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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―高学年の2年間―
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Episode113-0 衝撃的な誤解

「百合宮嬢それはだね!! 一年生の頃からずっと柚子島くん含めて、三人一緒にいるだろう。しかし体育の授業では、百合宮嬢と太刀川 新で限りなくずっとペア! 百合宮嬢もその可憐で蕾が花開くような笑顔を太刀川 新によく見せているし、太刀川 新も百合宮嬢の前ではいつも楽しそうだ。加えてクラスが離れても、それをものともしない教室通いという、太刀川 新の献身ぶりときたら!! さすがこの僕と双璧を為すと言われているイケてるメンズだね! 百合宮嬢への愛の大きさには、この僕も思わず感心してしまうほどさ! つまりだね、相田嬢はこう言いたかったのだよ。……百合宮嬢と太刀川 新の間は誰も入り込めないほど、ラブラブランデブーであると!!!」


 たっくんと相田さんに聞いたのに、勝手に土門少年がノンストップで語り出した。しかも聞けば聞くほどに、頬が引きつる内容である。


 ……ら、らぶら……何て?


 唖然とする私に、同じく唖然としていた他二人の方が早く復活し、慌てて補足してくる。


「か、花蓮ちゃん! 確かに土門くんが言っていることは、元Bクラスの皆以外がそう思っていてね!」

「分かってるよ! ちゃんと私達は二人がそんな関係じゃないって! でもね、他の子達からはそう見えるんだって!! 四年生の初めに、私も他の子達からよく聞かれたの。あの二人付き合ってるの?って!」


 え。……えっ!?


「ちょ、ちょっと待って下さい。どうしてそんなことになってるんですか!? だって体育のペア以外のことは、私達の間に必ず拓也くんもいましたよ!?」

「僕の存在なんてそんなものだから」

「あっ、卑下しないで下さい拓也くん! ……って、あ! もしかして私がファンレターばかりでラブレター貰えない他の理由って、まさかそういうことだったんですか!?」


 嘘でしょ!? 体育のペアだってお守だし、そりゃ楽しかったら笑うし、私だけじゃなくてたっくんもいるから教室に来るんだし。周りからそんな風に思われてたの!? あれ、でも待って。


「あの。でもそう思われているのなら、どうして太刀川くんを呼び出して告白するんでしょうか? 違いますけど私がいるって、思われているんですよね?」

「それは恋する乙女心だね! 叶わなくとも、最後にせめて想いを伝えて新しい恋を始めたいという、切なる乙女の健気な心だね!」

「なるほど」


 ほうほう、そういう訳ね。


「あとは相手が百合宮さんだからだよ。高位家格のご令嬢で、すっごく可愛い美少女で、歩き方とか食べ方とかもきれいで、性格も良いってなると絶対太刀打ちできないって思うんだって。私ももし好きな人がいて、その人に彼女がいてそれが百合宮さんだったら、絶対敵わないなーって思っちゃうもん」

「え、そんな」

「花蓮ちゃんの場合も同じかな。ただでさえ話し掛けるのにも勇気がいる女の子で、しかも相手が新くんっていうので、絶対無理ってなるって男子が言ってたって、下坂くんから聞いたことあるよ」

「太刀川 新はこの僕と双璧を為すと言われている、イケてるメンズだからね!」


 衝撃の見解と、周囲からのとんでもない誤解に慄いてしまう。


 えぇーっ、なんてこった! 私と裏エースくんはお互い友達で、たっくんを取り合う仲なのに……!


「そんな。こ、これは校内放送して、全校生徒の誤解を解くべきでは」

「待って。それやったら絶対先生に怒られるから」


 だってそれ以外にどうしたらいいの!? 誤解行脚(あんぎゃ)でもする!?

