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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode109-2 麗花の趣味

 絵と麗花を交互に見ていたら、麗花がグッと眉間に皺を寄せて、眼光鋭く自分が描いたと言う絵を見つめる。


「図工で絵を描くという時間でしたの。テーマは動物で、私は猫を描きましたわ。猫を描く子はたくさんいましたわ。皆かわいい猫でしたわ。私が描いた絵を見て、周囲の子は言いましたわ。『とてもお上手な……サイですね』と」

「なるほど、サイ」

「サイじゃありませんわ!!」


 お上手な……で空間が空いたの、考えたんだろうな。テーマが動物なら、私みたいにカブトムシって言えなかっただろうしな。


 ……これ、これ猫かぁ。どうしてこうなったのかなぁ?


「顔から描いて、最後にしっぽ」

「しっぽから描いて顔ですわ。バランスが悪くなるじゃありませんの」

「麗花お稽古に絵入ってないの? お絵かき教室に行くべきだよ」


 本当に。バランスって、だって半分顔で半分しっぽじゃん。しっぽの面積そんなに要る?


「ねぇ。猫なら三本ヒゲくらい描こうよ」

「あっ。何か足りないと思っておりましたら! 忘れてましたわ」

「ヒゲさえないから誰からも猫として認められないんだよ。しっぽよりヒゲだよ」


 カブトムシやサイになる筈だよ。

 麗花はショックを受けたような顔で私の顔を見つめている。当然のことを言ったまでだよ。


「……西松は、とてもよく描けていますねって。せっかくだから、額に入れて飾りましょうって」


 西松さん気の遣い方マズッてる! 画伯晒し者にしてるから!!


「頑張って描いたんだよね! うんヒゲさえあれば多分猫に見えないこともないよ! 瑠璃ちゃんにカブトムシって言われる前に片づけよう! ね!!」

「猫……。サイ……。カブトムシ……」


 呆然と項垂れる麗花の姿はとても可哀想だが、ちゃんと現実を知っておいた方が彼女のためである。結構高いところにあるので身長が足りないだろうと、後でお手伝いさんに言うことにする。

 それにしても私は運動音痴らしいし、瑠璃ちゃんはスロモ走りとか通り汗無減量だし、麗花は画伯だし……。何かこれで三人とも、何かしらアレなところがあることが分かってしまったな。


 と、項垂れていた麗花がのそのそと机の引き出しから何やらスケッチブックを取り出し、ペン立てと一緒に持ってきた。そしておもむろに、真っ白なページにペンを動かして何かを描き始める。


「麗花?」

「……」


 返事がない。ただし手は動いているので屍ではない。

 話し掛けても反応がないので、手持無沙汰にもらったお土産と一緒にユラユラ左右に揺れていたら、描き終えたようでスケッチブックを提示してきた。


「何に見えます?」

「……えーと」


 カブトムシ二号にしか見えないどうしよう。


 だから頭から角生えてるの何なの? 今度はちゃんとヒゲ描いたのか三本線あるけど、麗花の性格上素直にまた猫を描いたとは思えない。

 あと気になるのは、カブトムシ二号の近くに三角形の何かが別途ある。何だあれ。余計なもの描くな。


 暫く長考ちょうこうした結果、私は微笑んで言った。


「犬かな?」

「ネズミですわ!」

「どこが!?」

「チーズも描いているでしょう!」

「ただの三角形!! はっきり言ってカブトムシ二号!!」

「カブトムシ二号!?」


 あまりの衝撃に耐えきれずバッサリ言ったら、ショックでバサッとスケッチブックを落としていた。悲壮な表情でまたもや見つめられるが、私は心を鬼にしてスケッチブックを手に取り、ペン立てから赤ペンを取り出してピシッと突きつける!


刮目かつもくせよ! 取りあえず頭の上に角は描かない! 何においても頭の上に角は描かない! 角を描いていいのは角がある動物だけ! ネズミの耳はとんがっていない! 丸い! 顔と目しかない! 鼻と口はどこいったの! あとこれはチーズじゃない、三角形! 図形!! アーユーオーケイ!?」

「角じゃなくてしっぽですわ」

「シャラップ!!」


 角にしか見えません!

 こんな絵を生み出してしまう画伯に口答えする資格はありません!!


「いい麗花。確かに芸術は、人それぞれの感性があるよ。芸術は爆発とも言うよ。でもあれは猫でもないし、これはネズミでもないの。麗花が何を描いたのか、分かる人は世界規模で探さないといけないぐらいなレベルなの。日本で一人くらいはいるかもレベルなの」

「日本で一人!?」

「現実はそうなの。あれはカブトムシかサイ、これはカブトムシ二号と図形」

「うそ、うそですわ……っ。しょ、薔之院家の長女たる私が、カブトムシだなんてっ!?」


 麗花がカブトムシとは言ってない。


 あと運動音痴と言われた時の私と反応が一緒。

 だから気持ちは分かる。私も自分が運動音痴とは認めていないから。


「どう、どうして……。私、私はカブトムシですの……?」


 ショック過ぎてマナーの鬼である筈の麗花が、床に寝転がってのの字を書き始めてしまった。あと麗花はカブトムシではない。


「麗花、麗花。麗花がカブトムシじゃなくて、絵がカブトムシだから。起きて。練習しよう練習。ほら、私の学校の運動会の時のことを思い出して。私も練習したらクラウチングスタートできるようになったでしょ。瑠璃ちゃんだって体重はあまり落ちなかったけど、やる度に記録更新していったでしょ。練習してちゃんと皆に分かってもらえるような、猫とネズミ描こう?」

「練習……?」


 のの字を書いていた指をピタリと止め、小さく呟いたと思ったらゆっくりと起き上がる。目を見開いて私の顔を見つめたかと思うと、麗花はだんだんと顔を輝かせ始めた。


「れ、麗花?」

「見つけましたわ、花蓮」


 え、なに? 何を見つけたの?


「私、絵を描くことを趣味にしますわ!」

「どうしてそうなった!?」


 自分が描いた絵がショックで倒れて、その絵を趣味にするってどういうこと!? 貴女の中で何があったのかさっぱり分からないよ!?


「カブトムシやらサイやら図形やら言われてショックでしたけど、それでも絵を描く時は無心でいられましたわ。それに練習と言われて私、イヤじゃありませんでしたもの。ということは私、絵を描くのは好きなのですわ。趣味は好きなことをするものですわよね? だから私の趣味は、絵を描くことですわ!」


 キラキラと瞳を輝かせて嬉しそうにそう言う麗花に、私は何も言えなくなり静かに赤ペンをペン立てに戻した。


 うん、ああまで言われたら仕方ない。麗花に趣味ができたことを喜ぼう。

 そして微笑ましく麗花を見ていたら、彼女は再びスケッチブックを手に取って何か描き始める。早速練習を開始したようだ。温かく見守ろうじゃないか。


「花蓮、描きましたわ! 西松ですの!」

「何でいきなり人間描き出したの。動物より難易度高いし、あと西松さんに角はない! しっぽもないから! 人間の耳は誰もとんがらない!!」


 麗花画伯、人間を描こうなど百年早いわ。


 戻した赤ペンを再度手にせざるを得なくなり、その日私は赤ペン先生をこなすのだった。


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