Episode108-1 リーフさんのことを
大きな行事であった演劇発表会も終わり、寒さが本格化してきた師走である十二月。
この時期になると、もう皆クリスマスや冬休みの話題で持ちきりで、授業も特別授業だった四時限目は本来の普通の教科へと戻った。
まだ雪が降るほどには至っていないけれど、もうすぐ一年が終わるということで、去年の今頃は何してたかなぁと思う。
「う~んと、雪が降っているの見て歌ってたような気がする……。あ、あとリーフさんの初相談受けた!」
ピコン!と豆電球が光ったが如く、唐突に思い出した。
そう。あの時はとても素敵な写真を貰って、親戚の女の子のお誕生日プレゼントについての相談をされたのだ。その後の返信としては、沢山の案をありがとうって書いてくれていた。
「リーフさん、今年のお正月もフランスに行くのかな? フランスと言えば麗花のご両親もいるところだね! あ。麗花、冬休みはどうするんだろ」
夏休みはこっちでダイエット訓練したけど、さすがに会いたいよね。学院でもファヴォリ! お手本!って言って背伸びしてるけど、まだまだ甘えたいお年頃だよね。
私だって修学旅行で二日間半お兄様と会えなかっただけで、もの凄く寂しかったもん。冬休みかぁ……。
現在自室にて一人、カーペットの上をゴロンゴロン転がって移動中。あまりやり過ぎると目が回るけど、一人の時は結構よくやっているのでちょっと転がったくらいじゃ目を回さない。
フッ、お母様とお兄様にはバレていない……。
おっとそうそう、麗花のことで脱線したけどリーフさんリーフさん。
彼とはずっとこの一年と半年くらい文通を続けてきたけれど、これは一体いつまで続けるのか。
始めた頃はリーフさんが女の子に慣れるようにって話で始めたけど、明確にいつまでっていうのは決めていなかった。
「女の子に慣れる。慣れる。慣れる……?」
はて。何を以ってして慣れるというのか。
うう~ん?
「素っ気ない態度で、泣かせるってことだったような? でも文通、全然そんな感じの子っぽくないもんね。相談もしてくれるし、し返してもらってもいるし。……ということは、卒業?」
そっか。
女の子慣れしたらリーフさんとの文通、終わっちゃうんだよね……。
そう思ったらちょっと寂しい。
私は仲良くなれたんじゃないかなって思うけど、リーフさんは私のことをどう思っているんだろう? 女の子慣れしても文通、続けてくれるのかな?
何だか気になったらいても経ってもいられなくなって、お兄様の部屋へと直行した。
見るとお勉強をしていたようで、机の上には参考書とノートなどの勉強道具一式が広がっている。うっ、邪魔してごめんなさい!
ベッドの上に座る私へと、デスクチェアに腰掛けたお兄様の顔が向く。
「それで? どうかした?」
「えっとあの、リーフさんとの文通のことなのですが」
「あぁ。そう言えば、今回は花蓮の番だっけ? もう書いた?」
そう、私がリーフさんへお手紙を書く番なのだ。
「いえ、まだ書いていないです。あの、これリーフさんが女の子に慣れるようにって始めた文通じゃないですか。始めてから結構経ちますけど、何をどうしたら終わるのかなって思いまして。今回まででリーフさん、もう最初に聞いていたような子じゃなくなっていると思うんです。文通続ける度に素敵な子だなって思いますし。文通だけで会ったこともありませんけど、仲良くなれたと思っています。だから、最初の女の子に慣れるまでって、どうなったらなのかなって」
耳を傾けて話を聞いたお兄様は顎に手を当てて、目線を少し下げた。
「……そう言えば明確に決めてなかったな。サロンで見る分には必要最低限って気がするし、頭の良い子だから社交の場に出ても、切り抜け方はすぐに覚えただろうし」
「ん? え、サロン? リーフさん、ファヴォリなんですか?」
「そうだけど。言ってなかった?」
「お兄様のお友達の弟さまとしか聞いてないです!」
文通でもそんな話しなかったもの!
ファヴォリ!?
ファヴォリといえばダメなヤツがいっぱい……いや、前にも考えたけど緋凰も春日井も秋苑寺も有り得ないし、白鴎だって……、…………?
「……お兄様」
「なに?」
どうして今まで気にならなかったんだろう。
《《あの頃》》は顔面ダイブの影響で、情緒不安定の烙印を押されていた私。間もない頃、白鴎の生誕パーティへの出席をしつこく誘われていた。
どちらの家もデリケートな話題だが健康という面で通じているから、もしそうなら、家族間の話題として上がっても良い筈なのに。運動会の時に言っていた。
『元々体が弱くて。ドクターストップかかっているから、今日一日保健委員なんだ』
どうしよう。
もし、《《そう》》だったのなら。
「花蓮?」
「――佳月さまのお名前、何ですか?」
目を合わせて口に出した言葉は、想像以上に平淡だった。そんな声だったから驚いたのだろう、お兄様の目が丸くなる。
お兄様は紹介する時に名字を言わなかった。
どうしてなのか。
もし文通している相手が《《そう》》なのなら、私は。
リーフさんを素敵な子だと、仲良くなれたと。
そう思い感じている私は。
「白鴎。――白鴎 佳月だよ」
私、は。




