Episode120-2 リーフの相談事③
ギューッて抱きしめられ抱きしめ返していたら、お部屋の扉からコンコンと音が。
「花蓮いる?」
「あっお兄様。どうぞー」
「歌鈴いる……何してるの二人で」
顔を出して私達を発見したお兄様は、またかみたいな顔をしてそう聞いてきた。
「鈴ちゃんに元気貰ってました」
「お姉さまをげんきにしてました!」
「あっそう。歌鈴、お勉強の時間だよ」
「!」
勉強と聞いて、鈴ちゃんの口がへの字になった。
あれれ? お母様の淑女教育の時は素直に聞いているのに。
「おべんきょう……。鈴、お姉さまとおえかきしていたいです……」
「本当母さんの時とはえらい違いだね。学院に入学する前に、ちゃんと予習しとかないとダメだよ」
「鈴ちゃんのそういうお勉強、お兄様が教えるんですか? お忙しいのに」
「学院でどこまでの範囲を習うかは僕で受けて知っているからね。未知の家庭教師よりも、僕から教える方が確実に理解できるだろう」
おおう、さすが百合宮家の頼れる長男。本当に何でもデキる男です。
それでもギュウウと私から離れない鈴ちゃんに、頭を撫でて顔を覗き込む。
「鈴ちゃん。お姉様も鈴ちゃんと同じくらいの頃、ちゃんとお勉強したよ?」
「お姉さまも?」
「うん。お兄様じゃない別の人からだけどね。だからいいなぁ。鈴ちゃん、お兄様から教えて貰えるんでしょ? お姉様もお兄様からが良かったなぁ。鈴ちゃん羨ましいなぁ」
羨ましいなぁとか言うけど、現在も優等生で前世の記憶のある私には、未就学児で習うお勉強など赤子の手をひねるも同然。お兄様はさすが神童と褒められるのに、私の場合はさすが奏多坊ちゃんの妹君!という褒め方だった。
私の力じゃなくてお兄様の妹だからできて当然って感じの、あの褒め方は嫌だったなぁ。うんまぁ前世というフライングがあるから、そこのところあんまり言えないけども。
そして羨ましい発言を聞いた鈴ちゃんなのだけども、何故か口はへの字のまま眉をキュウウと下げられた。えっ、何で!?
「鈴、おべんきょうはいやじゃないです。おべんきょうのおじかんは、お姉さまといっしょにいられません……」
鈴ちゃん、君って子は……!!
「花蓮、姉なんだから妹に負けないように。歌鈴。花蓮のようなお姉さんになりたいんだろう? 花蓮と一緒じゃ花蓮の方ばっかり見て、集中しないのなんて目に見えてるからね。我慢しなさい」
「お兄さま、鈴にいじわるです! お姉さまにはおやさしいのに! 鈴しってます!! お兄さまだって鈴がいないとき、おへやでねてるお姉さまのあたまナデナデしてわらってました!!」
えっ、そうなの? 全然知らなかった。
お兄様を見ると、若干目を細めて鈴ちゃんを見ている。
「大まかな性格は共通で似ているけど、どっちかと言うとこれは僕に似たな」
ボソッと呟いたかと思ったら、ひっつき虫鈴ちゃんのお腹に腕を回して抱き上げ、私から引き剥がした。突然引き剥がされた鈴ちゃんはびっくりした顔をしていたが、何が起こったのか理解した瞬間に、私の方へと手を伸ばしてくる。
「お姉さまあぁぁ~~っ!」
「花蓮」
「うぅっ」
言外に甘やかすなと言われて、伸ばしそうだった手をグッと握って我慢する。
そのまま抱っこされた鈴ちゃんとお兄様は部屋から出て行き、遠くから聞こえる私を呼ぶ鈴ちゃんの声を聞きながら、最早日課となっている妹の可愛さに悶えるのであった。
◇+◇+◇+◇+◇+◇+
お絵描き道具を片づけた後、私は途中になってしまっていたリーフさんへの返信のため、再びデスクに着いて彼への文をしたため始めた。
今回使用するのはテンテテンテーン! この季節にピッタリ! 対の角に桜のエンボス加工が美しくも目を楽しませてくれる、オシャレ便箋~♪
「ふっふっふ、女子慣れを目指すリーフさん対策! 非モテの私でも所持する物は絶対的女子! 貴方の文通相手は、こんなに可愛らしくもオシャレなものを使っているという、オシャレ女子なのです!! これぞ女子力!!」
そうしてテンションを高めて、早速ペンを走らせる。
最近あったこと。特にゴールデンウィークに皆で遊びに行く約束をしていて楽しみなことを書き連ね、最後の最後で相談事への返答を。
結局はリーフさんが自分で決めるしかないのだけど、始まりが特に悪くない子となら、私のようにその子とも仲良くなれるのではないだろうか。
どんな話をするんだろう? どんな声なんだろう? どんな顔をしていて、どんな表情で笑うのだろう?
知れば知るほど、どんな姿をしているのか知りたいと思うようになっている。手紙で話しているけれど、実際に会って話してみたいと。
「……違う人だよ。きっとそう。リーフさんは、彼じゃない」
暗示のように自分に言い聞かせる。
違う。違うよ。だから、大丈夫。
私は私の書きたいことを書けばいい。
大切な、私の友人へ――……。




