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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode118-0 スイミングスクールの現在

 水泳では土門少年の手助けなく、悠々と過ごしていたことは前に触れたと思う。ビート板にさえ頼らなければ、私は自分の力で二十五メートルも最後まで泳ぎきることができるようになったのだ!

 ゆえに春日井スイミングスクール。これは私が泳げるようになるまでという話だったので、唯一の習い事はこれにて終了している。


 ……と、そんな風に思われていたのでしょうか?

 アッハッハー違うんだなぁそれが。




「……ぷはっ。ど、どうです! これで今度こそクロール卒業!」

「二十五メートルで三分三十二秒。せめて一分きれやクソ宇宙人が」

「何でですか! 最後まで泳ぎきることが最終目標だった筈なのにクソ鬼が!!」

「陽翔も猫宮さんも御曹司とご令嬢なんだから、クソ言わない」

「「けど春日井さま!/けど夕紀!」」

「けどもクソもないよ」


 言ってるじゃん! 自分だってクソ言ってるじゃん!

 ムッキィーと地団太踏んだところで、水中なので水面が揺れるだけ。なんてヤツらだ!


 一週間に三日というスケジュールで習いに来ていたものの、今では二週間に一日程度となっている。そしてその一日。曜日としては土曜日に固定されているので、午後に集中しておこなっているのだ。

 二年生の丁度夏頃には二十五メートルを泳げるようになってはいたが、最初に泳ぎきれた時に歓喜したその喜びも束の間、なんと鬼は。



『タイムが全っ然なってねぇ。ンなの泳げた内に入るか』



 などと言って、強制継続を強要するという地獄に私を陥れた。まさに強引俺様属性と言わざるを得ない所業である。

 ちなみに白馬の王子様属性の筈の春日井は私を庇うということをせず、『クロールだけじゃなくて、他の泳ぎも覚えたらいいと思うよ』などと言って、スクールの卒業イベントを妨害した。いや、まぁ言われて平泳ぎくらいは覚えようかな、と思った私もアレだけども。


 そんな訳で今もまだ、私は春日井スイミングスクールの生徒。緋凰は先生で、春日井は先輩のままである。夫人は夫人で、『花蓮ちゃん、頑張りましょう!』と言って手を取って応援してくれるし。夫人の応援には応えなければなるまい。


「もう! 絶対途中で腕の動きが混乱するんです! どうしてですか!?」

「回転させるだけの単純な動きだろうが! なに言ってんだお前は」

「腕の動きだけが原因じゃないと思うけど。足で蹴る動きの幅が大雑把なんだよ。だからスピードが出ないんじゃないかな」


 落ち着いた春日井の考察にハッとする。


「足で蹴る動き……?」

「なに初めて聞いたみたいな反応してる。鳥頭過ぎて、一つのことだけしか覚えられないのか」

「長く続けてきたフォーム練習も、腕と呼吸する時の動きだけだったから。ほら、ビート板で練習できないから、足だけはどうしてもね」

「チッ。何もないと泳げてビート板持たせたら沈没するとか、宇宙人らしくてもう驚きもしないぜ」


 緋凰の極悪な口も畜生な口へと成長を遂げた。普通改善するだろう、なに改悪してるんだ。

 春日井は春日井で、口を開けばいがみ合う私達の仲裁をしてくれている。そのせいか彼のスルースキルはメキメキと成長し、細かいことはスルーするようになった。おい白馬の王子様。


「バタバタさせるだけじゃダメなんですか?」

「うん。スピードを上げるためには、腕と足の動きも合わせないと」

「腕だけでも混乱するのに、足も!?」

「あー、クロールだけでも完璧になるのに何年掛かんだろうなぁ。もう五年も経つのになぁー?」


 うるさいやい! 本当だったら二年生の夏頃に終わっていたんだ! 平泳ぎだって、平泳ぎだって……くっ!!


「一番。一番泳げるのがクロールなのにっ。平泳ぎだって、足の動きでつまづいているのにっ」

「うーん、アレはねぇ」

「衝撃映像だったよな。まるで熱湯の中に放り込まれた蜘蛛の断末魔のような感じだったぜ」

「表現力まで畜生!」


 速く走ることはできる私の足よ! 何故水泳ではその真価を発揮しないのか!?


