表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/641

Episode14-1 黒装束の子供との交流

 ここまでのあらすじ。


 友達の麗花に誘われて、渋々参加した仮装ハロウィンパーティ。

 このパーティにて主催者のご令嬢である米河原 瑠璃子のピンチを救い、友達になったところで一人別行動を起こした主人公・花蓮は今、怪しげな風貌の子供に見知らぬ部屋へと連れ込まれ、窮地きゅうちに追い込まれていたとさ。まる。





 ……まるじゃなーいっ!


 何なのさ、一体誰なのさ!?

 ハッ、まさかフランケンの逆襲!?

 フランケンだとモロバレしてるから、変装し直して復讐にやってきたのか!?


 い、いいだろう。

 私だって、小突かれた分のお返しをしなければと考えていたのだ!


「そ、その挑戦、受けて立ちましょう!」

「は?」


 拳を握ってそう子供に宣言すれば、言われた当人は何をするでもなく私と向き合ったまま突っ立っているだけで、行動を起こす素振りは何ら見られなかった。


 ……あれ?


 首を傾げれば、同じように首を傾げる子供。

 あの騒がしいフランケンとは異なったその雰囲気に、何かおかしいと疑問に思ってよく観察すれば、どうも人違いっぽかった。


 子供はフランケンよりも痩せているように見えるし、何より今気がついたが、現在の私はパンダではなかった。

 人間になった姿を知っているのは麗花と瑠璃子さんだけの筈で、パンダではない私を襲う理由がフランケンにはない。


 え、だったらこれは誰だ。


「あ、あなたは……? ……っ」


 問いかけようとして鼻が急にむずついた。

 咄嗟に両手で鼻を押さえて俯く。


 かゆっ。鼻かゆっ。うわっ、鼻水垂れてきた!


 我慢できずに少しだけ鼻をスンッとすすると、子供が急にハッとした様子で何やら慌て始めた。


「す、すまない! その、怯えさせるつもりでは……っ」


 え? なに?

 ちょっと今鼻水止めるのに忙しいんだけど。


 スンッとすすりながら上目遣いに子供……否、少年を見つめると彼は少し動きを止めた後、おもむろに黒装束の中から何かを取り出してこちらに向かってくる。


「……これ」

「?」


 何か渡そうとしてきたので見ると、ハンカチっぽかった。これで鼻かめってこと?


「ありがとうございます……?」


 一応厚意によるものなので恐る恐る受け取ったものの、人前で鼻なんてかめる筈もなく、鼻水が見えないように鼻の上に当てることしかできない。

 ハンカチを受け取ったことに少年はホッとした様子で息を吐いた後、床に座り込んだ。


「え、どうかされました!?」


 急にそんな行動をされたので何かあったかと焦って言えば、少年は軽く首を左右に振る。


「いや。あの、急に引っ張ってきて悪かった。てっきり……」

「てっきり?」

「……何でもない」


 謝罪をしてはくれたが、何かあやふやな感じで終わった。

 そのまま誰も何も喋らないため、シンとした空間に私の鼻をすする音だけが響いて居たたまれない感じになっている。


 さっさと部屋を出てお手洗いに行って鼻を盛大にかみたいところではあるが、このままこの少年を一人置いて行くのは気が引けた。せめて部屋は一緒に出たい。


「あの、パーティ会場には行かないのですか?」

「行かない」


 きっぱり否と即答された。

 行かないって。行かないってアンタ、だったら何で仮装パーティに仮装してやってきたんだ。


 他の参加者は覚えている限りでは社交を気にして顔を隠すような仮装はしておらず、傍目に見て正体が分からないような仮装をしているのは元パンダである私と、この仮面をしている少年のみであろう。

 そんな凝った仮装しといて、行くのを拒否するとはもしかして……会場で何かあった?


 私がパンダだった時は、確かにあの会場内でこの少年を見た覚えはなかった。

 もし私達がパーティ室を出て行った後にやってきたのだとしたら、この正体のわからない少年にあのフランケンが八つ当たりしていたとしてもおかしくない。


 くっそあのフランケンめ!


「……アンタは、行かないのか」

「えっ? あぁ……でも、ここでお一人なのは寂しくありません?」

「気にして残ってるのか?」


 こくりと頷けば少し間があった後、「別に、気にしなくてもいい」と大変無愛想なお言葉を頂戴した。

 気にしなくていいって言われても。


 逆に出て行けず、仕方なしに少年と同じように座りこむと、彼はちらりとこちらに顔を向けた。


「誰か待っていたりしないのか」

「待って……あ」


 瑠璃子さんが心配げな表情で、扉をチラチラ見ている。麗花がまだかまだかと苛々しながら、扉を睨みつけている。そんな二人の様子が頭に浮かび、ちょっぴり焦る。


「い、いえ。少しばかり遅れても広く大きな御心で待ってくださっていることでしょう。ホホホ」


 ダメだ、麗花は待ってないな。

 むしろ遅い!と言って探しにくるタイプだ。


 しかし表面上は何でもないように言ったにも関わらず、少年は私の隠した焦りの感情を見破ったようだった。


「……本当、引っ張ってきて悪かった」

「いえ、あの、お気になさらず」


 自分を責めるような口調に、私の気分も沈んできた。なにこの負のスパイラル。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