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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode128-2 天蜻蛉②―疑惑―

 前髪をクシャリと軽くかき混ぜて払い、「仕方がない、」と話してくれる。


「これはとある人物の名誉にも関わることなので、他言無用で願いたい」

「分かりました」

「うん、ちゃんと守るよ」

「うむ。まだ、太刀川 新が百合宮嬢に会いに来ていた頃の話だ。時期で言うと、四月の半ば辺りか。その頃からどうもその人物の様子がおかしくてね。具体的に言うと、その場に偶然僕も居合わせて感じたことだが、どうも太刀川 新を見てソワソワしていて落ち着いていない。その人物のあまり見ない様子に声を掛けようかと思ったのだが、丁度女子から声を掛けられてしまってね。気がついた時にはもうそこにいなかったのさ」


 ここまで聞いただけでは、普通に裏エースくんのことが好きな女子っぽい人物だ。

 土門少年から見てあまり見ない様子、ということは彼にとって良く知る女子で、それも裏エースくんのことを好きになりそうにないという人物像が浮かぶ。話は続く。


「そこまではこの僕も、珍しいこともあるものだと思っただけだったのだがね。しかし、僕が見掛ける度にその人物は、日を増すごとに様子が変わっていた。あれは追い詰められている、そんな表情だった」

「追い詰められる?」


 難しげな顔で呟くたっくんに、彼が頷く。


「そう。さすがにおかしいと思い、イケてるメンズであるこの僕が偵察のような真似までしてしまったよ。そして突き止めたのだ。その人物がそんな表情をしているのは、決まって太刀川 新を見つめている時だと! 様子がおかしくなるのも、太刀川 新と同じ空間にいる時だとも! だからこそ、このままでは何かしら事を起こすのではないかと思い、あの日太刀川 新に訊ねたのさ。何か変わったことは起きていないか、と」


 壮大な語り口調で告げられた内容を、簡潔に纏めてみる。


 裏エースくんを視界に入れるどころか、同じ場所にいるだけで様子がおかしくなり、追い詰められた顔になる。それを心配したらしい土門少年が、その人物に何かされていないかと裏エースくんに聞いた。


 ふむ、簡潔に纏めてみてもただ単に裏エースくんへの気持ちが抑えられず、溢れまくっている女子の話だ。私の件とは違うかもしれない。


「どうして土門くんが太刀川くんにあんなことを訊ねたのか、理由は分かりました。というかあの、土門くんから見てそんな、暴走しそうな女子だったのですか? まさかウチのクラスの子ですか?」

「…………僕は愛に偏見があってはならないと思っている。男性は女性へ、女性は男性へと、それが一般的とされている。さすがのこの僕も、そうと思い至った瞬間に衝撃を受けたよ。まさか()が、あんなに追い詰められるほど、太刀川 新のことを想っていたことに……!!」

「「え」」


 待て。ちょっと待って。


「い、いま話していた人物って、男子なんですか!?」

「男性が男性を愛す。ただでさえ障害が多く前途多難な道だというのに、入り込む隙間も余地もない百合宮嬢とランデブーな、太刀川 新が相手とは! 思わず涙を忍んでしまったよ……!」

「男子をそこまで自分の魅力の虜にするとは、さすが太刀川くん……!」

「花蓮ちゃん納得しない。話聞いてびっくりしたけど、でも土門くんが最初に言っていた名誉って、そういうこと? 他にも何かあったりする?」

「……太刀川 新が百合宮嬢を避け始めた頃からか。またその人物にも変化が現れた。追い詰められた表情はしなくなったが、太刀川 新を見て苦しそうな顔をし始めた。恐らくだが、想いが叶わなかったのだろう」


 苦しそう、と言った辺りで悲しそうな顔をする土門少年に釣られ、私も再び気持ちが落ち込んできた。


「確かにそれは、とても悲しいことですね。大好きな気持ち、受け入れられなくて苦しいの、男女関係ありませんもの。私も今、とても辛いです……」

「百合宮嬢……」

「ありがとうございます、土門くん。土門くんだって、貴方がそこまで気にするほど、その男子のことを大切に思っているのでしょう? ちゃんと貴方とのお約束は守ります」


 微笑んで頷いてくれる彼に、私も微かに微笑み返す。

 土門少年が女子以外に目を向けることもあるのかと驚いたけれど、恐らくは私の知らない男子生徒なのだろう。そうなると彼と同じクラスだった、元Dクラスの生徒だと絞れるけど誰かまでは聞かない。