 そしていまだ、男子二人の声しか聞こえない。私は春日井をキッとゴーグル越しに睨みつけた。


「春日井さま! 夫人は!? どうして今日は私達だけしかいないんですか!?」

「あれ? 聞いてない? そっちの夫人と一緒に、猫宮さんの妹さんの服を見に行くって言ってたんだけど。まぁ指導はお母さんいなくても僕と陽翔もいるし、越長こしながさんも見てくれているから」

「えええ聞いてないです!」


 ショッピングに出掛けるとは聞いていたけど、そこに春日井夫人も一緒とか聞いてないよ!? 普通に今日も水泳教えてくれると思ってたよ!?


 ちなみに越長さんとは、夫人不在時の見守りお手伝いさん(例の恰幅の良いおばちゃん)のこと。


「…………」

「ん? 何ですか緋凰さま。そんなコンペイトウが思ったよりも甘かったような顔して」

「どんな例えだ。……鳥頭の亀子じゃ万に一つも考えつかねぇだろうが、お前は分かってんだろ。どうする気だ」

「僕は別にどうする気もないよ。彼女のこと、そういう風に見てないし。彼女だって気づいたとしてもそうだと思う」

「まぁ亀子の運動能力は信用できねぇが、そこは確かにな。コイツもちったぁ令嬢らしかったらなぁ」

「なに二人でコソコソ話しているんですか。悪口ですか? 天誅した方がいいですか?」


 胡乱気な目で見てきたかと思ったら、春日井に顔を寄せてコソコソ話し出す。

 私に聞かせられないような話、イコール私への悪口。今回の天誅はやはりこんなこともあろうかと、密かに水泳キャップの中に忍ばせている水鉄砲による、脳天喰らわせ刑でいいだろう。


「そう言えばずっと気になってたんだけど、猫宮さん。頭の中に何入れてるの?」

「えっ。何のことですか?」

「うん黙ってようかと思ってたんだけど、天誅とか聞こえたから。それにさっきの記録の原因の内に、それの水の抵抗があったせいもあるし」

「何ですって!?」

「何ですってじゃねぇよ。もうその一言で自供したも同然だからな。で、何入れてんだ。出せ」

「ぐうぅっ」


 天誅と言葉にしなければ良かったと思いながら渋々取り出してそれを見せれば、二人から裏エースくんのような半眼で見られた。


「どうしてバレたんですか……」

「いや、頭の後ろボコッてなってたら嫌でも気づくけど。どうする気だったのそれ」

「緋凰さまがあまりにも私にひどいことを言うようなら、これで脳天にピューってして退治してやろうかと」

「……極たまに見せる令嬢っぽさがなかったら、誰もコレが令嬢だとは信じねぇだろうな」


 私が令嬢らしく在れないのは、貴様が私に対して極悪で畜生だからである!

 目には目を、歯には歯を、畜生には畜生で返すのが人としての道理だ。(※花蓮の自論です)


 そして大事な水鉄砲は当然のように春日井に没収され、越長さんの管理下に渡ってしまった。

 あーヤダな。これ夫人に報告行って、お母様に報告行くパターンじゃん。私怒られるやつ。


「次こそは対策を練ってバレないようにしないと」

「バレるバレないの問題じゃねぇんだけど。変なことに頭使わず、どうやって足の動きを改善するかに頭使えやお前」

「家で夫人にも注意されてるよね? 何でりないんだろ」


 緋凰に真っ当に怒られ春日井に呆れられ、プックと頬を膨らます私。

 大分道は逸れてしまっていたが、本日は二週間に一回のスイミングスクール。早く卒業イベントを迎えるためにも、ここは我慢に我慢を重ねて泳ぎを習得しなければ。


「私自身はちゃんと、バタバタ一定の間隔でバタ足していると思っていました」

「そうだな。猫宮さんがやってる動きをして見せるから、よく見てて」


 私の話を聞いた春日井がそう言って少し離れて、その場からスムーズにクロールし始める。しかし腕と呼吸の動きは軽やかであるのに、足がバッタン……バタッ……バタタッ……バタンッと不規則な動きをする。え、私そんな足使いしてるの?


「さすがだな夕紀。亀子まんまだ」

「マジですか」


 どう見ても腰から下は、溺れているようにしか見えませんでした。


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