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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode125-0 藍園シーパークへ行く

 そうして揺れに揺られて、隣の隣町の駅で降車する。目的地は駅からそう離れておらず、徒歩十分で行ける距離なので、隣に並んで歩いて行く。

 その間に勉強のことや体育のこととかを話していたら、あっという間に辿り着いてしまった。


「わ、意外に人がいますね」

「地元の人とかは来るんじゃないか? あと俺らみたいに、ちょっと近場のヤツとか。先に中入って案内板見ようぜ」

「はい。……!」


 スッと、何も言われずに手を繋がれる。息を吸うような感じで自然にそうされて、ちょっとドギマギしてしまう。

 こ、高位家格の令嬢とはいえ、催会に出られなくてエスコート慣れしてないから、プライベートでこうされるとびっくりしちゃうな。


 受付へと入場料を支払って案内板へ向かおうとしたのだが、家族連れのグループが複数いてちょっと近づけない。


「んー、お。マップがあるな。ここで待ってろ」


 その場に私を置いて園内マップを取りに行った彼は、一枚だけ持って戻ってきた。


「どうして一枚だけなんですか?」

「一枚で充分だろ。ほら」


 腕を引かれて、近い距離で広げたマップを見せてくれる。腕同士がピタリとくっつき、心なしか顔も近いような……。


「どこから見て回る?」

「えっ!? あ、そうですね。サンゴ礁のコーナーから見て回りたいです」

「じゃあ、そこから時計回りに見るか」


 マップをバッグに仕舞い、ここでも手を繋がれた。ど、どうせ裏エースくんのことだから、迷子防止とか考えてるんだろうな。……私は方向音痴じゃないぞ!


 意外に人がいるからか、ゆっくりとした足取りで向かう。サンゴ礁コーナーに行く途中の通路が水槽トンネルになっているので、頭上をマンタが通ると思わず足を止めて目で追いかけてしまった。


「今の見ました!? すごく大きかったです!」

「一瞬で影になったよな! 結構泳ぐの速いんだな、マンタって」

「ふふふ。あ、そうです。他のお魚さんとサメって、一緒にして大丈夫なんですかね? ずっと気になってたんですけど」

「あー、だよな。何か水族館のサメって、飼育員さんがエサを別にあげててそれを食べるから、俺らが見てる魚は食べないんだって」

「へぇー、そうだったんですか。太刀川くんって意外に物知りですよね」


 歩みを再開させて会話を続けると、「あぁ」と言って、少し視線を落とした。


「同じこと、俺も気になってさ。教えてもらったんだよ」

「お父様ですか? それともお母様ですか?」

「……違うヤツ」


 ギュッと、強く握られる。

 痛くはないけれど、どうしたのかと顔を覗こうとしたらパッと前を向き、私を見たと思ったらニカッと笑顔を見せてきて。


「早く行こうぜ! サンゴ礁、あと少しだし」

「あ、は、はい」


 ゆっくりだった足が少しだけ早まり、そんな少しの変化でも戸惑って、並んで歩くのに精一杯になる。そうして辿り着いたサンゴ礁コーナーはとても色鮮やかなサンゴで溢れており、小さい熱帯魚もチヨチヨと泳いでいて、そんな相様を見て心が癒された。


「あ! 見て下さい太刀川くん! 貴方の大好きなエビですよ!」

「本当だ。……待て。どうして俺がエビ好きなの知ってんだ」

「三年間同じクラスだったんですよ? 給食で観察してたら、普通に知っちゃいますよ」

「なに観察してんだ。普通に黙って給食食べてろ」


 えー? そんなのつまんなくない?


