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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
278/641

Episode128-1 天蜻蛉②―疑惑―

 結論。


 百合宮 花蓮十一歳。

 現在、キノコ女化街道まっしぐらでございまする。



「……拓也くんごめんなさい」

「何で花蓮ちゃんが謝るの。僕は気にしてないから大丈夫だよ。悪いのは何も話してくれない新くんなんだから」


 あれから一週間。

 毎回お昼休憩にCクラスへと訪ねて行った私とたっくんだったが、当然のように私はいない者扱いされ、たっくんとしか会話してくれない日々が続いていた。


 最初は頑張って気合い入れて裏エースくんに臨んでいたのだが、二日目くらいにはもう心がバッキバキで、キノコを生やしてたっくんの袖口に捕まるくらいしかできなかった。

 しかもたっくんと会話する中でも、私の話題や名前を少しでも出そうものなら、本当に空気がピリッとする。本人を目の前にしてそんな空気出すの、どうかと思います。


 そんな彼の空気感や態度にはさすがのたっくんも圧されてしまって、未だにちゃんとした理由も分からないし、その場に居合わせたCクラスの人達の顔色もヤバかった。たっくんでさえそうなので、相田さんや西川くんも何も口を出せないでいるのだ。


「……私、もうあっち行かない方がいいでしょうか? 私が行くと、Cクラスの人達の髪の毛の寿命が縮む気がするんです……」

「ちょっと何言っているのか分からないけど、でも花蓮ちゃんが辛いんだったら、一旦時間置く? 暫く時間が経ったら、新くんの態度だって軟化するかもしれないし」

「そうでしょうか……。私、太刀川くんはこうと決めたら、やり遂げる人間だと思います……」

「うっ」


 伊達に一緒にいたわけではないので、たっくんだって裏エースくんのことは解っている。同意の呻きが全てである。


 たっくんの袖口に捕まりキノコを生やしながらも、私の目はジッと彼だけを見つめていた。無言の抵抗とも言う。表情の変化でも、何か読み取れないかと思っていたのだが、それさえも分からない。視線だってただの一度も合わなかったのだ。


 本当に私は、裏エースくんにとっていない者も同然の存在になっている。



「……こんな時、土門くんがいてくれたらなって、ちょっと思う」


 ふと零された内容に、机にめり込みそうになっていた顔を上げる。


「土門くん? ……そう言えば、最近ウザ絡みしてきてないです」

「ウザ絡みって」


 登校した時とか、お昼休憩とか、下校する時だって呼んでもないのにいつの間にか来て、必ず絡んできていた彼の存在を忘れていた。

 裏エースくんのことで心に余裕がなくて、そんなことにも今まで気づいていなかったのだ。


 と、土門少年の存在を思い出して、ついでに思い出したことも。



『最近、何か変わったことはあったかい?』



 いやに真面目な表情で、裏エースくんにそう聞いていたことを。

 裏エースくんはその時は特に心当たりがないような感じで首を振ってはいたけれど、もしかして何か関係はないだろうか?


