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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode130-3 天蜻蛉④―諸刃―

 瞬間ピタリと止んだ声に自分という影響力に慄きながらも、穏やかに微笑んで予定通りに言う。


「皆さんもお聞きされていたかとは思いますが、どうも私、太刀川くんに嫌われていたようです。それに気がつかなかった私も悪いのです。人には誰でも好き嫌いがあります。皆さんにだって一緒にいて楽しい人や、苦手に思う人がいるでしょう? その苦手が太刀川くんにとっては私だったと言う訳です。むしろはっきり言ってもらって、私としても清々しい気持ちになりました。何も分からないままでしたら、ずっと付き纏ってしまっていましたから。クラスが離れていて幸いでした。皆さんもあと一年と半年ですが、ギスギスしてしまうのはお辛いでしょう? 今まで通り、太刀川くんと接して下さい。ただ私が、彼に嫌われているだけの話ですから」


 そこまで言って様子を窺うと、顔が戸惑いと困惑に彩られている生徒がほとんど。今の状態では()()()()()判らないので、やはり放課後まで待つ必要がありそうだ。

 あ、そうだ。最後にこれも言っておかないと。


「西川くん」

「は、はいっ」

「太刀川くんが戻ってきたら、お伝え願えますか? もう話し掛けたり近づいたりしませんので、ご安心下さいと」

「え。でも、百合宮さんはそれでいいんですか!?」


 目線を下げ、薄く笑う。


「仕方がありません。ああまで言われては、私ももう、頑張れません」


 力なく言ったそれに西川くんはクシャリと顔を歪めて、小さく頷いた。


「……分かりました。俺から太刀川に、ちゃんと言っておきます」

「よろしくお願いします。相田さんも、太刀川くんを責めてはダメですよ?」

「百合宮さんっ」

「教室に帰りましょう、拓也くん。……っ」


 視線を落としたままだったから、不意に視界に入った“それ”に動かそうとしていた足が止まる。

 息も呑んでしまったから気づかれたかと思ったが、皆それほど気持ちに余裕がないのか指摘されることなく、多くの視線を受けながらCクラスを後にする。


 扉を抜ける間にもCクラスに用事があったのか、訪れている他クラスの生徒達も何人かいて、教室の扉を開けたまま入ったので中のただならぬ様子に入れなかったようだ。青褪めた表情で固まっている彼等にも会釈をして通り抜け、たっくんと一緒に教室へと戻った後。


 席へと腰を降ろして落ち着いた瞬間、たっくんが振り向いた。


「花蓮ちゃん。わざと新くんに言わせたの?」


 不思議と何もそれまで言ってこなかった彼のその言葉に、苦笑を漏らしてしまう。


「どうしてですか?」

「大事になると思うって言っていたから。それにずっと、新くんに喋らそうとするような話し掛け方だったし。全部、考えた上でのことなんだよね? 最後に皆に言ったのも、新くんがああ言うって思ったから、新くんのフォローもちゃんと考えてたんでしょ」

「……ふふふ、さすがですね拓也くん。私のことを解ってくれる拓也くん、大好きです!」

「花蓮ちゃん! ……ふざけてる場合じゃないよ」


 うん、ちゃんと分かっているよ。ふざけてなんかいないよ。


「すみません、拓也くん。彼がどうして私をいない者扱いして無視するのかが、やっと分かりました」

「新くんの言ったこと、本気にしてる訳じゃないよね?」

「まさか」


 放課後に確証が取れるかと思ったが、思わぬ綻びを先に見つけてしまった。だから可能性が確定した。

 春日井と緋凰には、この件に関しては素直に感謝しなければならない。


「……ちょっと、お手洗いに行ってきますね」


 まだ何か言いたそうなたっくんではあるが、頷いて見送られて一人トイレへと向かう。

 どの個室にも誰も入っておらず、一番奥の個室へと入り壁に背を預けると、力が抜けてズルズルとしゃがみ込む羽目になった。



 ……あーあ、大嫌いって言われちゃった。それまで具体的に嫌いなところ言われなかったから、最後にアレ言われたの、嘘でもグサッときたなぁ。

 いない者扱いされて無視されても、本当に嫌われているなんて、思っていなかったから。


「ふふっ、ふふふっ。本当にアレで嫌われちゃったらどうしようかな。私がわざと言わせたって、たっくんみたいに気づいちゃったかな? ……自業自得だけど、だって、あれ以外やり方思いつかなかったんだもん」


 知らなくて傷ついた。でも傷つけられても、本当は傷つけ返したくなんてなかったのに。

 ごめんね。ごめんなさい。西川くんの伝言聞いたら、また傷つけてしまう。


「嘘でも直接なんて、言えないもん。話したいよ。頑張るからっ。絶対、絶対全部解決するから……っ!」


 泣かない。泣くな。

 辛くてどうしようもないのは、私だけじゃないんだから!


 制服のスカートを、皺になる程ギュウゥッと握り締める。

 早い段階でそうか、そうじゃないかが判って良かったじゃないか。放課後、“誰”がそうなのかさえ分かれば、後は私がどうにかする。上流階級が絡むのならば、上流階級のやり方で返す……っ!


 ……あの時、見つけたから。鞄の口が偶々開いていて、見つけてしまったから。


「徹底的にするのなら、持ってちゃダメじゃないですか……」


 大嫌いと言うくらい嫌いな人から貰ったものなんて、普通は使ったりしない。鞄の内ポケットから覗いていた――角の丸いひし形の、あの日贈ったキーケースを。



『大事にする。ありがとう』


『お前なんか――大嫌いだ』



 嘘つき。

 

 ちゃんと、大事にしてくれているじゃないですか。


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