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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode108.5 side 百合宮 奏多⑦-2 探りを入れるだけの予定

「そう。そうだね。詩月くんとしては今どんな感じなのかな。改善していると思う?」


 聞くと彼は目線を下げて、少し考えた様子で。


「改善……と言えるのかは分かりませんが、ちゃんと話をしてみて、どういう人か判断するようにはしています。前は家のこととか、見た目で近づいてくるって思って避けていたので。だから天さんから最初に怒られた時、反省しました。今はもう、天さんのことを考えて手紙を書くのは、俺の数少ない楽しみになっています」


 ポツポツと話しながら、段々と柔らかくなっていく表情に段々と言い出しにくい雰囲気になっていく。


 彼の様子から、文通自体に罪はないようだ。

 どうしてあんな顔をしたんだ妹!


「あの、詩月くん。念のために、参考までに聞いておきたいんだけど。僕以外の百合宮と名のつく人間に会ったこと、ある?」

「ありません」

「だよね」


 考えるまでもない即答に疑うまでもなく同意する。


 妹が参加した数少ない催会でも、今は転校していないあの女子生徒の家のパーティぐらいしか、会う機会はなかった筈だ。そしてそのパーティでも、彼は体調不良で早々に帰宅の途についている。


 ……ん? そう言えば、あの時は体調不良の彼のことを心配する素振りを見せていたな。お見舞い品どうのとも言っていたし。意味不明だな妹。


「ごめん、今のは気にしなくていい。それで文通のことなんだけど」

「はい」


「――天さんが文通やめたいって言い出したらどうする?」


 内心非常にドキドキしながら、努めて普通に聞いた……つもりだが、若干早口になった気がする。


 そして誰かと会話する時に視線は絶対に合わせる僕が、カップの水面を見つめ続けていたことで、自分でもどれだけいま気まずい気持ちになっているかを自覚した。おかしい。僕は冷たい人間の筈。


「……」


 どうしよう。

 返事どころか、衣擦れの音とか呼吸音とかしても良い筈の音を、耳が拾ってこない。


 恐々チラリと視線だけを水面から詩月くんへと移してみて……思わず片手で顔を覆ってしまった。


 ――真っ青な顔してる。


 僕の顔凝視して真っ青な顔してる。どうしよう。

 今日佳月、定期健診で良かった。その場にいたら確実に怒られるやつこれ。


「……呼吸。せめて呼吸してくれるかな」

「お、俺っ。また天さんに何かしてしまったんでしょうか……っ!?」

「待って落ち着いて多分違う」

「多分!!」


 あ、しまった余計なこと言った。


「ど、どこが。何が。なに書いた俺。えっと、去年の今頃の話と劇のことしか……。何が気に障ったのか分からない……!」

「落ち着いて。頼むから本当に落ち着いて」


 本当に何が原因でこうなったのか、さすがの僕もさっぱりだよ。帰宅したら覚えていろ、妹。


 落ち着いて静かに読書をし、たまにちょっかいを掛ける晃星くんをあしらう冷静な姿しか見たことがなかったのに、まさかこんなに取り乱すとは思わなかった。


 それだけで彼にとって文通がどんな存在なのか、聞かなくても解ってしまう。


 どうしたものか。何が「相手には僕からうまく言うから、そこら辺の心配はしなくていいよ」だ僕。全然ダメじゃないか。



『そんなことありません! お兄様はいつだってオールパーフェクツです!』



 ポン、と唐突に妹から言われた言葉が浮かんだ。


 だからさ、あの時は乗せられたけど、僕にだってできないことの一つや二つはあるんだって。


「えっと詩月くん…」

「すみません奏多さん、ちょっと待っていて下さい! 晃星寄こします!」

「えっ」


 探りを入れてみるだけだったのに、えらい反応を返されてやらかしてしまった感をヒシヒシと感じながら、取りあえずどうにかしようと声を掛けたら突然そんなことを言われて、既に遠くなってしまった背を見送るしかなくなった。


 どうしたんだ。

 いや、何で晃星くん寄こす?


 素早い行動に疑問が頭の中を占めていれば、言葉通りにヒョコヒョコと晃星くんがやって来た。


「何か、詩月が奏多さんの話相手してろって言うから来ました。お隣いいですか?」

「あ、うん。どうぞ」


 話し相手。あ、なるほど。


 ちなみに憧れとか尊敬の目で見られて、たまに麗花ちゃんと話す以外に、下級生とはあまり話をすることがない。というか、向こうから話し掛けてくることがない。

 まぁ学年も離れているし、他の高学年に遠慮しているというのもあるのだろうけど。


 ……しまったな。

 普段の会話で妹の他というと、麗花ちゃんや瑠璃子ちゃんくらいしか話したことないから、この年の男の子との日常会話なんてさっぱりだ。

 

 用事がある時しか声を掛けなかったツケが、回って来ている気がする。ダメだ。何となく自覚はあったが、社交以外の対人能力ポンコツだ。どうしよう。


「奏多さん。さっき詩月となに話していたんですか?」


 カップに口をつけて紅茶を飲む振りをして会話内容を模索していたら、こちらもまたあどけない顔にワクワクを乗せた表情で聞いてくる。


 聞かれ、ありのままを話すのはどうなのか。

 彼は文通のことを知っているのか。


「もしかして、随分前からやっている文通のことですか?」


 知っていたようだ。


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