Episode115-2 素敵イベントの結末
いつからそんな誤解をされ始めたのか定かではないが、皆の認識が一年も前からそう固定されているのならば、今から誤解を解くのは容易ではない。
たっくんは気まずそうに視線を逸らして。
「何か、言ったら二人が気まずくなるような気がして。僕三人で過ごすのが楽しかったから、二人のどっちかが避けるようになっちゃったらって思ったら、言えなかったんだ」
「「拓也(くん)」」
そうか……。たっくんも私達のこと、大好きだもんね……。
たっくんの健気な発言を聞いて、裏エースくんは私を見た。
「俺らのことを知ってる拓也はこう思っていたぞ。で、俺らは俺らで避けるのか? 花蓮、俺と拓也のことを遠くから見守ることになるんだぞ」
「どうして拓也くんと同じクラスの私が見守ること前提なんですか。おかしくないですか。普通逆でしょう。そんなことになったら拓也くんの背中にへばりついて、子泣き爺化しますよ」
「だろ? 俺だって拓也と花蓮の間に割り込むのは、変わんないだろうしなぁ。だからもう放っておきゃいいんじゃないかと思う訳だ、俺は」
「僕もこんなこと言ってる二人が付き合ってるとか言われてるの、最初本当不思議だったよ」
ポツリと遠い目をするたっくんはさておき、裏エースくんの言ったことに真顔になる。
「放っておくとは? 貴方は私達が付き合っていると思われ続けていても、いいと思っているんですか?」
「だって元凶の俺らの態度が変わんなきゃ、どうしようもないだろ。俺も花蓮も拓也から離れるのなんて考えらんないし、かと言って、別にそれで今まで何かあったことあったか? ないだろ。別に思わせたいように思わせときゃいいんじゃねーの」
ううん? 言いたいことは分かるけど、本当にそれでいいのだろうか。
たっくんといつも一緒にいる私だけれど、三人一緒ということは、裏エースくんともいつも一緒ということ。呼び出されるのを何となく見送っていた私だけれどこんなことになっている訳だし、今日はちょっと突っ込んで聞いてみる。
「太刀川くんって、そういう意味で好きな子とかいないんですか?」
言った途端たっくんはギョッとし、裏エースくんは咽た。
「お前、お前突然ぶっこんでくるの相変わらずだな! 何回言えば理解すんだ!」
「貴方こそ相変わらずのカルシウム不足ですよ。毎日牛乳飲んだ方が良いですよ。いえだって、誤解は早々に解いておかないと、太刀川くんに好きな子ができた時にそんな誤解があって困るの、太刀川くんですよ」
「いねぇよそんなヤツ!」
まぁ今はそうだろうけどね。
今後の可能性の話もしているからね、今。
「だって私、貴方が今朝言ったように周りからは高嶺の花のようですし? 私のせいで太刀川くんの好きな子に遠慮されて、振られたみたいなことになったらどうするんですか。中々誤解とけないでしょうし」
「俺の方から好きになることなんてねーよ」
「え?」
不意に言われたそれに目を瞬かせたら、言った本人もハッとしていた。
「つか花蓮だってどうなんだよ。そういうヤツいないのか!?」
「え、私?」
「相手のことを聞いたら自分も聞かれるんだよ、花蓮ちゃん」
キョトンとすればたっくんから常識を説かれた。
おおう、確かにそうである。
「そうですねぇ……。催会参加禁止令出されてますし、私に外での出会いなんてありませんし。学校でだって拓也くんと太刀川くんとずっと一緒なので、元Bクラスの子達以外に話をすることもありませんし。意外かもしれませんが、私にもそういう子はいないんですよねぇ」
「意外でも何でもないな」
「むしろ予想通りとしか言いようがないよ」
え、そうなの? まぁ私のことをよく知っている彼等からすれば、普通にそう思われるか。
「えーじゃあ現状維持ですか? つまらないです」
「つまらないって花蓮ちゃん……」
「何も変わんない今まで通りなんだから、いいだろうが。そこに変な楽しさ求めるなよ。はい話はこれで終わったな。帰るぞ帰るぞー」
そう言ってガタッと椅子から立ち上がって鞄を持つ裏エースくんに私達もそれに倣い、教室から出てスクールバス停まで三人並んで歩いていく。
その並びは裏エースくん・たっくん・私という相変わらずな順番。私が女子ポジの真ん中なんて極稀である。
「あっ。そうです拓也くん! 拓也くんにも好きな子ができたら、ちゃんと教えて下さいね!」
「あっ。そうだぞ拓也! 俺と花蓮のせいで、お前までややこしいことになったら大変だからな!」
「何でこの二人が僕のことをこんなに好きでいてくれるのか、本当にたまに分からないよ」
こうして私達の関係は相変わらずな感じで、変わらずやいのやいのと言い合いながら、騒がしく帰り道を歩くのだった。




