出し、その意味を理解して釣られて自分の顔も熱くなってくる!

 かっ、可愛い……!? わ、ちょ、また何か私が負けてる感あるぞ!?


「だっ! だから! 何でそう貴方はスケコマシなんですか……!!」

「お前絶対ブーメランだからな! 人のこと言えないからな!」

「私はスケコマシじゃありません!」


 そう二人と運転席の運転手さん以外いないスクールバスの中で、いつものように。けれどお互いの存在の大きさだけは変わって、停留所に到着するまで私と裏エースくんは言い合いながらも、ずっと会話をし続けたのだった。



 繋いだ手は、別たれる時まで離さずに――……。


これにて『天蜻蛉編』は終了です。皆さまお疲れ様でした。関係性が少し変わった主人公たちの学校生活を、今後もお楽しみ頂けたら幸いです。


次話は本編外として、もう一人の水島の子のお話を描いていきます。こちらは内容が内容なので、ストレス展開多発警報を発令します。

初めから読まないも良し、大丈夫大丈夫と思いながらも途中「うっ……!」ときて、そっ閉じするも良しです。大体八話くらいになりますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