「土門くん、今どこでしょうか?」

「今日も女子に呼び出されているからね!って、意気揚々とすぐに教室を出て行っていたから。もうすぐ授業も始まる時間だし、そろそろ戻ってくるとは思うけど」


 と言っていたら噂をすれば何とやら、本人が教室の扉を開けて入ってきた。


「土門くん!」

「おや、百合宮嬢! そんなにも熱烈に出迎えてくれるとは、嬉しい限りだね!」


 ガタッと席を立って近づけば嬉しそうに言ってくるそれに、はやる心を少し落ち着かせて土門少年に尋ねる。


「あの。今日の放課後、土門くんお時間ありますか?」

「えっ。そ、それはこの僕への呼び出しかい!? 困ったな、まさか百合宮嬢から呼び出される日が来ようとは……!」

「絶対土門くんが考えているような用件ではないので大丈夫です。お時間ありますかありませんか」

「フッ。もちろん、女子からの呼び出しともなれば行かない訳にはいくまい。それが百合宮嬢とあってはね……」

「ありますね分かりました。放課後に自分の席で待っていて下さい」

「公開呼び出しかい!?」

「すみませんお黙り下さい」


 いつも通りのそこはかとないウザさに通常通りの対応をしてしまった。

 うん、たっくんの言う通り、落ち込んだ気持ちもほんのちょびっと紛れた気がする。ちょびっとね。


 そうして予鈴のチャイムが鳴り、それぞれ席に着いて授業を受ける準備をして、その時を待った。





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





「おや、何だい柚子島くんも一緒かい? 二人揃ってこの僕に話とは……一体、何だろうね?」


 現在放課後。


 私とたっくんと土門少年が残る以外は下校するのを見届けて、彼の席へと二人で赴けば土門少年は頬杖をついた状態で、首を傾げて私達を見上げてきた。単純な台詞と薄く笑んでいる顔だけを見れば、彼は普通にイケメンの部類である。

 前と右斜め前の子の椅子を借りて、彼の目の前へと座る。


「お時間下さり、ありがとうございます。残ってもらったのは、土門くんにお聞きしたいことがあるからです。本題とは別にまずお聞きしたいことがありますが、よろしいでしょうか?」

「いいとも。話してくれたまえ」

「土門くんは最近の私と太刀川くんのこと、ご存知でしょうか?」


 Cクラス以外のクラスはどうか知らないが、Aクラスではやはり裏エースくんが来なくなったことを気にしているのが、ほぼ全員と言ってもいい。

 けれど恐らく結束力の強かった元Bクラスの生徒から話が伝搬していれば、他のクラスでも知れ渡っていると思われる。


 しかし土門少年に関してはウザ絡みしてきていないとは言え、知っていれば女子限定で優しい彼のこと。一言でも、何かしら私に慰めの言葉を掛けに来るのではないかと思ったのだ。だからまず、今現在の状況を知っているかどうかを確認したのだけども。


「それは太刀川 新が百合宮嬢に会いに来ていない、ということかな?」


 悩む素振りも見せず即答してきたことに、何故、という思いが沸く。


「ご存知、でしたか」

「春の妖精の如し百合宮嬢を暫く憂いさせている原因を、この僕が知らないとでも?」

「でもだったら土門くん。花蓮ちゃんに話し掛けなかったのはどうして? 挨拶した後も話とかせずに、すぐ行っちゃうよね?」


 たっくんも同じことが気になったようで聞くと、土門少年が緩く首を振って、ふぅと息を吐いた。


「いくらイケてるメンズであるこの僕であっても、百合宮嬢の憂いを晴らせはしない。百合宮嬢の曇りを取り払う太陽は、ただ一つだけだからね」

「土門くん」

「そんなに見つめないでくれたまえ! やれやれ、惚れ直したのかい?」

「最初から惚れてません。変な言い掛かりはやめて下さい」


 すごく的を射た発言に驚いていたらコレだよ。

 たっくんも遠い目をしているよ。


 と、気を取り直して。


「では、それを踏まえた上で本題をお聞きします。前に土門くん、太刀川くんに最近何か変わったことはあったかとお聞きしていましたよね? あれは一体、何の確認だったんですか?」


 ピクリと、土門少年の片眉が微かに動いた。

 先程とは打って変わって静まり返り、トン、トン、と彼が人差し指で机を叩く音だけが聞こえる。視線は合わず、私とたっくんの間を抜けてその後方を見ているようだった。


「……それは、僕の口から言っていいものかどうなのか」


 ポツリと落とされたそれに、反応したのはたっくんで。


「何か知っているのなら教えて欲しいんだ。このまま変な感じになるのは、誰に取っても良くないと思うから」

「お願いします、土門くん」


 頭を下げて頼めば、「やめてくれたまえ百合宮嬢! 僕は女子にそんなことをさせたくはないのだよ!」と慌てて言ってきて、そろりと元の位置に頭を戻した。


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