Episode121-1 鈴ちゃん蒼ちゃんお友達大作戦
私は思った。
そういえば鈴ちゃん、当時の私と同じじゃね?と。
百合宮家が次女、百合宮 歌鈴。
彼女は先日誕生日を迎えて六歳になった。
百合宮の自宅で開かれた、家族とお手伝いさんと私の親友二人しか呼ばない内輪のみのパーティ。瑠璃ちゃん監修のブルーベリーレアチーズケーキは、それはもう鈴ちゃんだけでなく関係者総出で大好評。
麗花からの誕生日プレゼントは赤・白・青のレースのリボンで、見た瞬間サインポールかと脳内突っ込みしたものの、
「お姉さまたちのおいろです! すごくうれしいです!」
という鈴ちゃんからの真実に、即麗花へと土下座をした記憶も新しい。
さて。ここで思い出して頂きたいのだが、私が自ら催会に出席したいと言い出して、結果どうなったのかを。
ケース①:有栖川少女の生誕パーティ→スカートに紅茶ぶっかけられて翌日に熱を出す。
ケース②:水島家の二十五周年パーティ→とんだ変態に襲われてトラウマを負う。
さて、外伝として不可抗力で出席したものも一応。
ケース③:春日井家のお茶会→麗花と他の子達との揉め事に巻き込まれる。
ケース④:ハロウィンパーティ→瑠璃ちゃんを守ろうとして突き飛ばされた挙句小突かれる。
地獄かよ。今まで出席した催会全部にアクシデント起こってるじゃん。何なの一体。
ということで何故か被害甚大な……いや外伝の方は結果的に良かったけども、前者の方は正に被害者である私。
行きたくないヤダ無理でござるとお断りしていた催会も、ケース②のせいで無期限催会出席禁止令が発令されて、行きたくても許されないという状況は五年生になってもなお継続中。
長女がこんなことになっているのに、果たして次女は気軽に催会に出席できるのか。否である。
鈴ちゃん、生まれてこの方催会に参加したことなど、一度たりともありません。お外に出るのも、お母様と一緒にお買い物へたまに連れて行かれる時だけ。正真正銘の深窓のご令嬢となっている。
これがどういうことか。当時の私と一体何が同じなのか。
――お友達がいない! ということである。
◇+◇+◇+◇+◇+◇+
そんな訳で学院に入学するまでに現在お友達ゼロ人で、私のせいで当時の私よりも出会いのない鈴ちゃんのお友達事情を憂いた私は一念発起し、何とかそれにこぎつけることに成功した。それが!
「『鈴ちゃん蒼ちゃんお友達大作戦』なのである!!」
「相変わらずの安直なネーミングセンスですわね。というか、その作戦の重要人物である歌鈴は? 一緒に来ておりませんの?」
「うん。お母様に蒼ちゃんと会わせるってお話したら、何か妙に張り切っちゃって。私だけ先に出てきたの。ま、真打は最後に登場ってね」
今頃鈴ちゃんは着せ替え人形化中です。
用意が整ったら我が家に帰宅途中の坂巻さんが、また送ってくれる手筈となっている。先に薔之院家に到着した私がそう麗花と話していると西松さんがお茶を運んできてくれたので、お礼を言ってありがたく頂戴する。
「んーっ。麗花の家のお紅茶もまた美味」
「ありがとうございますわ。昨日急に遊びに行ってもいいかと聞かれて頷きましたけど、そういうことなら、その時もっとしっかり話して下さればよろしかったのに。出会いの場が私の家のベランダガゼボでよろしかったですの? お庭でしたら、貴女のお家が一番だと思いますけれど」
「あぁうん考えたんだけど、どっちかの住んでる家ってフェアじゃないじゃん? 催会じゃないけど、一度も行ったことのない場所での出会いって、緊張感があってよりドキドキワクワクしない?」
ニコニコしながら言うと、少し逡巡して麗花も頷く。
「……そうですわね。まだお互いそういう場には未参加ということですし。多少なりとも練習にはなるかしら?」
「大丈夫だよー。私達の家以上に行くのに緊張する家って、早々ないよー」
「知らない子に会うのには緊張するかもしれませんけど、知らない場所でも知ってる人間に会ったら、緊張なんてなくなりますでしょう」
フッフッフ。
私もそこんとこは、ちゃんと考えている。
「サプラーイズ。私は鈴ちゃんに、麗花の家に遊びに行こうねとしか言ってません。瑠璃ちゃんにも、蒼ちゃんと一緒に麗花の家に遊びに行こうとしか言ってません!」
「場所を提供する私でさえこうして会って初めて知りましたのに、瑠璃子にまで言ってないってどういうことですの!? 瑠璃子には事前に話しておくべきだったでしょう!?」
「お互いの記憶に残る、思い出の出会いにしたくて」
「あああこの子の悪い癖が出ましたわ! これが拓也でしたら確実に怒られる案件でしてよ!」
えっ、そんなに!?
