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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode107-2 演劇発表会観劇

 裏エースくんはここで本来はその剣で無抵抗の私をボコボコにして、『どうした野獣め! 優しくなり過ぎて、戦う勇気もないのか!』と言わなければいけなかった。


『おい、立て野獣。そんな腑抜けたヤツにベルは渡せない。あいつは俺がもらう!』

『!!』


 バッと顔を上げた野獣がその時見たものは、正々堂々と剣を構えるガストンの姿で。


『やめて!』

『ベル!!』


 ガストンが出てきた舞台袖からベルが出てきて叫んだ瞬間、ガストンが走り出す。剣を振りかぶるガストンの攻撃を、愛しいベルの姿を見た野獣が素早く立ち上がって、素手で掴んで止めた。


『ベルと恋に落ちたのか野獣! 俺がいるのに、ベルがお前なんかを愛してくれると信じているのか!? ベルは俺のものだ!!』

『ふざけるな!!』


 この時は本気で頭きた。


 誰が誰のものだと!? 男女皆に好かれているのに、相思相愛の私達を引き裂くつもりか裏エースくんめ!とか思っていました。はい。


 掴んだ剣ごとガストンを投げ払う――振りをして、投げ払われた振りをしたガストンの服を掴み崖の方へと押していく。


『や、やめてくれ! 頼む、乱暴はよせ。何でもする! 助けてくれ!!』

『――……』


 必死に命の懇願をするガストンを見下ろし、一度ベルを振り向く。ベルは胸の前で両手を握って、フルフルと首を振った。それを見た野獣はゆっくりと首を戻し、そして――服を握る手を、離した。


『この城から。俺とベルの前から出て行け!! ――ベル!』


 走り寄ってくるベルへと振り向き、また野獣も駆け寄って彼女……ん? 彼?を強く抱きしめる。


『……戻って、くれたんだね』

『当たり前じゃないっ』

『ベル、っ、ぐっ!』


 軽い衝撃を受けて見れば、背の腹部にナイフが(後ろにポッケが付いていて中に入れた)。

 気力を振り絞り腕を振り払って、野獣はガストンを崖へと落とした。


『うわあぁぁーーーーっ』


 悲鳴を上げながら最後の出番を終えたガストンは、そのまま舞台袖へと消えて行った。


『そんな。こんなことって!』


 ナイフが深々と刺さり重傷を負った野獣は、ベルの目の前で仰向けに倒れる。青い顔で震えるベルに、野獣は優しく微笑んだ。


『……死ぬ前に、君にもう一度会えて、よかった』

『そっ!? そんなこと言わないで!! きっと、きっと助かるわ!』


 力なく落ちた野獣の手を握りしめたベルが、その手を彼女……彼の頬へと寄せる。


『まだ君に伝えてなかったことがある。最後に、ベル。――――愛してるよ』


 愛おしく、砂糖に蜂蜜を垂らすように甘く告げた瞬間、ベルは目を見開き。

 そして、とても嬉しそうに微笑んだ。


『私もよ……』


 お互いの愛を告げ合った瞬間、天井からバラの花弁が一枚、ヒラヒラと落ちてゆく。舞台が暗がりに包まれて、スポットライトがパッと照らされた時。

 お面もなく髪も高くポニーテールに結いあげた一人の王子さまがおり、そっとその瞳を開いた。


『ベル……?』

『あ……』


 手を持ち上げて、恐る恐る自身の顔へと触れる。


『ベルっ! 戻ったよ! 本当の私の姿に!!』

『ケガは!? 何も、何もない……?』

『あぁ、大丈夫だよ。ベル、私の名前はアダム。名前を呼んで欲しい』

『アダムさま……!!』

『ベル!!』


 抱き合うベルと王子さま。


 そして彼等の愛を祝福しようとお面軍団が舞台袖からパッと出てきて、付けていたお面を呪いの解放を示すように、上へと放り投げた。

 祝福の言葉がかけられ、元ロウソクが指揮を取り、皆リコーダーを吹く構えになる。そして演奏され始めるキラキラ星。


『さぁ、踊ろうベル! 愛おしく優しい、私のお姫さまよ』

『はい!』


 手と手を取り合い、笑顔でワルツを踊り始めるベルと野獣を中心に、舞台の外側から少しずつ照明が消されていき。


 そして最後まで二人は踊り続けながら、舞台の幕は降ろされたのだった――……。





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





 終わった……。

 感動的な美女と野獣が終わった……。


 いやもう本当ね、やっている間は全然気にならなかったんだけど、終わってその日寝る時になって急に夢から覚めたというか。いや寝てもないのに覚めるっておかしな表現だけど、そうだったんだもの。


 ハッとした。

 めっちゃアドリブしてた私って。


 でも幕が降りて遮断されても聞こえてきた大きな拍手の音に、けれど成功したんだって思った。クラスの皆だってホッとして、笑顔で抱き合っていたし。私も皆と一緒にきゃーってなったのだ。帰宅してすぐに、お父様もお母様もとても褒めてくれたし。


「皆どうだった……あれ?」


 隣とその隣に感想を聞こうと思って見れば、麗花は呆然とし、瑠璃ちゃんは手で口元を押さえてポロポロと静かに涙を流していた。


「ど、どうしたの!? えっ!? 麗花? 瑠璃ちゃん??」

「何か……とても感動的でしたわ……」

「わ、私も。すごく、すごく悲しくて、嬉しくて。色々感情が溢れちゃった……」

「そんなに!?」


 自分で感動的なとかさっき思ったけど、実はあれちょっとおふざけで浮かんだ感あるからね!? 


 慌てて備え付けのティッシュを抜き取って、瑠璃ちゃんに渡す。


「花蓮ちゃんっ! すごかった……!」

「えっと、ありがとう」

「素晴らしかったですわ、とても。演劇の才能がありますわ!」

「えっ。えへへ……」


 褒め言葉のオンパレードしか返ってこなくて、普通に気恥かしい。ニヤけそうになる頬を頑張って引き締めていると。


「緋凰さまと張り合えるのではなくて? それくらい素晴らしい演技でしたわ!」

「え」


 麗花の言った言葉に、引き締めていた頬が引きつった。


 待って。え、それって私、演技レベルあいつと同じってこと? 上手過ぎて引く協調性皆無レベルなの!? いやあぁぁ!! デーモンレターの項目を忠実に守るんじゃなかったあぁぁ!!


「いや、僕もびっくりした。スクリーンから目が離せなくて、その世界に引き込まれたよ。父さんと母さんがあれだけ褒めていたのも分かるな」


 お兄様まで感心したように頷きながら褒めてくれるうぅぅ! 嬉しいけどあの発言の後に聞いたら素直に喜べなあぁぁい!


 しかしながらお手伝いさん達からも絶賛の嵐で、「将来は緋凰家の奥さまのような女優を目指されては!?」とまで言われてしまった。


 緋凰夫人を目指すのはちょっと、その息子が絡んできたらとってもイヤなので遠慮します……。


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