 周囲の誤解に対してどうすべきか頭を悩ませていると、「み、翠ちゃんっ!」と鈴が鳴るような可愛らしい声が聞こえ……って。


「木下さん?」

「香織ちゃん、どうしたの?」


 扉から幼馴染の名前を頑張って呼んだ上がり症の彼女は顔を真っ赤にしながら、タタッと私達のところへとやってくる。何だか仲良しメンバーが続々と集まってきたぞ。

 そして木下さんは相田さんを呼んだものの、どうしたのか顔は私へと向いていて瞳を潤ませている。


「ゆ、百合宮さんっ。どうしよ、太刀川くん困ってる!」

「え?」

「落ち着いて、香織ちゃん。太刀川くんが困ってるの?」


 そう声を掛けた相田さんの言葉に深呼吸して、彼女は話し始めた。


「Bクラスね、五時限目移動教室なの。早めに移動しようと思って歩いてたら、途中で太刀川くんっぽい声が聞こえて。でも苛々してるような声だったから、心配になってちょっと覗いたの。そしたら複数人の女の子に囲まれて、皆から付き合ってあげてって。太刀川くん断ってるんだけど、全然その子達分かってくれないの」

「あの子達、本人が断ってんのに引かないの!?」


 事の次第を聞いた相田さんが眉間に皺を寄せて怒るのに対し、女子限定で優しさを発揮する土門少年までもが。


「おやおや、それはちょっと穏やかではないね。引き際はちゃんと見なければ、それは醜いばかりだよ」

「土門くんがそう言うの、何か意外」

「フッ。イケてるメンズであるこの僕も、太刀川 新に負けず劣らず女子たちから熱い想いを告白されているからね! けれど世界に僕という存在は、たった一人しかいない。多くの女子達を守るという使命があるため、ただ一人の女子に縛られる訳にはいかないのさ!」

「あ、そう……」


 土門少年が女の子から告白されているのは、嘘偽りのない事実である。彼もまた断り続けているから何でだろうとは思っていたが、何ともまぁナルシーな彼らしい理由だった。聞いたたっくんが遠い目をしている。

 しかし相田さんと木下さんの話を聞いて、どうにも素敵イベントではなくなっていそうな今回の呼び出しに、どう裏エースくんを助ければいいのかと頭を悩ませる。


 木下さんは私を見ていたけど今回は私が助けに行ったところで、余計に誤解が深まってマズくなりそうな予感しかしない……。


「土門くんが華麗に乱入して救い出す、というのはダメですか」

「やぁやぁ百合宮嬢! この僕の手は、女子を助けるためにあるのだよ!」


 くっ、何て頼りにならないナルシー! あ、待て言い方を変えよう!

 私は真摯に土門少年へと向き合う。


「いいえ土門くん。これは太刀川くんを救うのではなく、太刀川くんへの熱い想いのせいでどうにかなってしまいそうな女子を救うためなのです。お願いします。女子のために、その手で救ってあげることはできないでしょうか……?」

「なっ、そういうことだったか! すまない百合宮嬢。君の言葉の真意を取り違えてしまった、この僕を許してくれたまえ……!」


 何てチョロいナルシー!


 ガタッと椅子を鳴らして立ち上がった彼は木下さんへ事案場所を聞くと、颯爽と教室を出て行った。


「……ねぇ花蓮ちゃん。僕達も行った方が良い気がする」

「えっ。土門くんだけじゃダメですか? 大人数で行くのも、彼女達の体裁がよろしくないのでは」

「百合宮さん。私、あの子達とちょっとバトッたから分かる。多分土門くん行かせたら火に油」

「えぇっ!?」


 本当に!?


 二人から言われ、取りあえず移動教室で極力揉め事には向かない木下さんに場所だけ聞いて、三人で土門少年の後を追う形で教室から出て目的地へと急ぐ。

 というか土門少年の足、速過ぎない!? あんまり教室出る時間の差なかったのに!


 もう姿形さえも見当たらない行動力の素早さに心の中で悲鳴を上げながら、目的地である、人があまり使用することのない空き教室に近づいたところで。


「関係ない人が出しゃばってこないで!」

「関係あるさ、落ち着きたまえ! いくら太刀川 新のことが好きだと言っても、既にその大きな彼の愛はただ一人の可憐な人にしか、もう向けることはできないのだよ。そんな彼をいつまでも想っているのは、とても苦しく、辛いことだとは思わないかい?」

「何なのこの人!?」


 聞こえてきた諍いに、私を振り向く二人。


「「ほらね」」

「うぅっ」


 だってこれが正解だと思ったんだもん! 正解どころか言ってる内容で、誤解が誤解を生み出していることもこれで分かったよ!


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