ちょびっとだけオロっとする私に、ビシィッと麗花が指を突きつけてくる!
「私と貴女の出会いを思い出しなさいませ! 春日井夫人に謝罪をするのに、心の準備もなくいきなり扉を開けられてしまって、頭真っ白になった私の二の舞になりましてよ!」
「うわああ麗花でさえそうだったもんね! 鬼の所業しちゃってたね私! でも今でも覚えてるって、記憶に残る良い思い出だね!」
「どの口が言いやがりますの! 余計なことを言いまくるこのお口ですの!?」
「へーはほめふっへ」
両頬をみょーんと引っ張られる。
痛い。痛いです。
二人だけでギャイギャイ騒いでいると、視界にベランダと室内に通じる扉が開かれる動きが入ってくる。西松さんに案内されてやって来たのは、米河原家の姉弟だった。
「あ、ふひひゃふほほーひゃふ」
「あら」
二人を発見した途端にパッと離されはしたが、ほっぺジンジンして痛いです。
瑠璃ちゃんは苦笑し、蒼ちゃんはやはり初めて訪ねるお宅だからか、緊張の面持ちでやって来た。
「今日は蒼くんも一緒にお招き頂きまして、ありがとうございます」
「あっ、ありがとうざいます!」
親しき仲にも礼儀あり。瑠璃ちゃんはどこぞの畜生と違い、そこらへんはちゃんと重んじている。私と麗花はお互いの仲だし別にいいのにって、言ってはいるけど。
そして姉から言われていたのか、蒼ちゃんもしっかりと挨拶をしてくれた。
「よく来て下さりましたわ。蒼佑も、ご丁寧にありがとうございますわ」
「こんにちは、瑠璃ちゃん。蒼ちゃん」
「どうぞお掛けになって……と言う前に、瑠璃子には花蓮からお話がありますわ。蒼佑はその間私とお話していましょう?」
「はいっ」
私達も二人に向けて挨拶を返した後、本日の主旨をちゃんと説明しとけと言外に言われた私は、「お話?」と首を傾げる瑠璃ちゃんをベランダの隅へと連れてきた。
「もしかして、さっき麗花ちゃんに頬を引っ張られてたのと、関係あるの?」
「さすが瑠璃ちゃん。だてに私達と六年も一緒にいないね! ……実は今日ね、」
カクカクシカジカと説明申し上げましたところ、麗花のように怒られはしなかったが、溜息を吐かれてしまった。
「そういうの、事前に説明しておいてほしかったわ」
「ごめんなさい」
「ううん。私も入学する前に、お友達いないのどうなのかなって思っていたから、それは良いのだけど。蒼くん、私みたいに嫌な思いしてしまったらって、両親が過保護になっちゃったから」
麗花と楽しそうに話す蒼ちゃんの方を見て、瑠璃ちゃんも憂いの表情でそう口にした。
そっか。瑠璃ちゃんも蒼ちゃんのお友達事情、心配してたんだね……。




