Episode126-1 藍園シーパークへ行く
白イルカのショーはイルカが大変可愛くて賢くて、とても盛況だった。
やっぱり皆笑顔になっていたし、前に座って観ていた私達と同じ年頃の子達は、イルカから水を掛けられて楽しそうな歓声を上げていた。ショーを観ている間は私も白イルカと飼育員さんの芸に夢中になってしまったし、やはり会場の雰囲気というものは伝染するのだと思った。
「色々あるけど、大きなぬいぐるみとかは買うなよ。車で来てる訳じゃないからな」
「引率の先生ですか。分かってますよ」
イルカショーを観終わって、現在お土産コーナー。
見て回る前にそんな注意を受けた私は、プクっと頬を小さく膨らませて一人、何を買おうかなと物色中。さすがにお土産だし、それぞれで見た方が効率的なので別れている。
う~ん。ハンカチとお財布くらいしか入らないようなミニバッグだし、家族に買ってもキーホルダーくらいかなぁ? お菓子だと潰れちゃいそうだし。
そう思ってキーホルダーを見ていると、パチッとその子と目が合った。なだらかなフォルムに、タコのような複数の足が生え、頭には角が二本。
まん丸お目めが二つ付いた、可愛らしいメンダコのミニぬいぐるみキーホルダーだった。
えっ、この子可愛すぎない? こんな可愛いの見たことな……いや、鈴ちゃんとか蒼ちゃんとか麗花や瑠璃ちゃん、たっくん相田さん木下さん光子ちゃん姫川少女……いっぱい可愛いの見たことあったわ。
目の合ったその子を取って、マジマジと見つめる。
タコの仲間であるメンダコだけれど、二本の角が生えている姿は何だか宇宙人っぽい。いや人ではないから宇宙ダコか。とある一部の人間から宇宙人と言われているため、妙に親近感を感じる。だが私は宇宙人ではない。
どうしようかと悩むものの、もうこの子から目が離せなくなっている。
「これは運命かもしれない」
「なに買うか決まったか?」
「ぎゃわっ!」
すぐ後ろから声を掛けられたものだから、思わずビクッとしてしまった。変な声を上げて振り向くと当たり前だが裏エースくんがいて、彼もちょっと驚いていた。
「う、うううう後ろから急に声を掛けないで下さい! 心臓止まるかと思いました!」
「え、大げさ。あ、いや悪い。そんな驚くと思わなかった」
「もう!」
というか本当に今日距離が近い! 一体どうしたの!? たっくんいないせいでうさぎさんなの!?
「それ買うのか?」
彼の視線は私が手に持つ、メンダコキーホルダーに向いている。
「ちょっと悩んでいました。可愛くて小さいですし、これなら家族にもお土産で買えるかなって。……うん、決めました。お買い上げです!」
「ふぅん」
「太刀川くんは? もう買ったんですか?」
「おう。じゃあ花蓮が会計している間、俺はあそこのベンチで待ってるから」
「分かりました」
そう言って、売店から見える位置にあるベンチへと向かっていく裏エースくんに、私も家族と坂巻さんと住み込みお手伝いさんたち分を手で持てきれなかったので、カゴに入れて会計カウンターへ向かうも――その途中。
ふと目についた、それ。そっと視線を向ければ、ベンチに座った彼は買ったものを見ているらしく、袋の中を覗き込んでいる。
逡巡したのも一瞬。それも一つカゴに入れて、お会計をしに行った。
◇+◇+◇+◇+◇+◇+
帰りの電車に揺られて、ガタンゴトン。
十四時台という微妙な時間帯のためか行きと同様、帰りの車内も人はまばらで隣り合ってシートに座れている。歩き回ってやはり疲労が蓄積されているのか、心地良い揺れについウトウトとしてしまう。
「寝てていいぞ。着いたら起こしてやるから」
「ん~、ヤです……。寝たらたひかわくん一人……」
「誰がたひかわくんだ。ほら、ん」
軽く頭を引き寄せられて、肩に乗せられたような。
揺られて触れる体温が心地よくて、思わずふにゃっと笑う。
「ふふふ~……」
「……」
夢と現実の狭間、うたた寝程度で完全に意識は落ちていない。
「……ごめんな」
なにが?
問い返したかったけれど夢への比率が大きくて、ムニャムニャと口許が微かに動くだけ。どこか悲しげに呟かれたそれに、何のことか分からなかったけれど。
――いいよ、許してあげる
と、そう心で返したことは確かだった。
◇+◇+◇+◇+◇+◇+
待ち合わせ場所のペリカン彫像の前まで帰ってきた私達は、そこでお別れする予定ではあったのだが「近くの公園に寄らないか」という裏エースくんのお誘いに、まだお迎えの時間もあったので行くことに。
公園はそう広くはないけれど、でもピンクや黄色、水色の小花が整えられてあって美しいと感じた。
ベンチに並んで座る。私達の他にも、犬を散歩している人や子連れの家族、砂場で幼児が遊んでいる。
「今日、行って良かっただろ」
「はい。とっても楽しかったです! サンゴ礁も熱帯魚も綺麗でしたし、マンタやサメも大きくてすごかったです。次は皆で行きたいですね!」
「そうだな」
ポカポカ暖かな陽気だけれど、電車でウトウトしたためか目はぱっちりと冴えている。そよ風が吹いて小花を揺らす。
「ねぇ。太刀川くんは楽しかったですか?」
「おう。楽しかった。やっぱ楽しいと時間ってあっという間だなー」
「あ、それ私も思ってました。本当に気が合いますね、私達。拓也くんのことも大好きですし、あと私もエビ好きです。あとは、あとは」
「あとは?」
「あと……」
顔を上げて言い募ろうとした。
顔を見て、口を閉じる羽目になった。
「……あの。どうしてですか?」
「何が?」
「ずっとお手て繋いでいます。もう、迷子にはなりませんよ?」
「うん」
……いや、うんじゃなくて。




