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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode108.5 side 百合宮 奏多⑦-1 探りを入れるだけの予定

 声を掛けられて顔を向ければ、探し人が何やらソファの後ろから彼の従兄弟とともに出てきた。


「こんにちは」

「こんにちは。……そんなところで何してたの?」


 聞くと彼――詩月くんは眉を寄せて隣の従兄弟を見、従兄弟――晃星くんはにへら~と笑っていた。


「えっへへ。薔之院さんがたまに忍くんとこうして話をしているから、どんな感じかと思って」

「しつこ過ぎて断れなかったんです。しつこいのは筋金入りなので」

「詩月ひどい!」


 知らなかった。

 麗花ちゃん、たまにそんなことをしているのか。妹の影響だったらどうしよう。


「で、どうだった?」

「ん~。内緒話するみたいで、ちょっとだけ楽しかったです」

「俺は全然楽しくなかった。相手が晃星だから時間の無駄」

「いつにも増してひどくない!?」


 相変わらず仲が良い従兄弟同士で何よりだ。

 そう言えば今は麗花ちゃんもいないし、四家中この二人しか……あ、そうか。今日ってスイミングスクールの日だっけ。


 母や妹からも話を聞くが、どうも緋凰くんにも教えてもらうことになったらしい。

 ただ、母の前ではにこやかにその日の練習の話をしているが、僕と二人になるとブチブチブチブチ愚痴を言ってくる。



『聞いて下さいお兄様! さっきはああ言いましたが、あの鬼……いえ緋凰さま、ちょっと呼吸する時に出す腕側の方向に顔を向けただけで、「宇宙人! どうやったらンな器用なことができるんだ! 人外行動を晒して何がしたい!?」とか言ったんですよ!? 何がしたいって、泳げるようになりたいに決まっているじゃないですか! そんなことで私の先生が務まると思っているんでしょうかあの鬼……緋凰さまは!!』



 僕の腕をバンバン叩きながら愚痴られた、最新の妹の愚痴である。


 緋凰くんのことをあの鬼って二回も言う女子は、この学院中探しても誰もいないだろう。というか妹の愚痴を聞くたびに意外な緋凰くんと夕紀くんの一面が知れて、僕としては面白かったりする。まぁ仲が良いようで何より、と言う他ない。


 そんなことを思い出しながら、詩月くんへと声を掛ける。


「佳月はもう帰った?」

「あ、はい。今日は定期健診の日なので」

「そっか」

「兄さんにご用事ですか?」


 見上げてくるあどけない顔を、今更ながらまじまじと見つめる。


 うーん、去年よりも何だか綺麗さが増したような気がする。よく見てなかったけど。これは同学年、いや低学年あたりは騒ぐだろうな。六年生でも女子が可愛いって言うのを、たまに聞くし。


 何も言わずまじまじと見ていたからか、どこか居心地の悪そうな仕草をされてニコリと微笑む。


「いや。今日は佳月じゃなくて、詩月くんに用事があるんだ。ちょっと付いて来てくれるかな?」

「えっ。あ、はい」

「ごめん晃星くん。ちょっと詩月くん借りるね」

「いえいえ、どうぞどうぞ」


 ソファに座って手を振る晃星くんから視線を外して、詩月くんを連れて高学年のスペース……僕と佳月がよく座る席へと腰を下ろす。


 高学年のスペースに足を踏み入れるとあって緊張したような面持ちになる彼に、隣への着席を勧めればおずおずと座ったので、給仕を呼んで取りあえず紅茶を頼む。

 今日は珍しく高学年の方はまばらだったので、人が少ない席に特に移動しなくても良かった。


 紅茶を待っている間、待ち切れなかったのか詩月くんが「あの、」と自分の制服のズボンを握って、僕へと顔を上げた。


「兄さんじゃなくて、俺に用事って」

「うん。直接聞きたいことがあってね。文通のことなんだけど」

「!」


 文通、と言った瞬間、表情が変わった。


 ――例えるならば玄関扉を開けた先、玄関で待っていた妹が僕を見つけた時のような。


「天さんからのお返事ですか!?」

「……いや、手紙はまだなんだけど」

「そうですか……」


 否定したら、明らかに落ちた声を出された。


 いつも佳月に手渡していて本人に直接っていうことがなかったから、正直驚いた。


 すごく妹の手紙待ってるっぽい。今回の相談内容そんなに大事なことなのか……いや、妹からは今回は相談事はなくて、近況だけだったって聞いている。


 文通、すごく楽しみにしているのか……。

 どうしよう。聞きたいこと聞いた時の反応が怖くなってきた。


 けれど佳月の名字を聞いて、知った瞬間の妹の顔と様子を思えば、聞いておいた方がいい。

 丁度紅茶が運ばれてきて互いに口をつけて、詩月くんがカップをソーサーに置いた時を見計らい、口を開く。


「文通を始めた理由は、佳月から聞いているね?」


 普通の声で尋ねたはずだが、何故かピンと背筋を伸ばされた。


「……はい。俺の、人と接する時の態度を改善するためと」

「ん?」


 おい佳月、どういうことだ。

 何か僕が聞いているのと趣旨が異なっているぞ。


 女の子に対してすこぶる素っ気ない、キツイ、だから仲良くしてほしいじゃなかったのか? まぁ人と接する時の、と言われると間違ってはいない気もするが、範囲が広くなり過ぎだ。


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