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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode134-2 天蜻蛉⑧―決戦―

 徐に水島兄がそのズボンのポケットに手を忍ばせて、震える携帯を取り出した。


「はい、もしも……あぁ、はい、分かったよ」


 耳に当てて話し始め、短く返事をしてすぐに通話を切る。

 フッと片頬を上げて笑った。


「帰ってこいってさ。まぁ、こうなった以上は仕方ないか。もう何も出来ないね」


 ざわつく周囲の視線や声などものともせず、クルリと方向転換して会場の扉へと向けて歩き始める。その背に大きな声で呼び掛ける。


「水島さま!」


 顔は向けずに足だけ止めたその背に、四年前に受けたものを返すために、これが最後であると引導を渡す。


「私は、私が守るべきと判断したものはキッチリと守り抜きます。もう二度と傷つけさせませんし、私がそんなことは許しません」


 聞いてどう感じたのかは分からない。

 水島兄はそれに対して何も言うことはなく、ゆっくりと歩き始めて会場を出て行ったから。


 自然と周囲の招待客も今のやり取りで憶測を立てるだろう。百合宮家に縁のある家の令嬢に何かしたために、百合宮家が水島家へと鉄槌を下したのだろうと。

 そう思ってもらって結構。だってそれは紛れもない事実なのだから。


 スクリーンを上げ、長谷川さまが気を取り直すように立食の飲食を勧めるのを聞きながら、私はクンと裏エースくんの袖を引く。


「水島さまは去りました。貴方はいつまで私に触っているんですか」

「え。……あっ」


 途端バッと離れていくが、掴んだ袖は離さない。


「離せよ」

「どの口が言いますか。お話があります。付いてきなさい」

「離せって」

「付いてこい」


 真顔で低く告げればピキリと固まり、引きずる形で最初に居たドレープカーテン越しの控室へと連れ込む。扉を内鍵でキッチリと施錠し、ようやく二人きりになった。


 不機嫌そうに顔を顰めているが、問題は解決したというのにまだ()()を続けるのか。


「太刀川くん」

「何だよ」

「ちゃんと見て聞いていたでしょう。水島さまに関する問題は全て、完膚なきまでに解決しました。塩野狩くんのことも安心安全です。褒めなさい」

「……何で」


 それはどういう意味での何でかね?


「催会に参加したことなら、熱意を込めてお父様とお兄様を説得しました。色々な方の協力を得て塩野狩くんに辿り着き、事情を把握しました。皆様に紹介した名前のことならあれは……まぁ、アレです。とにかく! これで万事全て解決したんです。もうそんな心にもない演技などやめて、仲直り…」

「だから何でだ!!」


 ギッと睨みつけられる。


「大嫌いだって言っただろうが! 何で諦めてねーんだよ! 普通それで離れるだろ、近づかないだろ!? 何で禁止されてる催会に参加してまで……っ。わざわざアイツ呼んで触らせるし! 馬鹿か!!」

「馬鹿は貴方の方です!!」


 睨み返して大声で言い返す。

 控室は防音完備されているから、いくら大声を出しても会場までは届かない。だから外からの声を聞くために、最初に扉を開けていた。


「無視していない者扱いして! 急にそんなことされて原因も分からなくて、どれだけ私が傷ついたか分かります!? 一年生の時は色々言ってくれたから腹も立ちましたけど、何も言ってくれないからすごく悩んだんです! ずっと私が何かしたのか、やってしまったのかって。けど、こんなことになっているって分かって、その時に一番、一番傷つきました……! 何に一番傷ついたか分かります!? 私のせいで、貴方が傷ついているって。傷ついてまで私のことを守ろうとしてくれていることが、解ったから……っ!!」


 グッと拳を握って耐える。

 違う。まだここで泣いちゃいけない。


「噴水で、私が泣いて動けなかったから。人の笑い声を聞いただけで涙が勝手に出てきたから。一人になるのが怖くて、貴方の手を離せなかったから。不甲斐なかったです。立ち向かえないって思われても仕方がないです。でも、私、私はっ、自分が傷つけられることよりも、貴方が傷つけられることの方が嫌です! 絶対に絶対に、嫌なんです!!」


 だから奮起した。

 彼を守るためだったら、過去のトラウマなんて粉砕してやる。


「大嫌いって言われても、嘘だって分かりました。だって貴方、ちゃんと大事に使ってくれているじゃないですか。あの時鞄の蓋が空いていて、たまたま見えましたよ」

「っ!」

「本当は、水島さまに会う時、ちょっと心配だったんです。でも貴方は傍にいてくれません。だから、お守りに着けてきたんです」


 腕に着けてきた。あの日、私のイメージだと言って贈ってくれた、腕時計を。

 見せて、それを見た裏エースくんの顔が歪む。



 ……どうして?


 何で?


 お願いだから。


 ねぇ。





 まだ、ダメなの?



「……ちゃんと、言いました。あの時。知っているって。ちゃんと後から気づいたって。そう、言っているじゃないですか。本当に、言われるまで気づかない鈍感な人間なんです。亀のように遅くて、大事なことにもさっきやっと確信するような人間なんです。……太刀川くん。私は他に、何におびやかされているんですか……?」


 顔が、強張る。



「貴方が恐れているのは、水島さまじゃありません。本当は、誰なんですか?」


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