「エビ食べてる時の太刀川くんはご機嫌でした。エビ食べた後の太刀川くんのスパルタ特訓のスパルタ度は下がってました。エビ効果絶大だなって思いました」

「花蓮がエビエビ言うから、エビ逃げてったぞ。どうすんだ」

「私のせいですか!? 食べてるのは太刀川くんなのに!?」

「給食だからお前も食ってるだろうが! なに俺だけしか食べてないみたいに言ってんだ!」


 そこまで言い合ったところで、「あそこの小さいカップル、すごく仲良しだねー」という声が耳に届く。視線だけで探すと、高校生らしきカップルが私達を見て微笑ましそうに笑っていた。

 何てことだ。見知らぬカップルにまで、カップル認定されてしまっただと……!?


「太刀川くんどうしましょう! カップ……カップ……!!」

「カップ? 見るだけでエビは持って帰れないぞ」


 誰がエビを持って帰りたいと言ったか!

 出来過ぎ大魔王なんだから察知しろ!


「次! 次行きましょう! もうこんなエビしかいない場所にはいられません!!」

「いやエビってあの一尾しか見てないし、ここサンゴ礁のコーナー。花蓮。花蓮?」


 プリプリしながら手を引いてサンゴ礁コーナーを抜けた私達は、クラゲだけにスポットを当てたコーナーや、グルグルと泳ぎ続けている回遊魚のコーナー、よちよち歩きのペンギンやチンアナゴが穴からニュッと顔を出しているのなどを、色々たくさん見て回った。


 その度にあれはどうだの、これはそうだのと話をしてずっと二人で笑っていた。楽しい時間なんて、本当にあっという間で。


 お昼も園内に併設されているファミリーレストランで食事をし、午後一番の白イルカのショーを見るために階段を上って、天井一面の天窓から覗く快晴を目の当たりにする。席は後方の上段に座って、ショーが開演するのを待つことに。


「席、前の方じゃなくて良かったのか?」


 首を傾げて聞かれて、ニコリと笑う。


「はい。前の方だと水が掛かってしまうかもしれませんし。濡れて風邪を引いたらいけませんから。それにイルカだけじゃなくて、皆の様子も見られます。楽しいのって、多分伝染するんですよ。だからここで皆さんの様子と併せて、楽しい気持ちを共有したいです」

「ふぅん。そっか」


 優しく細められる目と穏やかに上がる口角を見て、何だか居たたまれない気分になり、不自然にならない程度で前を向く。


 やっぱり何かちょっと、いつもの裏エースくんじゃないような……?


 我慢できずに私を引っ張っていくほど楽しみにしていた筈なのに、振り返ってみれば私だけしかはしゃいでいなかったような。……あっ、私がはしゃぎすぎて逆に冷静になったヤツだ! おい私何やってんだ!


「い、イルカショーでは太刀川くんもはしゃいで下さいね!」

「断るわ」

「何故に!?」


 ショックを受けて隣を振り向く瞬間、ポンと頭に手を乗せられる。

 そのまま緩々と撫でられて、いつもだったら目を細めて受け入れていただろうけど、体が硬直した。硬直して、けれど顔は既に彼へと向いてしまっていたから、その表情が視界に入ってくる。


「俺も、花蓮が楽しそうなの見てたら楽しいから。はしゃぐのはお前だけでいい」


 ……何でそんな顔するの? 優しくて柔らかくて、そんな。



 ――――すごく、すごく私のことが大好きだっていうような、顔



<はーい! 皆さんもうすぐ白イルカショーが始まりますよー! 椅子に座って見てねー!>



 飼育員のお姉さんの元気いっぱいな声が、マイクを通して会場内に響く。

 手は暫く私の頭を撫でていたが、そのまま下りてきて手に触れる。当たり前のように、繋がれる。


「もうすぐ始まるな」

「はい」


 声はどちらも小さくて。


 ショーが始まるから前を向く。

 私も、裏エースくんも。


 断られたけどイルカショーを見て、はしゃいでほしい。皆の楽しさが伝染して、笑顔になっていればいい。……けれど。



 忙しなく騒ぐこの心臓の音だけは。


 繋いだ手から伝染しないでほしいと、願った。


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