「私との件に関係があれば、と思っていましたが。見当違いだったようです。お時間を取らせてしまって、すみませんでした」

「本当にそれって、見当違いなのかな」


 ペコリと礼をしたところで、静かにたっくんが発した言葉に彼を見る。たっくんは土門少年の机を見つめて、考えを整理するような間を置いた後、それを口にした。


「普通に聞いていたら、その人が新くんのことを恋愛的な意味で好きで告白して、振られて後悔しているって受け取れるけど。でも、その人の態度の変わり様って、時期が新くんの態度の変化と重なっているんだ。何がどうなっているのかは話聞いただけじゃ僕も分からないけど、でも本当にその人の変化と、新くんの花蓮ちゃんへの変化って、関係ないのかな?」


 時期が重なった、二人の人間の態度の変化。


 一人の変化は推測で想像がつくけれど、でも、もう一人は? 男子に告白された裏エースくんが、私をいない者扱いして無視をすることへの繋がりは、あるのか?


 結局関係あるのかないのか、はっきりしないまま話は終わり、足取り重く下校した。





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





 真っ暗な空間の中、一人ポツンと佇む私は周囲を見回して気づく。あ、これ夢だな、と。

 自分の意識が自分を認識している時に見る夢って、碌でもないものでしかない。白鴎に断罪される場面とか、断罪前のやり取りとか。

 

 気が滅入り過ぎて、自分で呼び寄せてしまったのだろうか? 早く覚めないかな~と思っていると。



 ――ふふふ



 白鴎ではない、“私”の笑う声が聞こえてきた。

 そして私から少し離れたところに現れる、“彼女”。成長し、銀霜学院の制服を着た――“百合宮 花蓮”。



 ――どうして、そんなに悲しいのかしら?



「何が」



 ――微笑んで受け入れるだけ。お母様は、そう教えてくれたでしょう?



「そんなの、表面上だけでしょう? 好きな人に受け入れて貰えないのは、“貴女”だって辛くて悲しかったでしょう!? 私は“貴女”とは違う! ちゃんと言葉で、態度で伝える! 私はもう、人形なんかじゃないの!!」


 絶対にならない。自分の本当の感情を抑えて、ただそれを受け入れるだけの操り人形になんか。


 強く“彼女”を睨みつけると、しかし“彼女”は目を細めて、薄らと微笑んだ。



 ――言葉で。態度で伝えて、どうなるというのです? ()()()()()、私はあの人に



 “彼女”の口許が動くけれど、その後に続く言葉はなかった。目を大きく見開く。……“彼女”が、まなじりから涙を零した。



「……どうして? だって“私”は、何があっても泣かなかった」


 画面で見る彼女は、いつだって淑女の微笑みを崩さなかった。

 白鴎に冷めた視線を向けられても、空子を優しい眼差しで見つめて、彼が愛おしそうに触れた時にも。


 二度と目の前に現れるなと、断罪された時でさえも。


 白く滑らかな頬に流れるものを気にすることなく、再度“彼女”が口を開く。



 ――言葉で、態度で伝えると言ったくせに。()()に気づかない振りをするのは、どうしてですか?



「何を言っているの。気づかない振りって」



 ――本当は解っているのに。どうしてあの時、それを言葉で伝えなかったのですか?



 指摘されたことを撥ね退けることはできなかった。今言われたことは、私の鼓動を大きく跳ねさせるものだったから。……言葉が、出せなかった。



 ――言葉にしてしまったら、どうなるかが解っているから



「……めて」



 ――ちゃんと受け入れなければ、“アナタ”は“私”のまま



「……やめて……」



 ――間違えないで下さい。そうでなければ、



「やめて……!!」



 酷い焦燥感に悲鳴を上げる。聞きたくなくて両手で耳を塞ぐ。

 ブンブンと首を横に振っても、“彼女”は目の前から消えてくれない。


 微笑んだまま、私を真っ直ぐに見つめて。

 両手で耳を塞いでいるのに、聞こえてくる。




 ――そうでなければ、また―――――てしまう




 眦から涙が零れる。

 真っ暗な空間の中で、私と“彼女”。


 二人、見つめ合ったまま――……。


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